預かっている犬が人を噛んでしまった…。法律上の「占有者」と「管理者」について(民法718条)

文と写真:島 昭宏(しま あきひろ)

うちで預かりをしていた、時々噛みつく柴犬「シバジロー」の里親さんが決まりました!

実は9月の中頃のお見合いで、「噛みつくぐらい平気です」という若い女性に決まって、そこに連れていかれたんだけど、なんとたった1日で「やっぱり無理です」ってことで、戻ってきちゃったんです。しかし今回は、以前も噛みつく柴犬を10年以上も飼っていたというご夫婦で、その子が2年ほど前に亡くなって、また同じように元気な?柴犬を飼いたいということなんで、きっと大丈夫でしょう。庭にはドッグランのようなスペースもあるようですから、シバジローも幸せになるに違いありません。まあ、基本的には本当に賢い、いい子で、ただ時々変なスイッチが入っちゃうってだけだし。

どんな子でも、望んで迎えてくれる人がいるんですよね。本当によかったです。

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さて、いい加減、法律の話をしなければなりませんね。

まず、犬に関わる法律ってどんなものあるんでしょう?

狂犬病予防法、動物愛護法といった名前が思い浮かびますが、まずは民法が重要です。例えば、シバジローがよその人に噛みついてケガをさせてしまったという場合には、民法718条を見る必要があります。まず同条1項には、このように書いてあります。

民法718条1項:動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。

法律上の「占有者」という言葉には、それなりに難しい意味があり、民法180条に「占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する」と書いてあります。この規定からも、占有者の典型例は所有者ということになり、ペットの飼い主が占有者にあたることは間違いありません。ですから、自分が飼っている犬が人にケガをさせてしまったという場合には、この民法718条1項本文によって、損害賠償責任を負うことになります。

ただ、それに続く「但し書」があります。これは、飼い主に過失がなければ、免責されるということを規定しています。例えば、ちゃんとリードを持って散歩中、子どもが近づいてきたため、「危ないから手を出さないでね」と注意したにもかかわらず、不用意に頭を撫でようとして噛まれてしまった、という場合には、この但し書の適用によって免責となる可能性もあります。

ちなみに、シバジローの場合、僕は里親さんが見つかるまでの間預かっていただけで、「自己のためにする意思をもって物を所持」していたわけではないんで、占有者ではありません。自己の責任において彼を引き取り、里親さんが見つかるまでお願い、ということでうちに預けた某動物病院が、占有者として責任を負うというだけです。シバジローは、見た目はやや小さめの可愛い柴犬なんで、散歩をしていると色んな人が「あー、かわいい!」と言って近づいてきましたが、もし噛みついてケガをさせても僕に責任はないんで、何も言わず見ていました。

・・・なわけはありません。同条には第2項があります。

民法718条2項:占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。

この管理者とは、典型的には、飼い主から動物を預かっている人を指します。飼い主が旅行中に動物を預かる友人や、ペットホテルあるいはその従業員などをイメージしていただければいいでしょう。この場合、飼い主はその場にいないわけですから、注意のしようがなく、預かっている人が責任を負うことになるわけです。つまり、シバジローが噛みついたりすれば、やはり僕はこの2項によって、管理者としての責任を負うわけです。

ここで、「管理する者も」と書かれているとおり、被害を受けた人との関係では、占有者と管理者はともに責任を負います。つまり、例えば20万円の損害が発生したという場合には、被害者は飼い主と預かっていた人の双方に20万円を請求することができます。占有者と管理者との間で、どのような割合で責任を負うべきかは、別の問題となります。例えば、子どもがとても苦手で、子どもが手を出すとすぐに噛みついてしまうという性質がはっきりしているのに、預ける際にそのことを説明していなかった、などという場合には、飼い主の責任が重くなったりするわけです。

ちょっとややこしいかもしれませんね。しかし、法律は、このように被害の回復を優先させるとともに、責任の負担も公平にされるよう作られているのです。法律のこのような仕組みをあらかじめ知っておくことは、事故を防ぐことにもつながります。法律に馴染むことは簡単ではないかもしれませんが、次回からも是非頑張って読んでみてくださいね。

ABOUTこの記事をかいた人

島 昭宏

1962年名古屋市生まれ。1985年よりロック・バンドthe JUMPSボーカル。翌年にはブルーハーツらとオムニバス・アルバム『JUST A BEAT SHOW』を発表し、現在まで多数のCD等リリース。また、時代の転換期に直接対峙すべく、2010年末に弁護士となり、2014年には約4000名の原告による原発メーカー訴訟の弁護団共同代表として、新しい人権「ノー・ニュークス権」を提唱している。現在は、この人権を広めるため、「島キクジロウ&NO NUKES RIGHTS」としても活動し、2015年8月にはCD『ROCK'N'LAWYER宣言』をリリース。アーライツ法律事務所代表、日本環境法律家連盟(JELF)理事、東京弁護士会環境委員会副委員長・動物部会長、一般社団法人えねべん代表理事。