※連載「犬達のための楽描き」全7話をダイジェスト版でお送りします。
「オレさ、飼ってる犬に暴力振るうヤツとか、犬捨てちゃうヤツとか、ホント許せないんだよね。」
この物語の始まりは、グラフィティアーティストAZI(アジ)のそんな一言だった。
2015年末、原宿某所。ドッグアパレルブランド”Kelty by Utility”を運営する原宿のアパレルショップ “Utility” 代表の浜中 健太郎氏に紹介されたグラフィティアーティストAZIが『INU MAGAZINE(イヌマガジン)』のリリース準備を進める私と高橋に対して放った言葉である。
グラフィティアーティストAZI(アジ)。「グラフィティ=落書き」ではなく、「グラフィティ=楽描き」というコンセプトのもと、ジャンルの壁を越えて様々な分野で活躍中のアーティスト。多数のフェスでのライヴペイント、アーティストやスポーツ選手とのコラボレーション、ミュージックビデオや映画でのアート参加など多方面で活躍中。最近では、オーストラリア出身のポップパンクバンドファイブ・セカンズ・オブ・サマー|5 Seconds Of Summer、通称5SOS(ファイブ・ソス)の来日公演におけるメインビジュアル制作など、活動の幅を世界に広げている。詳しいプロフィールや作品はこちらから
我々は思った。彼のその言葉を、彼の最も得意とするグラフィティアートのカタチに落とし込んで、世の中に発表してもらいたい。それによって、従来のアプローチでは声が届かなかった人達が、犬を取り巻く課題の存在を知り、それぞれに行動を起こすキッカケになるかもしれない。
動き出したプロジェクト「犬達のための楽描き」
年明けに改めて集まった我々は、グラフィティアーティストAZIから彼の「犬」との関わりや想いを聞き、プロジェクト「犬達のための楽描き」をスタートすることになった。
ただ、懸念があった。グラフィティアーティストAZIは言う。
「みんなさ、実際のところ、犬を助けるために寄付とかってしたことある?なくない?オレは以前、仕事でもらったドッグフードを、うちに置いてても仕方ないから施設に送ったことはあるんだけど、それくらいなんだよね。」
AZIのグラフィティによって、例えばアートやデザインに関心のある層からの認知を得ることができたとしても、果たして課題解決や支援活動に向けて、それらの人が「動く」キッカケになるのだろうか?
ドッグフードを施設に送ったことがあるというAZIを除く3名は、それまでに支援活動などに従事した経験も、寄付すら行ったこともなかった。
実際に、日本国内の寄付総額はアメリカの3%、イギリスの半分と言われるほど、日本では寄付文化が根付いていない。とすると、おそらく課題を知ってもらうだけでは不十分だ。
そこで、 “Utility” 代表の浜中 健太郎氏の案により、グラフィティを落とし込んだ人用と犬用のチャリティTシャツを制作することにした。もちろんそこには長くアパレル業界で生きてきた浜中氏のこだわりを徹底的に詰め込む。
動物福祉の現状と課題
しかし、そんなプロジェクトをスタートしたものの、我々は犬を取り巻く社会の現状や課題について、実はそんなに詳しいわけではなかった。そこで、寄付先となる団体を探しているなかで知り合った「アニマル・ドネーション」代表の西平 衣里(にしひら えり)さんに「動物福祉の現状と課題」についてのお話を聞きに伺った。
「動物福祉の向上が私共の活動のミッションなので」と、我々の申し出を快く引き受けてくれたアニマル・ドネーション代表の西平 衣里(にしひら えり)さん
そこでまず聞いたのは、日本のペット業界が成長し、犬や猫達の位置付けが「愛玩動物」から「パートナー」「家族の一員」へと変わり、人間と同じようなサービスや商品も増え続けている裏側で、今もなお行われている「殺処分」という現実だった。ペットショップで1日に販売される犬や猫の数が、約1,600頭と言われている裏側で、約400頭の「飼いきれなくなった」犬や猫達が行政に持ち込まれている。そして、この10年で半減しているとはいえ、今も1日に約300頭の犬や猫達が「殺処分」されているというのだ。更に「殺処分」される犬や猫の多くは、『普通の人達』が捨てに来るのだという。そこには『飼う人の知識不足』という大きな課題がある。
