「自分らしく暮らす、家の話をしよう」がコンセプトの暮らしと家を考える人のためのWEBメディア “KLASIC|クラシック” からの寄稿記事です。
作った人:前田 敦
Tさんご夫婦にとって、かけがえのない家族であるトイプードルのラプレくんとレフアちゃん。人も犬も、大切な家族全員が楽しく暮らせる住まいを構えようと、Tさんご夫婦は30m以上もあるスロープで囲まれた家を建てることにしました。
スロープのある住まいが理想をカタチにした
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建物の周囲をスロープが囲んでいるかたちが分かりやすいように、モデルプランでは廊下をガラス張りに。すべては、このプランから始まった。
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玄関を起点に半階ずつスロープをのぼっていく。終着点は客間。住む前は人には不便かもしれないと思っていたが、意外と住みやすかったとの感想も。
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全長31mのスロープは、さながら立体的なドッグラン。ゆるやかな坂と滑りにくいカーペットで、家じゅうを駆け巡れる。
お子さんのいない夫婦共働き、いわゆるDINKSのTさんご夫婦。日常留守番してくれている愛犬達が快適に過ごせるような家を建てたい。そんなおふたりにとって、建築家の前田さんが提案していたペット共生住宅のモデルプランは理想的なものだった。
提案されていたプランはダックスフントと暮らす家。足の短いダックスフントは人間と同じ階段をのぼると背中がそってしまい、無理な姿勢を続けるとヘルニアを患うこともある。そんな彼らでも家じゅう自由に移動できるよう、階段をなくしてスロープで部屋をつなぐというものだった。中庭を挟んで2棟の建物の外周を、スロープ状の廊下でぐるりと取り囲むユニークなかたち。雑誌の特集ということで敷地条件にとらわれず思い切って提案したプランは反響も大きかった。しかし、長いスロープは場所をとる。このプランの実現を願いながら敷地の問題で断念した例も複数あったという。
T邸でこれが実現したのは、条件に合う土地探しから始めたから。ご夫婦は前田さんに相談しながら、この家が建てられる広い敷地を確保した。Tさんご夫婦の愛犬はトイプードルだが、トイプードルも関節がかたく、人間サイズの階段では体をいためやすい。スロープで部屋を移動できる家はT家の2匹にも適したプランだった。
家族である愛犬と目線を合わせられる住まい
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ペット用も既製の洗面台を利用しているので、スッキリしたおさまりに。
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洗面室への入り口にはペット用のドアも。初めて新しい家に入った愛犬に「ここは開くんだよ」と教えているところ。
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玄関収納と並べてペット用トイレを設置。換気扇がつけてあるため、ニオイがこもらない。
他にも多数ペットと暮らす家を手がけてきた前田さんによれば、ペット共生住宅で大事なのは床とトイレと足洗い。フローリングの床は特殊な塗料で滑りにくくした。「加齢でふんばれなくなり、足をいためる犬は多いんです。塗料をぬると、人が靴下で立っても滑らないほどグリップが効きます。また、そそうをしても床下までしみこまず下地を傷めないというメリットもあります」と前田さん。上り坂になっているスロープは裏にゴムのついたタイルカーペットを採用。こちらも足が滑りにくく、汚れてもそこだけ取り替えればいい。「トイレも重要です。家族のなかにペットが嫌いな人がいる場合には特に配慮が必要ですね。Tさんご夫婦はどちらもお好きでしたが、玄関先にペット用トイレをつくったので、換気扇をつけて、におい対策もしました」足洗いは洗う人の負担も考え、人が使う洗面台の隣に深めの洗面ボウルをつけることに。ノズルがのばせるシャワーもついていて、腰を曲げずに洗ってあげることができる。
犬と人の健康を守る細やかな配慮に加え、犬とのコミュニケーションが楽しめるしかけもある。半地下のダイニングは中庭で遊ぶ愛犬たちの視線と高さを合わせた。「人のコミュニケーションでも家族が目線を合わせることは大事。人が視線をさげるだけでなく、犬も自分から目を合わせたいだろうと考えました」と前田さん。家をとりまくスロープには低い位置に窓をつけ、2匹が家族のお出かけをお見送りできるようにしてある。
家のなかのどこでも行けて、自分からコミュニケーションをとることもできる。家族なら当たり前のことを、この家は愛犬達にも可能にしてくれた。
食にもこだわり、人との交流を楽しむ
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壁のように見えるキッチンの背面は「隠す収納」。コーナーにはワイングラスを飾るガラスの「見せる収納」を置いた。
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キッチンにたって中庭を見る。庭につづく窓をフルオープンにすればパーティーにも対応。
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背の高いご主人に合わせたキッチンはワークトップの高さが95センチ。キッチンの床にも特殊な塗料をかけてあり、ラプレくんとレフアちゃんも出入りできる。
Tさんご夫婦は食にもこだわる、グルメなおふたり。ご主人がキッチンにたつことも多いため、キッチンはワークトップの高さを長身のご主人に合わせた。自慢のワイングラスは見せる収納にしたいという希望があり、収納の一部はガラスの扉に。
「私もわりと食べることが好きなので、次の打ち合わせはどこへ行こうという話もよくしました。おふたりの職場の周辺でおすすめの店はここですよ、とか。お客さんと趣味が合うとまた楽しいですよね」と前田さん。最近また、そろそろ美味しいものでも食べに行こうかという話が出ているそう。
お客さんにとっては家が建った後がスタートだと考える前田さんは、引き渡し後も接点を保つよう、心がけているという。そうしたお客さんとの関係をふりかえってみると、「ペットとの関係をうまく築ける人は、人間関係を築くのも上手いのでしょう。ペットと暮らす家を建てたお客さんは皆さん、今でも親しくさせていただいています」という。
Tさんご夫婦は、その仮説を裏付けるかのように、工事に関わった大工さんとも仲良くなっていた。通常であれば、竣工後の様子を知ることのできない彼らにも完成した家を見てもらおうと完成食事会を企画。中庭と一体に使えるダイニングキッチンには、設計を手がけた前田さん、工事に関わった大工さんをはじめ大勢があつまり、完成を祝った。グルメなご夫婦の目にかなった鎌倉山の高級ローストビーフも振る舞われ、食事を楽しみながら交流を深めたそうだ。
建てた人:前田敦さんコメント
当初ご予算に合わせて提案した際には、客室を設けていませんでしたが、新しく建てたら、ご家族、ご友人を招くこともあるだろうと、客室もつくることになりました。
鎌倉では珍しくないのですが、埋蔵文化財がみつかったために計画の変更を余儀なくされました。遺跡をいためない基礎に変更し、コンセプトは維持しつつもモデルプランとは異なるものになりました。しかし、プラン変更のご提案にも理解を示していただき、常に前向きなスタンスで仕事に取り組めたことを感謝しています。
プランを変更したことで遺跡の調査を待つこともなくなり、増税前に竣工することができました。
スペック
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