熊本地震が発生して間もなく、あるチームが福岡から被災地へと出動しました。
チームの名は「災害派遣獣医療チーム(VMAT)」。獣医師や動物看護士など1チーム4~5名で構成され、大規模災害などの急性期(おおむね48時間以内)に動物救護のために活動するための専門的訓練を受けた機動性の高い獣医療チームです。
動物を対象とする日本初の災害医療チームとして2013年に福岡県獣医師会が組成した福岡VMATには、現在、獣医師31名、動物看護師22名の計53名が登録しています。
人命救出の教訓を得た阪神・淡路大震災、動物救護の課題が顕在化した東日本大震災
出典:http://www.telegraph.co.uk/
人命に関する災害時の緊急医療チームについては、阪神・淡路大震災での教訓を活かして、2005年にDMAT(Disaster Medical Assistance Team:緊急災害医療チーム)が設立、国の防災基本計画の中に正式に取り込まれました。
DMATは平時から災害時の医療支援に関する訓練を受け、災害発生時には48時間以内に出動、被災地での医療活動を速やかに行うためのチームです。
一方で、ペットなどの動物については混乱する被災地ではどうしても対応が後回しになってしまいがちです。
この課題が議論の対象となったのが東日本大震災でした。
多くのペット達が行方不明になった他、十分な医療を受けられない、また強いストレスを受けるなどして命を落としてしまったペットもいました。
人命と同様に動物の命も救うため、福岡獣医師会のまとめた「緊急災害時における動物救護のガイドライン(PDF)」に基づき、VMATは言わばDMATの動物版として福岡獣医師会の船津敏弘獣医師の主導によって立ち上げられました。
熊本地震へも出動したVMATの役割はどんなもの?
自然災害等により動物に重大な影響が広範囲に発生した場合、その対応のために動物救護対策本部が設置されます。
VMATはこの対策本部の実行部隊としての役割を担うことになります。
活動内容は広範で、被災地の情報収集、放浪動物の保護、シェルターの開設・運用、避難所を巡回して被災者からの相談窓口、動物病院への搬送指示などが想定されています。
熊本地震でも、熊本県獣医師協会からの要請があり、要請の2日後には現地に入り活動を開始しました。
実際には想定されていた活動のみならず、ペット用品の配布や被災した飼い主さんの精神ケアにも取り組んでいるようです。
無論、こうした活動に平常時からの準備が必要となる他、自治体や地元動物病院、非営利団体等、各機関との連携が欠かせません。
災害が実際に発生した場合にスムーズに活動を実施できるような基盤を築くことも重要な任務となります。
群馬県でもVMAT設立へ。広がる被災時の動物救護対策
こうした災害時のペットの救護対策の必要性については急速に理解が広まっています。
2013年に環境省は「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定し、備蓄品のリストや避難方法、シェルターのあり方、自治体や獣医師会の役割等について提示を行っています。
一方で、地方自治体でも各県獣医師会との間で災害時の動物救護や避難に関して協定を結ぶといった例や、近隣の行政同士での協力支援体制を敷くといった例も出てきています。
さらに福岡県で始まったVMAT設立の動きは他県にも広がりを見せ始めており、今年の3月には群馬県でも群馬VMATが国内2例目のVMATとして発足しました。
熊本地震を契機に改めて問われた災害時の動物救護対策、今後のさらなる充実により、人命と共に大切な家族であるペット達の被害の減少につながることが期待されます。
参考: