「犬に食べさせてはならない食材」のホントのところ

うっかり目を離した隙に愛犬が普段とは違う何かを食べてしまったとき、慌てて検索してたどり着いたインターネットメディア等でよく目にする「犬に食べさせてはならない食材」について。

そういった世の中に溢れる情報のなかには、正確な情報もあれば、根拠も不明確でいたずらに飼い主の皆さんを不安にさせてしまうような情報も多いのが実情ではないでしょうか。

そこで今回は「犬に食べさせてはならない食材」のホントのところについて、「愛犬のための “ご褒美” ご飯」を監修いただいているペット食育協会(R)(Alternative Pet Nutrition Association;APNA [エイプナ] )の伊藤大輔 上級指導士からお話を伺いました。


伊藤大輔 上級指導士|ペット食育協会

【編集部】はじめまして。「犬に食べさせてはならない食材」のお話に移る前に、伊藤先生のお仕事やご経歴について教えてください。

はじめまして。普段は複数の動物病院で心臓病の犬猫を診察したり、ペット食育協会などのセミナーを通じて、飼い主の皆さんに対する情報発信をしています。セミナーではペットの食育に限らず、ペットとの暮らし全般についてお話しさせていただいています。

1978年6月生まれ。生まれは愛知、北里大学の獣医(畜産)学部出身です。もともと小さい頃から犬がいる生活をしていて、高校時代に獣医師になろうと決めました。普通に開業して街の動物病院をやろうと思っていたのですが、就職した病院で心臓病ばかり診ていた延長で、今のような仕事のスタイルになりました。心臓に集中しすぎて、他の科目はもう診れません(笑)。

【編集部】ペットの食育に興味を持ったきっかけは?

大学の卒論執筆のため、心臓薬の効き目の研究をしていたときのことです。お薬の中には、病気が悪化していく過程を食い止めてくれるものがあります。しかし、その悪化の過程は多岐に渡るため、人為的にどこかを通行止めにしても、他のルートで病気が進行していき、根本的な解決にはなりません。お薬だけに頼って治療を考えるのではなく、生き物が自分でバランス良く治ろうとする力をサポートする視点も重要なのではと考えるようになりました。その頃に須崎先生(ペット食育協会会長)の本を読み、食事によって自然治癒力をサポートする考え方を知りました。獣医師になってからは、実際にお会いして色々と学ばせて頂き、ペット食育協会立ち上げの際には講師としてお声がけ頂きました。

もうひとつ、獣医師になって間もない頃に、母が癌で余命宣告されたんです。一般の西洋医学でやれることは、もうあまり無いと。だからといって諦めたくはなかったので、僕が他の治療法を勉強し、それに基いて、地元で家族が母の看病をするという形を取りました。そのときに色々な民間療法やホリスティックケア、食事療法を試しました。当時の経験が、動物の食事療法にもつながり生かされています。

犬に食べさせてはならない食材?

【編集部】本日は一般的によく目にする玉ネギやチョコレートなど、「犬に食べさせてはならない食材」のホントのところを伺いたいのですが、まずコレは間違いなく食べさせてはならないというものはありますか?

まず、いわゆる「食べさせるものではないもの」はダメですね。皆さんが一般的に「食べ物」と認識していないもの。焼き鳥の串なんかが一例ですが、ネットで「〜〜は与えていけない食材!」と書いてある中には、「そもそも食材ですか?」というものもあるのです。口に入れられるものが全て食材とは限りませんから、区別する必要があります。

【編集部】逆に「食べ物」であれば、犬に食べさせても良いのでしょうか?

それは個々の状況と価値観次第だと考えています。

大前提として、気になって不安な食材があるなら、無理に食べさせる必要はありません。

一方で、中身やリスクも分かった上で食べさせるのは構わないと思います。

例えば、犬にはNGと言われている代表的な食材である玉ネギやネギも、問題を起こす子がいる一方で、食べても大丈夫な子も多いのです。以前、ある飼い主さんから、「実家がネギ農家です。農作業に連れて行った犬が、何年もネギを食べまくっているけど大丈夫?」と質問されました。ずっと元気にやっているなら、そんなに心配要らないですよと答えています。

【編集部】「中身やリスクもわかった上で食べさせる」ということについて、もう少し詳しく教えてください。

一例として、犬にはNGと言われている成分のキシリトール。レタスにもキシリトールが含まれているが大丈夫か?という質問があります。

実際に計算してみると、キシリトール中毒を起こすためには、犬は自分の体重の2倍近いレタスを食べる必要があると分かります。そんなに食べられないですよね?(笑)きちんと調べると案外たいしたことない、慌てなくて良いものもあるのです。

