(※トップ画像提供:森山メモリアルカップ実行委員会)
2016年4月、犬に魅せられ、犬と生きた一人のドッグトレーナーが、天国へと旅立ちました。
彼の名は、森山 敏彦。日本に初めて本場 英国のガンドッグレトリービングとそのトレーニングを取り入れ、ガンドッグレトリーブトライアル協会の会長として、多くの人々に犬とのワーキングの楽しみを広めた立役者です。
※ガンドッグとは?(出典:MIGHTY CANINE CAMPUS)
英国では銃(ガン)を持って猟に出る人について働く犬をガンドッグと呼びます。また英国ケンネルクラブでは犬種グループが7つに分けられており、その中に【Gundog】グループが存在します。
【Gundog】グループの中でも犬種により猟での仕事が異なり、大きく分けると3つ、そしてマルチワーカーも存在します。
●Retriever レトリーバー
【代表犬種】ラブラドール・ゴールデン・フラットコーテッド
【猟での役目】猟の裏方役ガンズの撃ち落とした鳥を速やかに回収をする
●Spaniel スパニエル
【代表犬種】コッカー・スプリンガー・クランバー・フィールド
【猟場での役目】ガンズの前方で隠れた鳥の匂いを見つけて鳥を羽ばたかせる、また回収作業も行う。
●Pointer/Setter ポインター セッター
【代表犬種】イングリッシュポインター/セッター・ゴートンセッター
【猟場での役目】ガンズの前方で隠れた鳥の匂いを見つけて匂いのする方をじっと見つめてガンズに鳥の居場所を知らせる。
○HPR(Hunt Point Retrieve)HPR
【代表犬種】ブリタニースパニエル・ジャーマンショートヘッドポインター
【猟場での仕事】簡潔に述べると主要3班の仕事をすべて行う、マルチワーカー。
第一回 森山メモリアルカップ
2016年11月某日、森山 敏彦氏への感謝と、彼が最後に遺した「楽しいガンドッグコンペをやりたい」という言葉に込められた気持ちを受けて、ガンドッグを愛する仲間たちが集結し、第一回 森山メモリアルカップが開催されました。
本場 英国さながらの会場にて
会場となったのは、東に八ヶ岳連邦を仰ぎ、西には遠く槍ヶ岳などの北アルプス、南には甲斐駒ケ岳、鳳凰三山といった南アルプスの名だたる山々を眺望する八ヶ岳中央農業実践大学校。森山 敏彦氏とガンドッグレトリーブトライアル協会を共に立ち上げた一人である松島 葉子さんが森山メモリアルカップの実行委員長を務め、本場 英国のフィールドトライアルの雰囲気を再現できるこの会場を探しました。
ガンドッグワーキングテスト初観戦の INU MAGAZINE(イヌマガジン)編集部は、こちらの広場が会場かと思っていたのですが、
実際にはその裏手を下った先にある小川を渡り、
茂みを奥深く分け入ったところが会場でした。
本格的です。
日本で唯一人の英国認定ジャッジ
森山メモリアルカップのジャッジを務めたのは、日本で唯一人、本場 英国ケネルクラブ・フィールドトライアルジャッジの認定資格を持つ、磯野 麻衣子さん。
2014年に英国で初出場したフィールドトライアルにおいて日本人として初優勝し、その後も英国で華々しい成績を収めるなどハンドラーとしても第一線で活躍する彼女が、2016年4月に帰国し、日本で初めてジャッジを務める競技となりました。
いよいよ競技開始
森山 敏彦氏の奥様、森山 琴美さんも森山氏の忘れ形見ケイティと共に出場
いよいよ競技開始です。第一ラウンドは、ウォークドアップという競技。4人のハンドラーと4頭のガンドッグたちが横一列に並び、熊笹の中を歩んでいきます。
列を乱さぬように進んでいると、約30メートル離れたところで発砲音がしてダミーが投げ入れられます。各ペアごとに前方と後方に投げ入れられたダミー1つずつ計2つを回収し、減点方式で順位を競います。
ダミーを投げ入れるスロワーさん
投げ入れられたダミーに向けて、ハンドラーがパートナーのガンドッグたちを送り出します。人間の膝から腰の辺りまで生い茂った熊笹のなかではダミーは見えません。ダミーのある場所へとハンドラーが正確に犬を送り出さなければならないのです。見ているこちらにも緊張感が伝わります。
送り出された犬たちは懸命にダミーのにおいを探します。
犬の動きに合わせて、ハンドラーが指示を送ります。トレーニングや普段の生活を通じて培われたハンドラーと犬との間の信頼関係が問われるのです。
犬たちが見事ダミーを回収して戻ると、会場からは暖かい拍手が送られました。
続く第二ラウンドは、ドリブンという競技。8ペアが横一列に待機し、あらかじめ決められた3ヶ所の投入地点へ発砲音と共にダミーが投げ入れられます。そして、それぞれのペアはジャッジに指示されたダミーを回収してこなければなりません。もし間違ったダミーを回収してしまうと失格になってしまいます。こちらの競技も減点方式で順位を競います。
お昼休みには気軽に参加できる「スカリー」
午前の部を終えたお昼休みには、本戦に参加していないペアも気軽に参加できる「スカリー」という競技が開催されました。競技中のハンドリング等の評価はされず、指定されたダミーを回収してくるまでの時間を競うタイムトライアルです。
特設コースで行われたタイムトライアル「スカリー」
見事スカリーで優勝した森山 琴美さん
本場 英国では表彰式の次に盛り上がるラッフルくじ!