続いて西平さんは、「動物福祉」に関して先進的な国や地域について紹介してくれた。まず最初に紹介されたのは、ドイツ。ドイツには「ドイツ動物保護連合」という団体があり、全国に500箇所のシェルターを持つ「ティアハイム」という動物保護施設をはじめとしたネットワークのバックアップをしている。西平さんが「アニマル・ドネーション」を立ち上げるときにも参考にされたそうだ。
「ティアハイム」での譲渡率は98%を誇り、引き取り手のいない動物達は終生飼育されており、年間8億円の運営費は会員や地域企業からの寄付によってまかなわれていて、犬1頭に1部屋、床暖房や犬専用の庭も備えられているという。画像出典:http://www.tierschutz-berlin.de
そして、ハワイにある「ヒューメイン ソサエティ」や「オレゴン ヒューメイン ソサエティ」といった先進的なシェルターや施設の紹介の後、変わり始めた日本の「行政の在り方」に話は移っていった。
変化を信じて
日本でも、引き取った犬や猫を「殺処分」するための施設だった行政施設が、少しずつ変わってきている。代表的なのが、熊本市動物愛護センター。「殺さない行政へ」というスローガンのもと、平成14年には400頭弱の犬猫が殺処分されていたのを平成21年度には犬1頭、猫6頭まで減少させた。神戸市や東京都の動物愛護センターでも、民間団体や譲渡団体との連携でレスキューを進める動きをしており、横浜市には「殺処分機を置かない」動物愛護センターが誕生した。奈良のうだアニマルパークや長野動物愛護センターでは、動物とのふれあいや子ども向けの啓発事業などを積極的に取り組んでいる。いずれも、中で働く職員の方々の声や、思いから変わっていったのだという。
画像出典:http://doubutsuaigo.hinokuni-net.jp/
「動物福祉」の先進国も、変化を始めた日本の行政も、最初は誰かの小さな思いから始まっている。
きっと私達のような小さな一歩が重なりあうことによって、大きな変化を生み出していくのだろうと思う。
自分達一人一人にできることは小さいかもしれない。それでも変化を信じて進んでいこう。
その日、我々4人は、そう決意した。
グラフィティ完成まで
西平さんを訪ねてしばらくした後、ついに待ちかねていたスケッチがAZIから届いた。
それは、プロジェクトがスタートするきっかけとなった「オレさ、飼ってる犬に暴力振るうヤツとか、犬捨てちゃうヤツとか、ホント許せないんだよね。」というAZIの発言から想像していた やや過激な表現とは違った、イヌとヒトとの握手がモチーフとなったスケッチだった。
グラフィティアーティストAZIから届いたイヌとヒトとの握手がモチーフとなった初回スケッチ
少し意外そうな顔をしている我々にAZIは言う。
「最初は乱暴な表現にしようかとも思ったんだけど…。でもさ、やっぱり最初の作品として、このプロジェクトのビジョンを表現するものにしたくて。そう考えると、イヌとヒトとが争ってたり決別しちゃうような絵じゃなくて、イヌとヒトに握手しててほしいって思ったんだ。それに、きっと今は自分の飼ってる犬に暴力振るうヤツがいたり、捨てられて殺されちゃう犬がいたり、たくさんの問題があると思うんだけど、今ならあいつら(=イヌ達)、まだ握手してくれるって信じたいんだ。ヒトの身勝手かもしれないけど、イヌってさ、優しいじゃん。いつでも飼い主の側にいてくれて、多くを求めるわけでもなく、元気くれてさ。それこそ飼い主から何されても、一緒にいたいって思ってくれる。そういうイヌの優しさとか素晴らしさを表現したほうが伝わるんじゃないかなって思ったんだ。」
その後、チームメンバーや友人達とで作品のタイトルについて話し合い、タイトルは「KENEN(けんえん)」に決まった。
AZI「もちろん『犬猿の仲』っていう意味じゃなくて、『犬』と『縁』。ヒトっていう生き物とイヌっていう生き物とが今一緒に生きていることも『縁』だし、みかみちゃんとみかみちゃんちの犬、浜ちゃんと浜ちゃんちの犬達が出会ったのだって、みんな『縁』じゃん。」
「グラフィティ=落書き」ではなく、「グラフィティ=楽描き」という、グラフィティアーティストAZIの活動のコンセプトにも通じるタイトルだ。
初回スケッチをもとに、作品タイトルを加え、他のメンバーの意見も汲み取りつつ全て手書きで完成に近づけていくグラフィックアーティストAZI。