このように、食事の危険性を考える上で重要なのは、中身となる「程度」の情報です。「可能性がある」「危険性がある」「おそれがある」だけでは何の判断も出来ません。実は皆が安全だと思っている全ての食材に健康被害の可能性と危険性とおそれがありますので、「万が一」が絶対に許容出来ないのなら、動物には何も食事を与えないのが一番の正解になってしまいます。

安全か危険かの二択的な考え方は役に立ちません。どの程度の量を食べたら、どれくらいの確率で、どの程度のことが起こるのか、そういった「程度」も含めて判断することが大切です。その結果、安全だと判断した人が、自分の犬に食べさせる。または、危険性が高いと判断した人は食べさせない。過程がしっかりしていれば、結論は個人の自由です。しかし、自分の結論を他の飼い主さんに押し付ける必要はないと思います。

【編集部】「押し付ける」というのは?

ある人が、「万が一」の可能性を考慮して、自分の犬に食べさせないという選択をするのはもちろん自由ですが、食べさせている他人を声高に非難するのはどうかと思うのです。

例えば、こんにゃくゼリーを喉に詰まらせて亡くなった人がいるから、こんにゃくゼリーは販売中止。以前、こんな話がありました。しかし、同時に「全ての人が喉に詰まらせるわけではない。個人の判断と価値観で選べるようにすべきで、一律に規制するのはおかしい」という声もありました。

同じ理屈で、危険性の程度を正しく理解し、個人の判断と価値観でペットに色々な食材をあげている人に対して、周囲が是非を押し付けなくても良いのではと感じます。

また、そこまでいかなくても、善意で発信した「これはNG食材!〜〜の危険性がある!」という情報が、他の飼い主さんを必要以上に不安にさせ、追い込んでしまうケースもあります。今は一般の飼い主でもネットでお手軽に情報発信が出来る時代ですから、自分が他人をおびやかす加害者にならないようにも注意して欲しいと思います。

飼い主さん達が余計な不安を抱え込むことのないように、世の中の情報や噂を検証し、適切な情報を提供していくことも、ペット食育協会の重要な役割の一つと考えています。

【編集部】どういった情報の検証を行っているのですか?

世の中に流れている情報の元となった一次情報、この場合は過去の学術論文を一つ一つ読み解いて、専門家として判断した上で伝えていくといったことです。

一般論として、元の情報から離れるほど、伝言ゲームの要領で内容は変わっていきます。自分が目にした情報が「最初の一次情報を、どれだけ正確に伝えているか」という視点は重要です。

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例を挙げると、ブドウやレーズンは犬の急性腎不全の原因になると言われ、NG食材扱いされています。この話は、2001年にアメリカの動物中毒管理センターから出された症例報告が発端です。その後、アメリカだけでなく、イギリス、日本、韓国など、各国からのブドウ・レーズン中毒の報告が続いています。なので、論文による報告があることは間違いありません。しかし、これらの報告をちゃんと読み、正しく内容を解釈した上で、伝えている情報は少ないという印象を持っています。

伊藤 上級指導士によれば、ブドウやレーズンの中毒に関する報告は以下のようなものがあるそうです。

Renal failure associated with ingestion of grapes or raisins in dogs.
J Am Vet Med Assoc. 2001 May 15;218(10):1555-6.
Gwaltney-Brant S, Holding JK, Donaldson CW, Eubig PA, Khan SA.

Raisin poisoning in a dog.
Vet Rec. 2003 Mar 8;152(10):308.
Penny D, Henderson SM, Brown PJ.

Raisin poisoning in dogs.
Vet Rec. 2003 Mar 22;152(12):376.
Campbell A, Bates N.

Acute renal failure associated with raisin or grape ingestion in 4 dogs.
J Vet Emerg Crit Care 2004;14:203–212..
Mazzaferro EM, Eubig PA, Hackett TB, et al.

Canine renal pathology associated with grape or raisin ingestion: 10 cases.
J Vet Diagn Invest. 2005 May;17(3):223-31.
Morrow CM1, Valli VE, Volmer PA, Eubig PA.

