虐待ともいえるような環境で犬や猫を飼っている人から、動物を引き離して保護する方法は?

文:島 昭宏(しま あきひろ)

最近、動物愛護活動をしている方々から、劣悪な環境で、まったく世話をせず、いわゆる虐待ともいえるような環境で、犬や猫をたくさん飼っている人から、動物を引き離して保護する方法はないか、という相談をよく受けます。前回予告した通り、今回はこの難問について考えてみたいと思います。

まず所有権はその飼い主にありますから、勝手に持ち出してしまえば、窃盗罪となってしまいます。また、他人からは酷い扱いに見えても、本人は十分に愛情をもって飼っているんだと言い張るかもしれませんし、「虐待だなんてとんでもない!」と反論するでしょう。

動物愛護法の7条には、所有者又は占有者の責務が書かれています。その1項では、「動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」とされ、続く2項では感染性の疾病の予防、3項では逸走の防止、4項では終生飼養、5項では繁殖の制限、そして6項では、所有者の明示(マイクロチップ等のこと)について、いずれも「努めなければならない」と規定されています。これらは、いわゆる努力義務がですから、違反した場合についての罰則等はありません。罰則については、虐待や飼育放棄等に対する罰金等があるだけで、動物を取り上げるという規定は存在しないのです。

では、狂犬病予防法に基づく予防注射を受けさせていなかったとしたらどうでしょう?
同法4条1項には、犬の所有者の市町村長等への登録義務、5条1項には、狂犬病の予防注射接種義務が規定されています。しかし、これらの義務を怠った場合の罰金についての定めはありますが、犬を取り上げられるというような罰則は、どこにも書かれていません。ただ、6条1項には、「予防員は、第4条に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は第5条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない」と書かれています。予防員とは、都道府県知事の職員である獣医師のうち、知事から任命された人です。さらに、同条7項には、抑留した犬について、所有者への通知、そして9項では、この通知を受け取った後1日以内に所有者がその犬を引き取らないときは、「処分することができる」とされています。 この「処分」とは、殺処分を含みますが、同時に譲渡をすることもできます。
そうすると、狂犬病予防注射を接種していない犬を発見した場合には、予防員に知らせて抑留してもらい、その後、その子を譲り受ける、という流れは考えられそうです。動物を保護するという立場ではなく、狂犬病については、人に対する侵害を予防することを目的として、このような強力な対策が規定されているのですね。
動物福祉という観点からの法整備はまだまだこれからと言っていいでしょう。ただ、広い意味での環境問題や公害問題は、これまでも従来の法解釈では超えられないと考えられた壁を、様々な新しい法律構成を創り出すこと等によって風穴を開け、解決へと導いていったのです。したがって、動物福祉の問題も、ただ法改正や立法を待つだけではなく、ケースに応じた工夫と行動を繰り返すことが重要でしょう。

さて、前回も少しお知らせしましたが、東京弁護士会・環境委員会の動物部会によるシンポジウムが以下の通り開催されます。ご関心のある方は、是非ご参加ください。参加費は無料、事前のお申込みも不要です。


人と動物の共生する社会の実現へ-あるべきペット流通を考える-


動物愛護や動物福祉に対する関心が高まり、多くの人たちが不幸な動物をなくそうと様々な取組みを行っている。しかし、今も年間10万匹もの犬や猫が殺処分され、大量遺棄など痛ましい事件が後を絶たない。
今回のシンポジウムでは、来る動物愛護法の改正に向け、8週齢規制、飼養施設基準、マイクロチップ義務化、動物取扱業者の許可制導入等、ペット業界の健全化に向けた論点を整理し、現実的かつ実効的な法政策につき、議論を行う。

日時: 2017年1月14日(土)午後2時~5時
場所: 弁護士会館2階講堂クレオ(東京メトロ丸の内線「霞ヶ関駅」)

基調講演 太田匡彦(朝日新聞 文化くらし報道部 記者)

パネルディスカッション
 パネリスト
 太田匡彦(朝日新聞・文化くらし報道部記者)
 藤野真紀子(料理研究家/元衆議院議員)
 米山由男(一般社団法人全国ペット協会・名誉会長)
 塩村あやか(東京都議会議員)
 コーディネーター 島 昭宏(環境委員会副委員長)

◇問合せ 東京弁護士会・人権課 TEL 03-3581-2205

 

※画像はイメージです。

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島 昭宏

1962年名古屋市生まれ。1985年よりロック・バンドthe JUMPSボーカル。翌年にはブルーハーツらとオムニバス・アルバム『JUST A BEAT SHOW』を発表し、現在まで多数のCD等リリース。また、時代の転換期に直接対峙すべく、2010年末に弁護士となり、2014年には約4000名の原告による原発メーカー訴訟の弁護団共同代表として、新しい人権「ノー・ニュークス権」を提唱している。現在は、この人権を広めるため、「島キクジロウ&NO NUKES RIGHTS」としても活動し、2015年8月にはCD『ROCK'N'LAWYER宣言』をリリース。アーライツ法律事務所代表、日本環境法律家連盟(JELF)理事、東京弁護士会環境委員会副委員長・動物部会長、一般社団法人えねべん代表理事。