犬を迎える心構え。犬と暮らすということは、命ある「家族の一員」が増えるということ

犬を飼いたいという動機は人それぞれ。「犬がいたらもっと家の中が明るく和やかになるだろう」「犬と一緒に散歩や旅に出かけると楽しそう」「子どもに愛情や命の大切さを教えたい」など、そこには犬と暮らしたいと願う人々の様々な夢があります。

そんな犬との暮らしを考え始めた方々に向けた新連載「犬との暮らしの始め方」では、約20年間に渡り、テリア種を中心としたブリーディング、犬の社会化やトレーニング、ホテルや一時預かり(犬たちにとっては、パピー時代を過ごした場所なので、さながら「実家」のよう)、トリミングサロンなどを運営されているドッグス・プロショップ「テリアス」の監修により、犬を迎える上での心構えや準備、基本的な飼い方やトレーニングについてなど、犬と暮らす上での基礎知識をご紹介していきます。

犬と暮らすことで始まる新しい生活

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出典:http://dog-terriers.com

犬と暮らすようになって、家族の会話が増えたという話はよく聞くことです。もしかしたら「飲み会の回数が減って、夫の帰りが早くなった♪」というご家庭もあるかもしれませんね。犬の行動や仕草の数々は見ていて飽きることがなく、毎日、楽しく明るい話題を提供してくれます。

また、疲れたときや心が穏やかでないときに、犬が側に来てからだをすり寄せてくれたり、じっと目を見つめてくれるだけで、人は心が癒されたりします。

しかし、テレビCMや映画のなかに出てきた犬を見て、あたかも「流行の商品」かのように欲しいと思ったり、ペットショップなどで抱っこした犬を衝動的に「買った」結果、実際に犬と暮らし始めると、こんなはずじゃなかったということになり、飼養を放棄してしまう人達、そして行き場を失ってしまう犬達が存在することも事実です。また、飼養放棄までは至らなくとも、犬としての幸せを享受できないままに飼われてしまっている犬達も存在します。

もちろん、衝動的に飼い始めたものの、飼い始めた後に犬についてしっかりと学び、愛犬との幸せな日々を過ごしている方も多くいらっしゃいますが、不幸な犬が一頭でも生まれてしまわないためにも、やはり飼う前に十分に考慮しておくことを推奨します。

犬を飼うということは、命ある「家族の一員」が増えるということであり、犬のいなかったそれまでの毎日とは全く違う「新しい生活の始まり」です。人にとっても犬にとっても幸せな日々を過ごせるように、犬と暮らし始める前には、まずはどういったことを考えなければならないのでしょうか?

犬がいる生活を具体的にイメージする

まずは犬と暮らす生活について、夢をおおいに膨らませましょう。同時に、自分はどういう目的で犬を飼いたいのか、そしてご自身のライフスタイルについてしっかりと考えましょう。

「休日には愛犬を連れてキャンプに行ってアクティブに過ごしたい」「子どもと仲良く遊んでくれる犬がいい」「家が狭いので小さな犬がいい」など、それぞれの希望やライフスタイルは異なるはずなので、まずはそれをはっきりさせておきます。そうすれば、いざ犬を飼うということになり、ブリーダーやペットショップに足を運んだときにも、より具体的な相談ができるようになります。

犬と暮らす「責任」を考える

犬の平均寿命は約15年。人の一生と比べるとずっと短いその「生きる時間」は全て、飼い主に託されていると言っても過言ではありません。犬と暮らすことを決めた飼い主は、どんなことがあっても一生面倒をみるという覚悟を持つ必要があります。

犬を飼う前には、「家族全員が賛同しているのか」「世話をしたり犬とコミュニケーションを取る時間は十分に取れるのか」「家族旅行に出かけるときに犬はどうするのか」「犬を飼うことのできる居住空間なのか、十分な広さや快適な温湿度、風通しや採光、衛生的な環境を用意してあげられるのか」「散歩をはじめとした十分な運動をさせてあげることができるのか」「フード代、美容やケアに必要なお金、ワクチン代やもしものときの医療費などの出費は可能なのか」「何かの事情で万が一自分が世話ができなくなったときに頼れる人はいるのか」といった様々なことを予め真剣に考慮しなければなりません。

加えて、人間社会のなかで一緒に暮らすためのルールを犬にきちんと教育することも、犬と暮らす人間の大切な役割です。他の人へ迷惑をかけないように犬をしつけていれば、犬と一緒にカフェへ行ったり旅行へ行ったりと、犬と一緒に出かけられる選択肢も拡がります。それは飼い主と一緒にいることに喜びを感る犬達の喜びにも繋がります。社会的な動物である犬にとっては、他の犬との接点を持つ機会を用意し、犬同士の接し方を教えてあげることも大切です。しつけや社会化を行うということは、犬への愛情の証なのです。

飼わないという選択もひとつの愛情表現

出典:http://dog-terriers.com

家族全員の賛同も得られ、様々なことを熟考した結果、犬を飼うという選択をされる方は、犬と暮らす「責任」を忘れることなく、愛犬との素晴らしい生活を思いっきり楽しんでください。犬と暮らすためには大変なことも多いですが、頭が良く人間を仲間と認識し、人間と心を通じ合うことのできる犬達は、家族の良き一員や良きパートナーとなって、かけがえのない日々を過ごさせてくれることでしょう。

様々なことをあらかじめ考慮した結果、犬を飼うのは難しいという結論に至った場合には、飼わないという選択肢を取ることも、犬という生き物に対するひとつの愛情表現です。仮に根拠もなく「この犬は簡単に飼えますよ」と言うペットショップがあったとしても、安易に流されてはいけません。

どうしても犬を迎えたいけど熟慮すると迎えて良いのか分からない…という方は、ご自身の希望やライフスタイルを整理した上で、犬と暮らすということの楽しさも大変さもしっかりと話してくれるようなショップやブリーダーを探すところからスタートしましょう。

残念ながら、犬の幸せや福祉を考慮せず犬を単なる「商品」と考える悪質なペットショップや繁殖業者が存在することも事実です。ショップやブリーダーを通じて犬と出会うのであれば、犬に対する知識も愛情もある信頼できるショップやブリーダーを見極める目を持つことも大切です。

次回は、信頼できるペットショップやブリーダーの見極め方についてお話しします。


監修:園田 瑛一(ソノダ エイイチ)|テリアス統括マネージャー

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1982年、イギリス・ロンドン生まれ。生まれた時から犬のいる生活。2歳の時に愛犬の上にソファーから落ち、目の上を噛まれたことで、犬歯の強さを知る。

4歳の時に日本に帰国し、慶應中等部時代に出会ったドッグス・プロショップ「テリアス」創業者の早河清五氏の犬の飼い方・しつけ方に惹かれ、1999年に17歳でテリアスに入社。22歳まで早河氏のもとでトリマー・パピートレーナーとしての修業を積み、2004年に22歳で単身渡英。イングランド南のブライトンにてグルーマーとトレーナーの仕事を経験した後に日本へ帰国。2014年より統括マネージャーとしてテリアスへ復帰。