イギリスで飼い犬への装着が義務付けられたマイクロチップ。普及が求められる背景を4つの視点から解説

2016年4月よりイギリスで8週齢以上の飼い犬にマイクロチップの装着を義務付けする法律が施行され、違反者には£500(約78,000円)以下の罰金が科せられることになりました。

イギリスの中でも一部の自治体では既に施行されていましたが、今月からは全国で義務化がスタートしました。

マイクロチップとは

動物の個体識別のための電子媒体。各チップには番号が割り当てられ、住所や飼い主の名前、犬の健康履歴などが登録されます。専用のリーダーで読み込むことで番号を認識、専用のデータベースなどで調べることで、犬の飼い主を特定することなどができます。

日本でのマイクロチップ普及率は?

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 出典:http://www.mypet.com/basic-pet-care/microchipping-pet.aspx

日本でもマイクロチップの導入が少しずつ始まっていますが、普及率はまだまだ低いのが現状です。

日本における動物IDの管理を行っている動物ID普及推進会議(AIPO)のホームページによると、現在のマイクロチップ登録犬数は約130万件。

犬の推定飼育頭数が約1,000万頭であることから普及率は10%台と考えられます。

動物愛護管理法第7条第3項にも

「動物の所有者は、その所有す る動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置とし て環境大臣が定めるものを講ずるように努めなければならない。」

という努力規定が存在し、その候補としてマイクロチップが明示されていますが、マイクロチップの普及がなぜこのように求められているのか、4つの視点から解説します。

1. もしもの迷子や盗難に備えて

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出典:http://www.wall-pix.net/animals/00002801.jpg.html

環境省の統計資料によると日本で迷子などにより行政で保護される犬の頭数は年間に4万頭以上。殺処分されている犬の数は年間に2万頭以上になります(殺処分数は飼い主による持ち込み頭数も含む)。

犬が迷子になってしまった際に、マイクロチップが埋め込まれていれば飼い主さんをすぐに特定することが可能で、速やかに飼い主さんのもとに返してあげることができます。

悪意を持つ者による盗難時にも同じことが言えます。もしものときに大切な愛犬と無事再会するためにも正確なデータが保存されたマイクロチップが果たす役割は大きいといえます。

2. 飼い主の責任を明確にするために

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出典:https://dogvacay.com/blog/amazing-reasons-to-become-a-pet-sitter/

保健所などに保護される迷い犬の中には、残念ながら飼い主から飼養放棄された犬達もいます。

飼い主には一度飼いはじめたペットは最後まで飼養する責任が伴いますが、放棄されてしまった犬の飼い主を特定するのは難しいものです。

飼い主の責任を明確にして、人間の勝手な行動を防ぐことにもマイクロチップが一役立つと考えられています。

3. 社会のコストを抑えるために

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出典:http://www.businesstimes.com.sg/government-economy/us-dollar-falls-vs-euro-yen-after-good-us-jobs-report

迷子になった犬は行政に引き取られると保健所などに収容されます。または支援団体などが引き取り、新たな飼い主さんを探すこともあります。

当然、保健所や支援団体の運営には多額の費用が必要となるため、少しでも早く飼い主さんに返してあげることができればコストの抑制にもつながりますし、そもそもの迷子犬の数を減らすことができれば、どうしても飼い主が見つからない子にコストを充てることが可能となります。

4. 社会衛生を守るために

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出典:http://washingtondogandcathospital.com/

どの犬がいつ予防注射を受けたか、どのような病気にかかったことがあるのか、こういった情報を管理できると病気の蔓延や感染症の広がりを抑止できることがあります。

例えば子供が迷子になった犬に噛まれてしまった場合、マイクロチップから予防注射の履歴を読み取ることで、感染の可能性のある病気を速やかに調べることが可能です。

また、感染症などについては病気が広がっている地域を特定したり、どの程度広がっているかを簡単に把握することで、速やかに対策を打ち出すことができるようになるかもしれません。

 マイクロチップ普及に向けて

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出典:https://www.breederretriever.com/blog/life/can-dogs-sense-danger

マイクロチップ普及に向けた課題としては、愛犬にマイクロチップを埋め込むことによる抵抗感を持つ飼い主さんも多く、イギリスにおいても費用負担の問題やマイクロチップを埋め込むことによるペットへの健康被害を危惧する声も出てきています。その一方で迷子や盗難を防ぐための手立てとして、義務化へ賛同する声も多く上がっています。

東日本大震災や熊本地震では多くの犬が飼い主さんと離れ離れになってしまいました。

動物愛護センターや支援団体の活動、SNSをはじめとしたインターネット技術の発達により、飼い主さんと再会できた犬の数は増えてはいるものの特定は簡単ではなく、飼い主不明の犬が多くなる災害などの緊急時にはマイクロチップの利用により効率的に飼い主さんのもとに返してあげることができます。

まだ日本では普及段階にあるマイクロチップですが、利用のメリットや安全性、危惧する点についてなど、是非一度かかりつけの獣医師さんとお話しされてみてはいかがでしょうか。

 

出展・参考:

BBC 「Dog microchipping becomes compulsory across UK

環境省「マイクロチップによる動物の個体識別の概要

環境省「動物の愛護及び管理をめぐる 現状と課題