文と写真:白石花絵(しらいし・かえ)
滝川クリステルさんが代表を務める一般財団法人CHRISTEL VIE ENSEMBLE(クリステル・ヴィ・アンサンブル)。VIE ENSEMBLEは、フランス語で「ともに人生を歩む」「一緒の命」という意味だそうで「同じ価値の命がお互いに支えあう社会、共存・共生する社会の実現」への願いを込めています。
そのクリステル・ヴィ・アンサンブルでは、一般市民の皆さんが動物ボランティアにもっと身近に参加できるよう、また動物への知識を深められるように、「Foster Academy」を主催しています。
協力しているのは、一般社団法人Do One Good。動物の里親制度の普及・啓発活動、災害において動物に関わる被災者への支援活動などを精力的に行っています。Do One Goodは、東京・青山にある国連大学で毎週末開催されている「ファーマーズ・マーケット」の一角で、2010年より『ペットのアダプションイベント』をスタート。アダプションイベントというと日本では聞き慣れない言葉ですが、ようは『譲渡会』のことです。アダプト(Adopt)とは英語で「〜を養子にする」を意味します。ペットショップで簡単に命を売り買いするのではなく、養子にする覚悟で、犬猫を迎えてほしいというDo One Good代表の高橋一聡さんの強い想いが滲み出ているネーミングといえます。また「毎週末、とにかく青山に行けば、必ず保護犬に会えるという状態にしたい」と、複数の動物愛護団体、動物福祉団体と連携し、交代制でアダプションイベントを開いています。いろいろな団体をとりまとめ、7年間も継続するというのは、ものすごいエネルギーと根気が必要と想像できます。さらにいまは青山だけでなく、恵比寿や横浜でもこのアダプションイベントが開かれていて認知度も高まってきました。
写真提供:一般社団法人Do One Good
写真提供:一般社団法人Do One Good
実は、高橋一聡さんはラグビー界ではかなり有名な方らしく、明治大学ラグビー部時代には大学日本一を3度も経験したという人。近年でもラグビー部の監督の依頼をされることもあり、犬業界の中では異色の存在といえます。でも彼の言葉のなかには、どの業界にも共通する、ひとつの真理がありました。
“いろいろな人がいるから、チームが強くなる。同じ人ばかりではだめなんだ。”
写真提供:一般社団法人Do One Good
これは動物福祉を進めるうえでも、大事なキーワードだと感じました。とかく動物愛護業界は「あの団体と一緒にやるならいやだ」などとネガティブな意見が聞かれることも正直あります。でも高橋さんは、来る者拒まず、動物愛護・福祉の気持ちがある人ならば寛容に受け入れます。拒絶するのではなく、多様性を大切にする。これからの日本の動物福祉をポジティブに推進するうえで、高橋さんのような存在は非常に重要になってくるのではないでしょうか。
第14回Foster Academy「自分にも出来る動物ボランティア」
さて前置きが長くなりましたが、2016年10月1日、この高橋一聡さんが講師をした第14回Foster Academyが東京都渋谷区にて開かれました。題して「自分にも出来る動物ボランティア」。動物ボランティアに関心を持つ人みんなに聞いてもらいたい入門編のセミナーでした。
「動物保護団体のレスキュー活動は、<保護する>→<管理(ケア)する>→<譲渡(アダプト)する>の繰り返し。でもいまは常にキャパオーバーなんです。とくに<管理(ケア)する>ところ。どこで管理するかといえば、たとえば施設があるところではシェルターですし、一般家庭が自宅で一時預かりをしています」
彼は「フォスター」とは「育む人」だと表現し、活動に参加する人はみんなフォスターだと言います。英語では「(実子のように)育てる、養育する、心に抱く」とありますが、32歳でアメリカに渡米し、ペットについて学んだ彼らしい価値観だと感じます。
「フォスターというのは、里親になることだけとは限らない。心に抱く人も含まれるんですよ。それに全部をひとりで背負い込まなくてもいいのです。たとえば、たまたま先日自分も打ち合わせ先の近くで2匹の子猫を保護したのですが、そのときすぐに仲間がミルク・ボランティアを名乗りでてくれました。同時進行で別の人がミルクなどの必要なものを買い出しに行ってくれて、さらに別の人が子猫を搬送をしてくれました。そういう風に、一時預かりの仕事を細分化して、個人の負担を減らす、あるいは効率よく管理することができるのだと実感しました」
