犬を盗んだら何罪?(刑法235条)

文:島 昭宏(しま あきひろ)

突然ですが、犬(Dog)がタイトルに出てくる曲で最も有名なのは、エルビス・プレスリーの「Hound Dog」でしょうか。

初期のプレスリーは、もう最高ですね!

それでは、Dogをタイトルに入れた曲を最もたくさん歌っている人は誰か、ご存知ですか?

ちゃんと調べたわけではありませんが、たぶん、ルーファス・トーマス(Rufus Thomas)というアメリカの黒人シンガーでしょう。1950年代から60年代にかけて活躍し、「Walkin’ the Dog」という曲が大ヒットしました。もう、大好きです!

この曲は、その後、ローリング・ストーンズやエアロスミスなど多くの人たちにカバーされていますが、どのバージョンもそれぞれの味があって、まさに甲乙つけ難いぐらいにカッコいいです。機会があれば是非聴いてみてください。

さらにこの人の面白いところは、先ほど書いたとおり、Dogがタイトルに入った曲を次々に作っているところなんです。例えば「The Dog」、「Can Your Monkey Do The Dog」、そして「Somebody Stole My Dog」。

・・・この曲なんて、「誰かが僕の犬を盗んだ~」と本当に泣き声で悲しそうに歌うんですが、それがまたなんともコミカルで魅力的なんです。実はこの人、歌だけではなくタップや漫才など、テレビでも人気のエンターテイナーだったとのことで、その才能をシンガーとしても遺憾なく発揮しているわけですね。Dogのほかにも、Chicken、Bird、Penguin、Bear、Bear Catなど、色んな動物が出てきますよ。

ところで、「Somebody Stole My Dog」にあるように、犬を盗んだら何罪でしょう?

突然、法律の話になりますが、これがもし人間だったら、未成年者略取罪または誘拐罪(刑法224条)ということになり、さらに状況次第で営利目的(同225条)や身代金目的(同225条の2)が罪名にくっつき、それに引き続き監禁罪(同220条)等も成立して、罪がどんどん重くなります。

しかし、犬の場合、そうはならず単純に窃盗罪です(同235条)。窃盗罪とは、「他人の財物を窃取した者」に成立する犯罪です。これに対し、誰のものか分からない物、例えば、海辺に落ちていた財布を拾って自分のものにしてしまった、という場合には、遺失物横領罪(同254条)という窃盗罪より軽い犯罪となります。

そうすると、例えば野良犬だと思われる犬を自分のものにしてしまったら、これは犯罪でしょうか?野良犬が「財物」といえるかどうかが一つの問題となりますが、もしそうだとしても、「他人の財物」ではないので、少なくとも窃盗罪にはあたらないでしょう。ところが、実際は誰かから、「その犬は放し飼いにはしていたけど、自分が面倒をみていたんで俺の財物だ、だから窃盗罪だ」と訴えられたらどうなるでしょう。

このようなケースについて、かつて最高裁判所は、放し飼いにしてはいるが夕方には家に帰る習性がある犬について、支配を及ぼしうる地域の外に出ていたとしても、占有を離れていないと判断しました(最判昭32年7月16日)。「占有を離れていない」とは、つまり「他人の」ということで、外を自由に走り回っていて、飼い主がいないように見える犬であっても、夜になれば決まった場所に帰る習性を持っている犬を連れ去ってしまった場合には、窃盗罪となり得るということです。

今では、野良犬はほとんど見かけないので、このようなことが問題となることはなさそうですが、猫については十分にあり得る話ですね。

少し話は逸れますが、最近、動物愛護活動をしている方々から、劣悪な環境で、まったく世話をせず、いわゆる虐待ともいえるような環境で、犬や猫をたくさん飼っている人から、動物を引き離して保護する方法はないか、という相談をよく受けます。この場合、犬たちを黙って連れ去れば、窃盗罪となってしまうのは確実です。しかし、その飼い主は、自分なりにかわいがっていると主張するでしょうから、自ら動物を引き渡してくれることは期待できません。

さてどうすれば、そのかわいそうな動物たちを守ることができるでしょうか?次回は、この難問について考えてみたいと思います。

あ、それと、僕が部会長を務める東京弁護士会・公害環境委員会動物部会の主催で、来年2017年1月14日(土)午後2時より、霞が関の弁護士会館2階の講堂クレオにおいて、シンポジウム『人と動物の共生する社会の実現へ —ペット流通のあるべき姿を考える—』を開催します。詳細はまた次回お知らせしますが、ご関心のある方は是非ご予定いただきますよう、よろしくお願いいたします。

ABOUTこの記事をかいた人

島 昭宏

1962年名古屋市生まれ。1985年よりロック・バンドthe JUMPSボーカル。翌年にはブルーハーツらとオムニバス・アルバム『JUST A BEAT SHOW』を発表し、現在まで多数のCD等リリース。また、時代の転換期に直接対峙すべく、2010年末に弁護士となり、2014年には約4000名の原告による原発メーカー訴訟の弁護団共同代表として、新しい人権「ノー・ニュークス権」を提唱している。現在は、この人権を広めるため、「島キクジロウ&NO NUKES RIGHTS」としても活動し、2015年8月にはCD『ROCK'N'LAWYER宣言』をリリース。アーライツ法律事務所代表、日本環境法律家連盟(JELF)理事、東京弁護士会環境委員会副委員長・動物部会長、一般社団法人えねべん代表理事。