本場 英国では、ワーキングテストの参加者たちが各家庭に眠っているワインやチョコレート、化粧品やペット用品などを主催者に寄付し、それらを景品とした「ラッフルくじ」が催されます。森山 敏彦氏の愛した英国のガンドッグ競技会に近い雰囲気を作り上げようと、森山メモリアルカップでもラッフルくじが開催されました。
生前、動物福祉活動にも尽力されていた森山 敏彦氏の思いを受け、ラッフルくじの収益は今回の競技の参加費と合わせて、運営費用を除く全てが熊本のドッグレスキュー団体へと寄付されるそうです。
くじに書かれた番号と同じ番号のついた景品を持ち帰ることができます(写真撮影:松島 葉子さん)
上位8組による第三ラウンド
午後から開始された第三ラウンドは、第一ラウンドと第二ラウンドの評価点の上位8組によって競われます。競技は再びウォークドアップ。まず1回目は後方に事前に隠されたダミーをハンドラーの指示によって犬が回収します。続く2回目は前後に投げ入れられたダミーのいずれかを回収します。
結果発表!…その前に
予定された競技は第三ラウンドまでで、集計の後、結果発表に移るはずだったのですが、なんと2組のペアが同点で2位だったため、ランオフという順位決定戦が行われました。
競技はロングマーキング。熊笹の傾斜を降りきったところにある小川を渡り、その先の登り斜面の中腹に投入されたダミーを回収してくるという驚愕のコースでしたが、2頭の犬は共に見事ダミーの回収に成功し、採点による決着となりました。
結果発表&表彰式
ついに結果発表です。ランオフでは惜しくも敗れはしたものの第三位に輝いたのは、横山 誠人さん&こころペア。
タフなランオフを制し、見事2位に輝いたのは、大塚 眞澄さん&ホクのペア。
そして、記念すべき第一回森山メモリアルカップ優勝の栄冠を手にしたのは、秋山 芳徳さん&桜子ペア。なんと前週には、ガンドッグレトリーブトライアル協会の主催する最上位クラスの年間チャンピオンシップでも優勝を果たしたばかりとのこと。
表彰式の後には、ジャッジを務めた磯野 麻衣子さんから、出場した全16ペアそれぞれに対する総評が伝えられました。ガンドッグトレーニングに必要な専門的なテクニックやコマンドではなく(もちろんそれらも大切ですが)、ジャッジを務めながらつぶさに観察した各ペアの個性を伸ばすための的確なアドバイスが送られていたことが印象的でした。
楽しいガンドッグコンペをやりたい
森山 敏彦氏が最後に遺した「楽しいガンドッグコンペをやりたい」という言葉。ダミーを回収して戻ってきた犬たちに対して会場中から惜しみなく浴びせられる拍手、そして、愛する犬を迎え入れるハンドラーたちの笑顔のなかに、森山 敏彦氏の言葉の意味と受け継がれた遺志を感じ取ることができました。
出場されたハンドラーの皆さんと愛犬たち、そして実行委員の皆さん、お疲れさまでした!
森山メモリアルカップ実行委員長の松島 葉子さんと、ジャッジを務めた磯野麻衣子さん
最後にみんなで記念撮影
おまけ
第一回森山メモリアルカップが開催された八ヶ岳中央農業実践大学校の荘厳な景色と、駆け抜けるガンドッグたちの迫力をドローン映像でお楽しみください!