写真提供:一般社団法人Do One Good
「さらに2匹の子猫がいるということは、ほかにきょうだい猫はいないのか? 母猫は? 母猫をこのままにしていたらまた産んじゃうよね? だからTNR(Trap:捕獲→Neuter:不妊去勢手術を行う,Return:元の場所に戻し地域猫として見守る)もしなくちゃ、ということも考えなくてはいけない。それをひとりでやろうとしたら大変だけど、いろいろな人が関わって、連携することによって可能になります」
“ひとりひとりができることを寄せ集めると、もっといろんなことができる。”
たしかにそうだと思いました。ラグビーなどのチーム制スポーツとなんだか似ています。得意な人が自分のできるジャンルのことをやる。自分ができないことは、別の人に分担する。いろいろな人がいれば、それだけいろいろな才能や特技が集まるといえます。
また直接、動物をケアするだけでなく、やることはほかにもあります。たとえば、多くの団体では、譲渡会や動物病院に連れて行くためのドライバーやクルマの協力者を必要としているそうです。あるいは譲渡会で販売するオリジナルおやつを袋詰めする人、カレンダーを発送する人、イベントで販売係をする人、チラシを配布する人、預かり犬のブログを書いて情報を拡散する人、シャンプーをしてくれるトリマーさんなどなど……自分は寄付くらいしかできない、と考えている人は多いですが、実はいろいろなマンパワーが必要とされているのです。そういえばそうだ、なるほどなと思いました。
高橋さんのお話しの途中、参加者が班のように5〜6人ずつに別れてディスカッションもしました。ある参加者は「老猫が複数いるので、これ以上猫は引き取れないのだが、何か手伝いをしたいのに寄付しかできなくて、日々もどかしく感じていた」、「一時預かりの希望をしたのに、仕事や住環境の関係で、団体に断られた経験がある。そのせいで悩んだり、悔しい思いをした」。このように愛護団体もいろいろなところがあるので、どこに声をかけたらいいのかわからなかったり、拒絶されるのが怖かったりと、志願したくても手を挙げられないというボランティア希望者の声が意外とあったことに驚きました。
そこで高橋さんは「Japan Animal Welfare Center構想」を考えているといいます。「日本まるごとシェルター計画です。情報を一元化して、個人のプレイヤーをつなげていく、つまり団体に属していないフォスターの力を活用できるようにしたいのです。また団体側も、どういう人がいま欲しいのか、必要なのか(たとえば自宅を留守にせずにミルク・ボランティアができる人、クルマで動物の輸送を手伝える人など)を明確に示してその募集の情報を共有する。いろいろなフォスターがさまざまな団体を支えるプレイヤーになるのです」
とても壮大な構想です。でも団体に属したくはないけれど、動物のために何かしたい、という人は潜在的にたくさんいると思います。仕事の空いた時間にだけ手伝えるとか、こういう仕事なら自分でも手伝えるなどの、単発だったり、得意分野だったりの役割を担うプレイヤーが、動物を育む人、心に抱く人(=フォスター)になれば、大きなうねりになるはずです。
高橋さんの構想は、一見するとあまりに壮大で、本当に実現できるかなと思ってしまう人もいるかもしれません。けれども、7年間も地道に継続しているアダプションイベントの実績や、福島県や熊本県の被災地に何度も駆けつけ、これもまた継続して飼い主さんのサポートや物資の配給を行う同じくDo One Goodの活動のひとつ「7iro CARAVAN」を見ていると、高橋さんたちの懐の広さ、バイタリティー、人を包み込む温かさ、体力(笑)などをひしひしと感じます。そして、着実に有言実行しています。
写真提供:一般社団法人Do One Good
今回のセミナーは、そんな高橋さんのお人柄と、日本のアニマル・ウェルフェアの新しい可能性を感じさせる意義あるものでした。今後も定期的に同じ内容のお話しを動物ボランティアに関心のある学生さんやフレッシュなボランティア・ビギナーに聞いてもらいたいと感じました。