【第3話】グラフィティアーティストAZI(アジ)と、僕らの企み。


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引き続き、2016年1月6日、代官山某所。

4人の議論は進んでいた。

「みんなさ、実際のところ、犬を助けるために寄付とかってしたことある?なくない?オレは以前、仕事でもらったドッグフードを、うちに置いてても仕方ないから施設に送ったことはあるんだけど、それくらいなんだよね。」

という、グラフィティアーティストAZIの発言を受け、我々の4人はプロジェクトの根本について話し合ったのだった。

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現時点で決定していることは、飼養放棄や殺処分といった、犬を取り巻く社会課題に対するメッセージをグラフィティとして表現するということ。もちろん、グラフィティアーティストAZIの手によって、だ。

目的は、従来型のアプローチでは声が届かなかった人達が課題を知るキッカケになること、そして、課題を解決するために動き出してもらえるキッカケになること。

AZIの表情を見る限り、グラフィティについては問題ないと思われた。

しかし懸念点はあった。まさに先程のAZIの発言である。

AZIのグラフィティによって、例えばアートやデザインに関心のある層からの認知を得ることはできるだろう。課題解決や支援活動に向けて、それらの人が「動く」キッカケになるのだろうか?

我々4人は、もちろん犬を取り巻く課題について、多少は知っている。

それでも、ドッグフードを施設に送ったことがあるというAZIを除く3名は、これまでに支援活動などに従事した経験も、寄付すら行ったこともない。それが現実だ。

少し話はそれるが、日本国内の寄付総額はアメリカの3%、イギリスの半分と言われるほど、日本では寄付文化が根付いていない。とすると、おそらく課題を知ってもらうだけでは不十分だ。

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課題を知ってもらうだけではなく、知った人に動いてもらうためにどうすれば良いのか。

そんな折、Utility代表の浜中氏が口を開いた。

「Tシャツ作りましょうよ。人用と犬用のチャリティTシャツ。その売上を全部、施設とかに寄付しましょう。僕の分野だから、任せてください。」

なるほど。それは名案だと思った。AZIも頷く。

しかし、一つだけ私には気になることがあった。

私はこのプロジェクトを一過性のものにはしたくない。犬を取り巻く課題は、おそらく一朝一夕で解決できるものではない。だから、継続していく必要がある。

そこで、一点だけ変更を申し出ることにした。

「売上の全額を寄付するのではなく、利益を出しましょう。ちゃんと良いアイテムを作って、ちゃんと売って、ちゃんと利益を出しましょう。」

一瞬、AZIと浜中氏は躊躇しているように見えた。

慈善的な活動と営利活動とが両立できるのか、もしかしたら「偽善」という反応が返ってくるかもしれないと思ったからだろう。

正直、私にもわからない。ただ、この活動を継続していくためには、活動自体が利益を出し続けていくことが必要だという点については、二人も納得した。

すると、『INU MAGAZINE』編集長の高橋が、

「この話、記事にしましょう。僕自身、募金活動とかの慈善活動に対して、正直、時々不信に思うことがあるから、もしかしたらこのプロジェクトも『儲けたいだけでしょ?』とか言われちゃうかもしれません。でも、僕が不信感を持つときって、『不透明だから』だと思うんです。だから、僕らがこのプロジェクトで『利益を出そうと思っている』ということも含めて、記事にして公にしましょう。」

「記事って、例えば『ほぼ日(※ほぼ日刊イトイ新聞)』みたいな?」

「そうです。『ほぼ日』好きなんですか?僕も好きです(笑)。あんなに上手に伝えられるかどうかはわからないですが、グラフィティができるまで、Tシャツができるまで、今日の話も含めて、僕らが何を考えているのか、記事にして公にしましょう。そうすれば、記事を読んで賛同してくれる人達は買ってくれるかもしれないし、そうじゃない人達は買ってくれないと思いますけど、それで良いと思うんです。非難してくる人達もいるかもしれませんが、そのときは違う意見の人達とも会話しましょう。」

こうして私達は、「犬達のための楽描き」を『INU MAGAZINE』で連載していくことにした。

この方法が正しいのかどうか、今はまだわからないが、まずは進んでみることにする。

まだ一歩目も踏み出していない私達。ただ、進むべき道はぼんやりと照らされたような気がした。

 

つづく


 AZI(アジ)|プロフィール

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グラフィティアーティスト・アートディレクター

「グラフィティ=落書き」ではなく、「グラフィティ=楽描き」というコンセプトのもと、ジャンルの壁を越えて様々な分野で活躍中のアーティスト。多数のフェスでのライヴペイント、アーティストやスポーツ選手とのコラボレーション、ミュージックビデオや映画でのアート参加など多方面で活躍中。最近では、オーストラリア出身のポップパンクバンドファイブ・セカンズ・オブ・サマー|5 Seconds Of Summer、通称5SOS(ファイブ・ソス)の来日公演におけるメインビジュアル制作など、活動の幅を世界に広げている。詳しいプロフィールや作品はこちらから