最後に「Dogs」と「Human」の間の「★」のなかに「&」を加えて、グラフィティ「KENEN 〜犬縁〜」が完成した。
イヌという存在がいなければ、もしかしたら今のようなヒトの生活は実現していなかったかもしれないという説がある。まだ文明が発達していなかった時代には、夜間に他の生き物の襲来からヒトの寝床を守ってくれていたのはイヌ達だった。イヌ達のおかげで、安心してヒトは眠りにつくことができたというのだ。
かつては共に狩りに出る猟犬として、家を守ってくれる番犬として、そして今では私達に癒しや暖かさを与えてくれる無二の存在として、いつも私達ヒトの側にいてくれるイヌ達。
そんなイヌとヒトとが『犬猿の仲』になってしまわないように、『犬』との『縁』への感謝を忘れずに、イヌとヒトとが手を取り合って歩んでいく未来、グラフィティアーティストAZIと我々のそんな想いを込めたグラフィティだ。
そして、このグラフィティが、犬と暮らす人もそうではない人も少しでも多くの人たちが課題を知り、それぞれに動き出すキッカケとなることを願い、グラフィティを用いたTシャツを制作した。もちろんヒトのためのTシャツと、イヌのためのTシャツだ。
制作を手がけた “Utility” 浜中 健太郎氏にとってもこのプロジェクトが様々な課題を知るキッカケとなったように、このTシャツが一人でも多くの人にAZIの想いが届くキッカケになることを願い、素材にもカラーにもこだわり抜いた。
KENEN 〜犬縁〜 T-Shirt
人用のTシャツは、長く着てもらえる一枚にしたいという浜中氏のこだわりにより、7.5ozのヘビーウェイトな生地を使用し、シルクスクリーンによるプリントで「KENEN 〜犬縁〜」グラフィティをシンプルに表現した。
カラーも同様に長く着られるベーシックな色ということで、ホワイト、ブラック、ネイビー、グレーの4色展開。サイズはユニセックスで、S、M、Lの3サイズ展開。
暑さに弱い愛犬用Tシャツには接触冷感ボディを使用し、こちらも人用のTシャツと同様、バックに「KENEN 〜犬縁〜」グラフィティをシルクスクリーンを用いてプリント。
愛犬が着ることを考えて、汚れやすいホワイトと熱を吸収しやすいブラックを外したネイビーとグレーの2色展開とした。サイズはS、M、L、DM(ミニチュアダックス)、FM(フレンチブルドッグ)の5サイズ展開。
人用Tシャツには、フロント左胸のポケット上に「KENEN 〜犬縁〜」ロゴマーク。
バック全体に「KENEN 〜犬縁〜」グラフィティ。
女性のお散歩コーデにはオーバーサイズもおすすめ。
お気に入りのカラーの組み合わせで、愛犬とのお揃いコーデも。
原宿Utility または WEBストアで
「KENEN 〜犬縁〜 T-Shirt」は “Utility” の原宿店舗または“Kelty by Utility” のWEBストアで入手可能。
愛犬用Tシャツの価格は 4,320円(税込)、人用Tシャツの価格は 6,480円(税込)。
いずれも売上の10%がアニマル・ドネーションを通じて、犬の保護活動を行う団体へと寄付される。
■Utilityへのアクセス
- 住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-24-1 鈴木ビル2F
- 営業時間:12:00-20:00
- 電話番号:03-6459-2463
- アクセス:
JR原宿駅より徒歩7分
東京メトロ明治神宮前駅より徒歩6分
■“Kelty by Utility” WEBストアでのご購入はコチラから
モデルと着用サイズ
- 男性:グラフィティ(楽描き)アーティストAZI(186cm|Lサイズ)
- 女性:Akari Nagao(166cm|タイト〜ジャスト:Sサイズ・ゆったり:Mサイズ)
- チワワ:Kelt & Blanc(2.8kg・2.6kg|共にMサイズ)
- トイプードル:Jewel(4.0kg|Lサイズ)
スタッフ
- グラフィティ制作:グラフィティアーティストAZI
- Tシャツ制作:浜中 健太郎
- モデル:グラフィティアーティストAZI、Akari Nagao、Kelt & Blanc、Jewel
- 写真:加藤 達彦
- 動画:高橋 遼
- 編集部:味上 友宏 & 高橋 遼
★Special Thanks★
アニマル・ドネーション代表 西平 衣里さん