東日本大震災の教訓から生まれ、熊本地震の被災地へも出動した「ペットのレスキューカー」とは?

熊本地震の発生から約10日が過ぎた頃、被災地での活動を伝える福岡県獣医師会のFacebookページの投稿のなかで、見慣れない大きな車の姿が目に入りました。

「アニコムレスキューカー」と呼ばれるその車では、熊本県獣医師会からの要請を受けて福岡から被災地へ出動したVMAT(災害派遣獣医療チーム)と共に、被災ペットへの応急処理を行っているということでした。

熊本地震にも出動したVMAT(災害派遣獣医療チーム)とは?広がりを見せる災害時のペット救護対策

2016.05.05

ペット保険を扱う会社であるアニコム損害保険株式会社が、どういった経緯でこういった車を開発し、熊本の被災地へ訪れることになったのか、同社にてレスキューカーの開発を指揮し、被災地での支援活動を行ってきた獣医師の小川 篤志(おがわ あつし)さんからお話を伺うことができました。※こちらの記事の内容は、2016年5月末のインタビュー時点での情報です。

アニコムレスキューカーとは?

【編集部】アニコムレスキューカーは、どういった車なのでしょうか?

社内では「健診車」と呼んでいるのですが、昨年2015年の6月に2台が完成し、ちょうど1年になります。災害救助車という目的で作られ、平常時には、広報活動の一環として、各種イベントでの健康診断といった健康啓発活動に使用しています。

動物病院の診察室のような車内

動物病院の診察室のような車内

災害時における被災地での動物の診療活動を目的として作られているので、動物病院の診察室とほぼ変わらないくらいのことができる車です。

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レスキューカー車内で診療を行う小川さん(左)

レントゲンやエコー(超音波)のような診療器材はありませんが、通常の診療や血液検査などに対応できます。

東日本大震災の教訓を受けて

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【編集部】どういった経緯で開発されたのですか?

東日本大震災のときの教訓を受けて、「動物用の動く診療車、動く病院を作りたい」というところから始まりました。

津波によって動物病院すらも跡形も無くなってしまい、現地に動物を診療できる施設が少なかったという経験から、現地に入って災害救助車として活躍できるような車を用意しようという発想から生まれたものです。

キャンピングカーをベースに独自開発

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【編集部】他に類を見ない車だと思うのですが、どのように開発されたのですか?

日本にもワゴン車をベースとした往診車というものはありますが、災害救助を目的として使われているものは私が知る限りでは海外も含めて聞いたことがありません。

実際の開発にあたり、乳がん検診車や献血車をベースにすることも考えたのですが、病院の香りがして、いかにも病院といった中身になってしまい、すごく無機質な印象になってしまう恐れがありました。そんなときに、大きなキャンピングカーの後部座席のベッドルームを取り外すと診察できるのではというアイデアが生まれ、キャンピングカーを専門に扱っているディーラーさんの紹介で改造を請け負ってくれる業者さんにお願いして開発しました。具体的な開発の内容は家のリフォームに近いかもしれません。

【編集部】レスキューカーならではの特長は?

車内で人が宿泊できるという点です。実際に震災が起きたときに、その場にステイできるかどうかが重要になります。大きな災害を想定すると、医療従事者側が寝泊まりしたり生活できないと、翌日の診療に支障をきたしてしまいます。その点、車自体はキャンピングカーをベースとしていて、ベッドやコンロやシャワーが備え付けられているので、診療の終わった夜には休息を取ることができるということが大きな特長です。

レスキューカーが熊本を訪れた経緯

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【編集部】熊本へはどういった経緯で訪れたのでしょうか? 

熊本県獣医師会からの要請を受けた福岡県獣医師会からの依頼を受け、現地入りしました。単独行動ではなく組織立った動きだったので、VMATや熊本県獣医師会の先生方との連携を取って動くことができました。

私達が現地を訪れる1週間ほど前に、弊社から獣医師3名が入り、支援物資を運んだり、福岡県獣医師会の先生方とのコミュニケーションを取って、何かできることがないかを話し合いました。弊社では、通常時の業務において各県の獣医師会の先生方とも繋がりを持たせていただいているので、福岡県獣医師会の先生方もレスキューカーの存在をご存知だったのです。

アニコム損害保険株式会社では、創業以来、ペットの飼い主の方々だけではなく、動物病院との繋がりも拡げることにより、「窓口精算システム」という独自の仕組みを確立し、提携動物病院に行けば、人の健康保険と同じように精算時にアニコム負担分を除く自己負担分のみを支払えば良いという保険商品を生み出しました。従来のペット保険では、動物病院での診療後に保険金請求手続きの手間が発生するのが一般的だったのに対して、窓口精算システムの利便性が支持され、現在は約60万件もの契約者のいるペット保険となっています。

熊本でのレスキューカーの支援活動

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【編集部】現地へはレスキューカーで?

私ともう一名とが交代でレスキューカーを運転し、約17時間ほどですね。朝8時半くらいに出て夜の1時か2時くらいに、無事博多に到着しました。

【編集部】現地ではどういった活動をされたのですか?

4月24日から5月1日までの8日間、私を含む3名で熊本県益城町を訪れました。現地ではグランメッセ熊本というイベント会場を本部として、そこから健診車を飛び道具として利用し、各地の避難所など色々なところで診療をするというやり方での支援を行ってきました。

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動物病院も被害を受けてしまうほどの大規模な震災発生時において、大切なペットに何かがあったらどうすれば良いのか、それはペットと暮らす方々にとっては非常に大きな不安になることでしょう。そういった不安の解消に繋がるアニコムレスキューカーの存在は、被災地のペットを愛する皆さんのとても大きな心の支えになったのではないでしょうか。

次回、小川さんと、同じく共に熊本を訪れた同社獣医師の兵藤 未來(ひょうどう みき)さんのお二人から伺った、熊本を訪れるに至った思いや被災地を目の当たりにして感じられたこと、支援活動の内容やお二人が考える今後の課題についてをお伝えします。

 

※画像提供:アニコム損害保険株式会社