犬の目線で見てみると

文と写真:三井 惇

新年明けましておめでとうございます。新しい年を迎えたタイミングということもあり、皆さんと愛犬たちとのより良い一年を祈願して、今日はドッグダンスに限らず、今まで暮らしてきた8頭の犬たちや、日ごろ私に沢山のことを教えてくれるレッスンの犬たちと関わる中で感じた大切なことをちょっとお話しようと思います。皆さんが「犬と一緒に何かする」「犬に何かを伝える」、そんなときに思い出していただけると幸いです。

原因はなんだろう。

人はついつい失敗した結果に目が行きます。「どうしてそうなったんだろう」という原因を考える前に、「出来るはずなのに、なぜやらないんだ。」と考えてしまいがちです。

「ちゃんと教えたのだから出来るはずだ。」
「いつもちゃんと出来ているのだから、今回やらなかったのはわざとだ。」

などなど、いろいろ人間目線で考えて答えを出そうとします。しかし物事にはかならず原因があります。相手が犬だとついつい忘れがちになりますが、犬の立場で見てみると、「なるほど」と思うことがきっとあると思います。

教えたのになぜ出来ないの?

「ちゃんと教えたはずなのに、出来ないのはなぜ?」

その理由はいくつか考えられますが、ひとつの原因は以前書かせていただいた「犬は刺激に弱いんです」にあります。
いつも練習している環境と同じであればできるが、環境が変わると難しくなるというのはよくあることです。飼い主さんと一対一なら指示のキューもちゃんと耳に届きますが、横を他の犬が歩いていたり、大きな音がしていたり、いい匂いが漂ったりしていれば、いつもと同じように出来なくなってしまいます。
そのために、競技会など一発勝負に臨む人たちは様々な状況を想定した練習を重ねていくわけです。
「ウチは家庭犬だから『訓練』とかいらないわ。」と敬遠してしまわないで、「どこでも出来るように練習しましょう。」と気軽にやってみてください。絶対成果は出てきます。

ふたつめは、単純に周囲の刺激に気をとられているだけではなく、犬が不安になって、どう行動していいのかわからなくなっている場合などがあります。
代表例は、留守中の悪戯や破壊、トイレの失敗などではないでしょうか。そんな時は「これみよがし」ではなく、ちょっと理由を考えてみませんか?
例えば飼い主さんがいないことによる寂しさや、外の音に対する不安、退屈していることによるストレス発散などなど、いろいろな要素が浮かんできます。その要素をなるべく減らしてあげると、結果が変わってくるかもしれません。

また、愛犬が理解したはずだと思いこんでいたけれど、実はまぐれの行動で、本当はちゃんと犬に伝わっていなかったなんてこともあります。よくあるのが、「フセ」と「オスワリ」の混同です。「オスワリ」と言ったのに「フセ」をしてしまったりしても、そのままにしていれば、犬はどっちも同じと理解していたりします。

なんで吠えたり噛んだりするの?

また、犬たちだって楽しくて興奮すれば、ついつい声が出てしまったり、エスカレートしすぎて歯が当たってしまうことがあります。それを容認するかどうかはそれぞれのお家のルールによると思います。
しかし楽しい時でない場合、唸ったり、吠えたり、噛むという行動が出る時は何かのストレスサインです。

パピーなのか成犬なのかによっても異なりますが、それらを放置しておくことは、人にとっても犬にとってもいいことではありません。なぜならお互いのストレスとなってしまうからです。
単純に、「この子は他の犬が嫌いだから。」「この子はわがままだから」「この子はビビりだから。」と決めつけてしまわないで、理由を考えてみませんか?

ダイニングテーブルでみんながご飯を食べていると傍でワンワン吠える。もしかしたら、誰かが一度テーブルから美味しいものをあげてしまったので、またもらえると思って催促しているのかもしれません。

また、人にも相性があるように、犬にも相性があります。苦手なものもあるかもしれません。
それらをいちいち気にしなくても大丈夫なもの(こと)にしてあげるには、時間をかけてあげなくてはいけません。逃げ場がなくなった時、犬にとって自分を守る方法が噛むことしかないのであれば、それはその子にとっても飼い主さんにとっても悲劇です。愛犬が唸ることで発しているストレスサインに気づいてあげられれば、なんらかの別の方法が取れるかもしれません。

ドッグダンスはハンドラーの創意工夫が不可欠

ドッグダンスで様々なトリックを犬に教える時、「この子にはこの教え方が正解だったけど、この子では難しそうだから他の方法で。」ということが良くあります。
犬だって個体差があるので、理解力や受け止め方が違います。

例えば、こんな経験はありませんか?
私がスキーを始めたのは大学に入ってからだったので、体で覚えるのではなく、頭で覚えるしかありませんでした。そんな時、ある人は「曲がるときは谷川の足に体重をかけて。」と教え、ある人は「曲がるときは曲がる方の肩を少し下げて。」と教えてくれました。
この時私にとってわかりやすかったのは後者の教え方で、前者の教え方だと、片側の足に体重が乗ったままスピードが増してこけてしまいました。

「どうやったらこの子にわかりやすく伝わるだろうか。」こんなことを考えながら犬たちと会話しています。もちろん、一つのことを教えるのに何か月もかかることがあります。かかり過ぎだよ!と言われそうですが、そればっかりやっているわけではないので、なかなか進まないことがあります。それでも出来た時は自己満足ですが嬉しいものです。もちろん沢山褒めてあげるので、犬にもこちらの気持ちは伝わります。

毎日コツコツ。根気は必要ですが、愛犬の様子をよく観察しながら、彼らの目線に立ってみると、愛犬との距離がまた一歩縮まるかもしれませんよ。

 

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。