【第4話】グラフィティアーティストAZI(アジ)の「アニマル・ドネーション」訪問記(前編) 〜「殺処分という現実」を前に〜


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グラフィティアーティストAZI、Utility浜中氏、そして我々の4人の話し合いを経て、取り組むプロジェクトの概要はまとまった。

  • 目的は、「飼養放棄」や「殺処分」といった犬にまつわる社会的課題を知らなかった人達が課題を知り、知っていても動かなかった人達が動き出すキッカケを作りたい。
  • そのために、AZIが社会課題をテーマとしたグラフィティを制作する。
  • 同じく、浜中氏がグラフィティを用いて、人向けと犬向けのTシャツを制作する。
  • プロジェクト単体として継続していくための利益を出しつつ、Tシャツの売上の一部を保護施設等へ寄付する。
  • 我々4人の考えていることや話し合いの様子、制作過程を『INU MAGAZINE』で連載していく。

 

これが、私たちがスタートさせるプロジェクトの第一歩だ。

AZIにはグラフィティの構想を練ってもらい、浜中氏がTシャツの型や素材等の検討を進めてもらうことにした。

その間、私は寄付先となる保護団体を探した。

インターネットで色々と調べてみると、オンラインで寄付を受け付け、一定の審査基準を満たした団体へと寄付を配分する「アニマル・ドネーション」という寄付サイトに出会った。

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「アニマル・ドネーション」のウェブサイトには、寄付先となる各団体の情報や寄付のしくみ、活動レポート等が事細かに記載されていた。

また、GREEN DOGを運営する株式会社カラーズ代表の佐久間 敏雅氏や、サイバーエージェント代表の藤田 晋氏をはじめ、ペット業界内外の方々のインタビューも掲載されているなど、“信頼のおけるサイト”のように思えた。ペット業界の人達に直接話を聞いてみても、どうやら評判が良い。

早速、ウェブサイトからコンタクトを取ってみた。すると、代表の西平 衣里(にしひら えり)さん自ら返信があり、やり取りからもとても丁寧な印象を受けた。

他の3人にも「アニマル・ドネーション」が良さそうだと話してみた。

すぐにAZIが口を開く。

「オレ達、犬を取り巻く社会の現状や課題について、実はそんなに詳しいわけじゃないじゃん。だからさ、一度話を聞きに行かせてもらえないかな? オレ、分からないことはすぐ聞きに行くスタンス。」

「意外と謙虚だな。」と心のなかで呟きつつ、それは名案だと思った私は、アニマルドネーション代表の西平さんに連絡した。

すると、西平さんからも「動物福祉の向上が私共の活動のミッションなので」と、我々4人と会うことを快く引き受けていただけるというお返事をいただいた。

このやりとりから間もなく、我々4人は「動物福祉の現状と課題」についてのお話を伺いに、西平さんを訪問することになった。

当日、西平さんと対面し、お互いの簡単な挨拶の後、早速本題に入った。

そこでまず聞いたのは、日本のペット業界が成長し、犬や猫達の位置付けが「愛玩動物」から「パートナー」「家族の一員」へと変わり、人間と同じようなサービスや商品も増え続けている裏側で、今もなお行われている「殺処分」という現実だった。

「殺処分」の現状

(西平さん)ペットショップで1日に販売される犬や猫の数が、約1,600頭と言われている裏側で、約400頭の「飼いきれなくなった」犬や猫達が行政に持ち込まれています。そして、この10年で半減しているとはいえ、今も1日に約300頭の犬や猫達が「殺処分」されています

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出典:環境省「全国の犬・猫の殺処分数の推移」

 

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もちろん「殺処分」という問題について知ってはいた。

しかし、具体的な数字を前に、我々4人は言葉を失う。

さらに、西平さんは続ける。

誰が捨てるのか?

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(西平さん)「殺処分」される犬や猫の多くは、『普通の人達』が捨てに来るんです。「ペットが病気になった」という理由や「吠える・噛む」といった理由で。そして、行政によりますが、迷い犬や猫だと1週間程、飼い主の持ち込みだと即処分されるというのが一般的です。「飼い主が病気や高齢で飼いたくても飼えなくなってしまった」という理由でやむなく連れてこられる方もいらっしゃいますが、「引っ越すから」という理由で連れてくるような人もまだまだ多く、実際に、3月の引越シーズンには捨て犬猫が増えるという調査結果もあります。

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大げさかもしれないが、『犬』によって人生が変わり、ある意味『犬』によって出会ったとも言える我々4人。

一緒に生活している犬や猫を捨てる人の気持ちが想像できなかった。

『普通の人達』が、なぜ捨ててしまうのか?西平さんは答える。

課題は飼う人達の知識とモラルの向上

(西平さん)わたしは、『飼う人の知識不足』が大きな課題だと考えています。避妊や去勢について、鑑札やマイクロチップの装着、躾や社会化といった犬や猫と一緒に暮らす上での最低限の知識、そして、終生飼養の考え方や「5つの自由」などの国際的に認められている動物の福祉基準。皆さん、犬を飼うまで、そういったことをどこかで習ったこと、ありますか?

「ありません。」

それしか私たちには答えることが出来なかった。

編集部注:「5つの自由」

1960年代、イギリス政府の委嘱により設置された工場畜産の下にある家畜の福祉増進を目的とするブランベル委員会が勧告した「どんな条件の下であろうと、家畜には少なくとも動作における5つの自由が保障されるべきである。その自由とは、楽に向きをかえることができ、自分で毛並みをそろえることができ、起き上がり、横たわり、四肢を伸ばすことのできる自由である」という理念をもとに、現在では、新しい5つの自由として、以下の自由が唱えられている。

  1. 飢え・渇きからの自由
  2. 不快からの自由
  3. 苦痛からの自由
  4. 恐怖・抑圧からの自由
  5. 自由な行動をとる自由

 

(西平さん)先進国では「動物福祉」に考慮した法律が多数あるのに対して、日本では「動物」に「福祉」があるという考えがまだまだ浅いというのが現状です。そして、利益だけを優先するような「パピーミル」やトレーザビリティが不明瞭な「ペットオークション」といった「日本独自の流通制度」と、「飼い主の知識不足」によって、不幸な子たちが生み出されているのです。

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(西平さん)流通制度などの構造的な課題は、一朝一夕で解決できるものではなく、行政と民間とが一体となって取り組んでいくべきものだと思います。まずは皆さんのような活動が、飼い主の知識やモラルの向上に繋がっていくことを願います。

そして話は、「動物福祉」の先進国の紹介へと移っていく。

 

まだ私たちには、知らないことが多すぎる。

言語化できない感情が、それぞれの胸の中に生まれた。

 

つづく


 AZI(アジ)|プロフィール

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グラフィティアーティスト・アートディレクター

「グラフィティ=落書き」ではなく、「グラフィティ=楽描き」というコンセプトのもと、ジャンルの壁を越えて様々な分野で活躍中のアーティスト。多数のフェスでのライヴペイント、アーティストやスポーツ選手とのコラボレーション、ミュージックビデオや映画でのアート参加など多方面で活躍中。最近では、オーストラリア出身のポップパンクバンドファイブ・セカンズ・オブ・サマー|5 Seconds Of Summer、通称5SOS(ファイブ・ソス)の来日公演におけるメインビジュアル制作など、活動の幅を世界に広げている。詳しいプロフィールや作品はこちらから