犬の飼い主を表す素敵な言葉

文と写真:藤田りか子

犬(ペット)を飼っている人を表す言葉、日本語では「飼い主」という。標準語としてはまぁ、これでもいいかもしれないけれど、日常で使う言葉として、もう少し愛情のこもった表現があればいいと思われたことはないだろうか?

でもスウェーデン語にはあったのだ!「飼い主」の他に 素敵な言葉が!

「フッセ」と「マッテ」

日本語では犬を所有している人のことを、「飼い主」という言葉で表す。これは英語でも同じだ。“dog owner” であり、 直訳しても全く日本語と同じである。でも、状況によっては、この言葉なんとも味気がない。ならば自分のことを、犬の「ママ」とか「パパ」という風に呼んでみてもいいのかもしれない。が、それではなんとなく気恥ずかしいという人もいるだろう。私のように犬に関した記事やブログを生業とする者とっても、まさか誌面に「パパ」「ママ」とも書くことがなかなかできず「他に言葉がないの!?」と頭痛のタネでもある。英語に探してみても、やはり状況は同じで、犬の飼い主は “Mom” と “Dad” 。「ママ」と「パパ」の英語訳であり、人間に対して使われる言葉を兼用している。

さて、スウェーデン語にはとても便利な言葉がある!男性の犬の飼い主は「フッセ(Husse)」、女性は「マッテ(Matte)」と呼ばれる[1](決して日本語の「フセ!」と「マテ!」からもじったものではない、念のため)。ニュアンスとしては、「パパ」と「ママ」なのだが、しかし この言葉を使って子供が両親を呼ぶことは決してない。つまり、犬(ペット)の飼い主のための特別な、とても便利でかつ愛情に溢れた言葉なのだ。例えば イベント会場で

「フッセ、マッテの皆さん、外の気温が高いですよ、犬を車に長時間閉じ込めないように!」

などとアナウンスが流れてきたりする。「犬の飼い主の皆さん!」と呼ばれるよりも、ずっと情にあふれていいではないか。

ちなみに「フッセ」と「マッテ」という言葉は、実は古いスウェーデン語に由来する。そこでは、「フッセ」は家長、「マッテ」は家長の妻、という意味となる。決してスラングではなく辞書にもある言葉だが、法律や学術的な場では使われず、その場合は、日本語と同様に犬の「飼い主(Hundägare)」と表される。

Matte02

[1] 実はドイツ語にも同じ言葉がある。

男性の飼い主は “Herrchen (ヘアヒェン)”、女性の飼い主は “Frauchen (フラウヒェン)” という。

ママ、パパと犬との距離感

面白いことに、スウェーデンでは「フッセ」と「マッテ」という言葉があるにもかかわらず、この上さらに、自分のことを「ママ(Mamma)」と「パパ (Pappa)」という言葉で呼ぼうとする人も現れ始めた。こちらの方は、まさに人間の親子関係において使われる言葉だ。

この現象は何を意味しているのか?偏見かもしれないが私の目から見ると、どうも最近増えた小型犬の飼い主に自分のことを「ママ」や「パパ」と呼ぶ人が多いようにも思える。長年のドッグスポーツ・ファンの間ではあまりその傾向は見られないかもしれない。これは、おそらく飼い主自身の心情の表れだろう。 自分と犬のあり方 を親子関係に等しいものとして見なしている。となれば、「フッセ」や「マッテ」ではまだ物足りない、というわけだ。

この現象についてスウェーデンの有名なドッグトレーナーであり行動コンサルタントのエヴァ・ボッドフェルトさんは

「私自身は犬に対して自分のことをママと呼ばないけれど、それだけ多くの人々が犬を本当の家族の一員とみなしている証拠でしょうね」

ある意味、犬を擬人化している、ということでもある。だが、エヴァさんはこう語る。

「それで犬に必要な幸せを家族が与えていれば、別に自分をママと呼ぼうと、あるいは 服を着せようと、私は構わないと思います」

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2016.08.23

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者