Acute renal failure in dogs after the ingestion of grapes or raisins: a retrospective evaluation of 43 dogs (1992-2002).
J Vet Intern Med. 2005 Sep-Oct;19(5):663-74.
Eubig PA1, Brady MS, Gwaltney-Brant SM, Khan SA, Mazzaferro EM, Morrow CM.

ブドウ摂取後に急性腎不全を発症して死亡した犬の1例
日本小動物獣医師会誌 63,875~877(2010)
伊東輝夫、西 敦子、池田文子、串間栄子、串間清隆、内田和幸、椎 宏樹

Natural occurrence of grape poisoning in two dogs.
J Vet Med Sci. 2011 Feb;73(2):275-7. Epub 2010 Oct 12.
Yoon SS1, Byun JW, Kim MJ, Bae YC, Shin YK, Yoon S, Lee G, Song JY.

【編集部】一般的な飼い主の皆さんがそういった情報を全て検証するというのは現実的ではないですね。

そうですね。全ての論文を入手して読み込むのは難しいでしょう。しかも、そういった学術論文を発表している専門の先生方が、一般の飼い主さん達と直接やりとり出来る機会は多くありません。飼い主さんは、専門家が発した情報を、伝言ゲームの最後の方でしか聞くことができず、捻じ曲がった形で受け取りがちです。その専門家と飼い主さんの間に入り、正しく情報を伝え、繋いでいくことは大切な仕事だと思っています。

手前味噌ですが、専門的な内容を一般の方々にも分かりやすく説明することは得意です。心臓専門ではなく、「口先専門医」と呼ばれることもあるくらいですから(笑)。

【編集部】最後に『INU MAGAZINE(イヌマガジン)』読者の皆さんへのメッセージをお願いします。 

食事だけにとらわれず、何よりも犬と暮らすことを楽しんでほしいですね。

食事の価値は健康になれるかどうかだけではなく、美味しく楽しく食べられる、作ることを楽しめる、など多岐に渡るはずです。

思い返せば、僕が子ども時代に親から食べさせてもらった食事は、健康に良いものばかりではありませんでした。でも、もし仮に、親が「我が子にもっと健康に良いものを食べさせておけば良かった」と後悔するなら、僕は「与えてもらった食事内容を不満には思っていないし、むしろ感謝しているから後悔しないで欲しい」と伝えます。

犬と飼い主においても同じことが言えないでしょうか。

情報や噂に流され過ぎて、わたしは飼い主失格だ…といった風に思い悩んでしまい、犬との毎日を楽しめないのは悲しいことです。

食事は大切な要素ですが、犬の健康は様々なものの影響を受けます。食事という一点だけで努力しても、幸せな結果が得られるとは限りません。

今回の「犬に食べさせてはならない食材」というテーマについても、色々な情報や噂が出回っています。知識だけ豊富なマニュアル人間になり、「あれもダメ、これもダメ」とストレスの多い毎日を過ごすのではなく、情報の中身を自分の頭で吟味して、犬も人も一番楽しく幸せに暮らせる選択肢を選んで欲しいと考えています。

飼い主の皆さんが幅広い視野を持ち、適切な情報に触れながら、犬との暮らしをそれぞれに模索することで、結果的に犬達もハッピーになるというのが理想ですね。

もっと詳しいお話を聞きたい人は

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ペット食育協会(R)(Alternative Pet Nutrition Association;APNA [エイプナ] )」は、「流派にとらわれずにペットの栄養学や食に関する知識を学び、ペットの食事内容を飼い主が自信を持って選択できる判断力を身につけるために必要な情報の普及」を目的とし、2008年(平成20年)1月15日に設立されました。

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ペットの正しい食事についてより詳しく知りたいという方に向けて、ペット食育協会(R)認定のペット食育指導士(R)が全国でペット食育講座(入門講座)を開催しています。

さらに、ペット食育講座(入門講座)を受講された方には、ペット食育士認定講座(2級→1級)やペット食育指導士養成講座(准指導士→指導士→上級指導士)といった豊富なカリキュラムが用意されています。

以下に当てはまる愛犬家の皆さんは是非チェックしてみてくださいね。

  • 今までペットの食事について意識したことがない方
  •  ペットの食事や栄養学についてこれから学び始めたい方
  •  断片的に知ってはいるけれど、自信を持ちきれない方
  •  手作り食がいいのか、ペットフードが良いのかわからない方

 

また、今回ご紹介した「犬に食べさせてはならない食材」に特化した講座も順次準備中ですので、詳細はペット食育協会へお問い合わせください。