熊本地方の地震で被災された皆様、心よりお見舞い申し上げます。
過去の震災時の経験をもとに、震災のストレスを受けたペットに見られる症状、それらのサインを見つけたときに飼い主の皆さんはどのようにペットと接するのが良いか、どういった点に注意してあげれば良いかについて、「伴侶動物の行動学」の知識を活かした行動問題の治療、しつけ方指導、病気のパートナーのメンタル面(精神面)のケアを専門とするV.C.J.代官山動物病院の藤井 仁美 獣医師(行動診療科)の監修のもと以下にまとめました。
地震によるストレスを受けたペットの症状
過去の震災時にストレスを受けたペット達に見られた主な症状として、次のようなものが挙げられます。元の性格によって一概には言えないところもありますので、普段の様子と照らし合わせてご判断ください。
- 些細なことへ過敏になり、吠えたり暴れたり咬んだりするようになる。
- 大きな音や声を非常に怖がる。些細な物音や声にも反応する。
- 周囲を見渡し、キョロキョロと落ち着かなくなる。
- 人から離れなくなる。独りにすると震えたりパニックになる。
- ハウスのなかや物影から出てこなくなる。逆に囲われた環境(行動制限)を嫌がる。
- 常にビクビクと怯え、細かい震えが止まらなくなる。
- 早く浅い呼吸(パンティング)が続く。
- 足先などを過剰に舐めたり尻尾を追って回り続ける。
- 眠りが浅くなる。
- 食欲が落ちる。
- 散歩に行きたがらなくなる。
- いつものトイレとは違うところで排便排尿をしてしまう。
- 嘔吐、下痢、便秘など、胃腸系が不調になる。
震災ストレスを受けたペットへどう接するか?
震災後のストレスを受け、上記のような行動が見られるようになったペットと接する上で最も大切なことは、ペットを不安にさせないこと、飼い主さんのペットへの愛情を伝え、不安を和らげられるように飼い主の皆さんが行動することです。飼い主の皆さんの動揺はペットにも伝わってしまうので、まずは飼い主の皆さんが落ち着いてリラックスしているところを見せてあげてください。
具体的には次のような行動を心がけてください。こちらも元の性格によって一概には言えないところもありますので、それぞれのペットの性格に応じて参考にされてください。
- なるべく側にいて抱っこしてあげたり撫でてあげたりといったスキンシップを取る。但し、ハウスのなかや物影などで安心しているようでしたら無理に抱え出さずにそっと様子を見てあげてください。
- 笑顔で繰り返し優しい声をかけてあげる。
- ケージやクレートのなかに飼い主さんのハンカチやタオルなどを入れておいてあげる。
- 可能であれば安定している他のペットに会わせてあげる。
- 無理のない範囲内で少しずつペットの好きな遊びやトレーニングをしてあげる。
飼い主が注意してあげたいこと
ペットを不安にさせないように、次のようなことについて注意してください。
- 大きな声を出して命令したり、怒ったりしない。
- ハウスや物陰から出てこないときに無理にかまわない。
- ドアの開け閉めの際などに大きな音を立てない。
- 食器などを落として大きな音を立てない。
- テレビやスマートフォンなどの音量はなるべく下げる。
東日本大震災の際には、余震に伴う緊急地震速報の音に驚いてパニックになってしまうペットが多く見られました。速報が聞こえる範囲で音量は小さくし、飼い主の皆さんが速報の音になるべく動じないようにしてあげてください。とても難しいことだとは思いますが、飼い主の皆さんがリラックスしていてあげることが最も重要です。
***
飼い主の皆さんご自身も余裕がない状況のなか、ペット達に対しても細かく気を配るのは大変だとは思います。構えすぎることなく、出来る範囲内でペット達と向き合い支えてあげてください。無理をして飼い主さんのストレスが増してしまうことは飼い主さんにとってもペットにとっても良いことではありません。「〜〜しなければならない」と強く思いすぎるのではなく、普段通りにペットを大切に思う気持ちで接してあげてください。その気持ちはペット達にも伝わるはずです。そして、しばらく症状が緩和しないようでしたら、薬物療法や行動療法を要するケースかもしれませんので動物病院への受診をお勧めします。
皆さんが1日でも早く普段の生活に戻れることを心よりお祈り申し上げます。
V.C.J.代官山動物病院 藤井 仁美 獣医師(行動診療科)
10年間在住した英国ロンドンで学んだ「伴侶動物の行動学」の知識を生かして動物病院やドッグトレーニングスクールで幅広く活動。V.C.J.代官山動物病院でも行動問題の治療、しつけ方指導、病気のパートナーのメンタル面(精神面)のケアを専門に行う。
- 1990年 東京農工大学卒
- 2001年 英国応用ペット行動学センターにて研修、公認インストラクター資格を取得
- 2007年 英国サザンプトン大学院にて動物行動学を専攻
- 2009年 伴侶動物行動カウンセラーのディプロマを取得
- 2013年 獣医行動診療科認定医の資格を取得