【第6話】グラフィティアーティストAZI(アジ)の描く「イヌとヒト」(前編)


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アニマル・ドネーション代表の西平さんを訪ねてしばらくした後、ついに待ちかねていたスケッチがAZIから届いた。

初回スケッチ

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プロジェクトがスタートするきっかけとなったオレさ、飼ってる犬に暴力振るうヤツとか、犬捨てちゃうヤツとか、ホント許せないんだよね。というAZIの発言から、やや過激なトーンで、犬が飼い主に襲いかかっていたり、牙を剥いているようなグラフィティに仕上がるかもしれないと思っていた私は、一見、はて?と思った。「Defend the Dogs」や「犬を守れ」といったメモが書かれているのにはすぐに気付いたが、犬の絵が見当たらない。しかし、少しして浜中氏が反応した。

浜中氏「なるほど、握手かぁ。めっちゃいいやん!」

握手なのはわかるけど…と思いかけて、そこで、私も気付いた。

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握手をしているふたつの手のうち、上に重ねられている手は「イヌの手」だ。

AZIが口を開いた。「最初は乱暴な表現にしようかとも思ったんだけど…。」

(やはり…。)

「でもさ、やっぱり最初の作品として、このプロジェクトのビジョンを表現するものにしたくて。そう考えると、イヌとヒトとが争ってたり決別しちゃうような絵じゃなくて、イヌとヒトに握手しててほしいって思ったんだ。」

AZIは、更に続ける。

「それに、きっと今は自分の飼ってる犬に暴力振るうヤツがいたり、捨てられて殺されちゃう犬がいたり、たくさんの問題があると思うんだけど、今ならあいつら(=イヌ達)、まだ握手してくれるって信じたいんだ。ヒトの身勝手かもしれないけど、イヌってさ、優しいじゃん。いつでも飼い主の側にいてくれて、多くを求めるわけでもなく、元気くれてさ。それこそ飼い主から何されても、一緒にいたいって思ってくれる。そういうイヌの優しさとか素晴らしさを表現したほうが伝わるんじゃないかなって思ったんだ。」

AZIも言う通り、もしかしたらヒトの身勝手なのかもしれない。

だけど、そんな身勝手さも全て受け止めてヒトと握手してくれる存在が、イヌ達なのかもしれない。

そして、今本当に必要なことは、そんなイヌ達の優しさを再確認して、イヌという存在への感謝を忘れないこと。

 

作品のタイトルは…

数日後、私達はこのグラフィティのタイトルについて話し合うことにした。

このプロジェクトの最初の作品にAZIが込めようとしている想いとリンクするようなタイトル。

しかし、いざ考え始めるとこれが難しい。Utility スタッフ達やスタイリスト、モデルや友人達も集まってブレストがスタートするも、これといったタイトルが出てこない。

煮詰まってきた頃に始まった Utility のあるスタッフと私とのいつものダメ出しのし合いを見たスタイリストの一言から、その瞬間がやってきた。

スタイリスト「ふたりはホント犬猿の仲ですね。ふたりこそ早く握手してくださいよ!(笑)」

AZI「それだ!」

ブレストに加わったメンバーは皆、きょとんとしている。「それだ!」と言われたスタイリストもなんのことだか分かっていない。

「『KENEN(けんえん)』だよ。ただ、もちろん『犬猿の仲』っていう意味じゃなくて、『犬』と『縁』。ヒトっていう生き物とイヌっていう生き物とが今一緒に生きていることも『縁』だし、みかみちゃんとみかみちゃんちの犬、浜ちゃんと浜ちゃんちの犬達が出会ったのだって、みんな『縁』じゃん。」

決まりだ。説明を聞いて、その場にいた全員がそう思った。

 

KENEN 〜犬縁〜

イヌという存在がいなければ、もしかしたら今のようなヒトの生活は実現していなかったかもしれないという説がある。まだ文明が発達していなかった時代には、夜間に他の生き物の襲来からヒトの寝床を守ってくれていたのはイヌ達だった。イヌ達のおかげで、安心してヒトは眠りにつくことができたというのだ。

かつては共に狩りに出る猟犬として、家を守ってくれる番犬として、そして今では私達に癒しや暖かさを与えてくれる無二の存在として、いつも私達ヒトの側にいてくれるイヌ達。

そんなイヌとヒトとが『犬猿の仲』になってしまわないように、『犬』との『縁』への感謝を忘れずに、イヌとヒトとが手を取り合って歩んでいく未来、それこそがAZIがグラフィティを通じて伝えたいことなのだ。

 

次回、ついにグラフィティ完成。お楽しみに。

 

つづく


 AZI(アジ)|プロフィール

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グラフィティアーティスト・アートディレクター

「グラフィティ=落書き」ではなく、「グラフィティ=楽描き」というコンセプトのもと、ジャンルの壁を越えて様々な分野で活躍中のアーティスト。多数のフェスでのライヴペイント、アーティストやスポーツ選手とのコラボレーション、ミュージックビデオや映画でのアート参加など多方面で活躍中。最近では、オーストラリア出身のポップパンクバンドファイブ・セカンズ・オブ・サマー|5 Seconds Of Summer、通称5SOS(ファイブ・ソス)の来日公演におけるメインビジュアル制作など、活動の幅を世界に広げている。詳しいプロフィールや作品はこちらから