北欧メガセミナー、大成功の巻!

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文:藤田 りか子
写真:生熊 友博

さて、『INU MAGAGINE(イヌマガジン)』でもかねがね予告をしていたプレイボゥ主催、ボルボ・カー・ジャパン協賛による「北欧メガセミナー」が、10月7日から13日の1週間に渡って開催された。VOLVO(ボルボ)の故郷、北欧スウェーデンから3人のインストラクターを迎えてのイベント、まずは大成功、大好評にて幕を閉じた!今回はそのご報告を。

幕開けは渋谷での座学セミナーにて。講師は、なんと私!お題は「トレーナーの言い分 vs 飼い主の言い分 〜 日本へのヒント、動物理解の大国スウェーデンから探る」。トレーナーの立ち位置や、何を飼い主に理解してもらうべきか、何が飼い主にとって理解し難いことなのか、という話をした。さらに、北欧におけるトレーナーの特性やトレーニング方法のトレンドを、映像を見せながら解説。その後六日間に渡って行われる北欧のドッグトレーナー・セミナーの真髄を汲み取ってもらうべき、序章となったと言えるだろう。

遊びの時の飼い主に対する感情は本当にポジティブ?

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日本での講演はこれで2回目というイェシカ・オーベリーさん。遊びに対する関心は高く、今回一番人気のセミナーとなった。

メガセミナーのトップバッターは『「犬と遊ぶ」レッスン・テクニック』の著者としてお馴染み、イェシカ・オーベリーさん。イェシカさんは長年の競技会、家庭犬ドッグトレーナーでもあり、現在は 職業的に働く嗅覚探知犬のトレーニング・コーチでもある。トレーニングをする彼女だからこそ、「遊びの大事さ」を説くのだ。遊びを通して犬に生まれ出るポジティブな感情を利用、犬と飼い主の素敵な関係を築くことを提唱する。

まず参加者は、各々愛犬との遊びを披露することに。そこでイェシカさんは遊びが本当に犬にとってポジティブなものになっているか診断をした。遊ぶには遊ぶけれど、おもちゃが遠くに投げられてしまうと、落ちた場所でかじり始め人との遊びに興味を失う犬もいた。そんな時、イェシカさんは飼い主に

「遠くに投げるから、あなたとのコンタクトが薄れて、うっかり他のことをし始めてしまうのよ。近くに投げてみて。そして犬がくわえたら、すかさず後退する!そう、遊びにもっと動きをつけて!」

言われた通りに遊んでみると、みるみるうちに犬の動きと態度に変化があらわれた。一人と一匹がより楽しく、そして協調をしながら遊ぶという図に変わっていったのだ。そしてイェシカさんは

「遊びが遊びとして機能するためには、本当に犬の中にポジティブな感情が湧いていることです。犬は時に『ちょっとしんどいのだけど』という気持ちで、とりあえず人の遊びに付き合っているっていうこともあるんですよ」

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飼い主は犬に付いて行っちゃダメ!犬が飼い主に付いてゆく!自然にそういう風になるように遊びをつくりあげること!
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おもちゃを使うことが遊びの全てではない!おもちゃよりも飼い主と「ベタベタ」するのが好きな犬には、それを遊びとして導入する。ちなみにこの犬種は日本ではとても珍しいイギリスを原産国とするランカシャー・ヒーラー。つい最近FCIで公認犬種となった。 

回収をすることをご褒美!として考えてみると…?

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エヴァさんは、今回ノーズワークの講師として共に招待されているバルブロ・リーデンさんに「犬(!)」になってもらった。そしてどのようにハンドラーは振舞うべきか、デモストレーションを行った。とても協調的なバルブロ犬だったので、わかりやすかったのは言うまでもない!

エヴァ・ボッドフェルトさんは、レトリーバーの競技スポーツ、フィールド・トライアルを目指すハンドラーのためのクリニックを開催した。まずは簡単なトライアルを開催してハンドラーと犬のパフォーマンスを動画として撮影。その後、教室に戻り、動画を一緒にみながら何を改善すべきか、一組、一組のペアについて詳しくコーチング。例えばハンドラーにダミーを返したものはいいものの、側でピョンピョンと忙しなく動いてしまうレトリーバーに対してエヴァさんは

「次の回収に出すまでに、これでは犬は前方への集中力を欠いてしまいます。どうすればいいか?ならば、戻ってきた後に犬のアクティビティレベル(テンション)を落としてあげればいいんですね」

ピョンピョンしてしまう行動に対してエヴァさんは、決して「叱る」という 解決法に頼らない点にも注目されたい。もっとも叱れば余計に犬のテンションを上げて、ますます扱いにくくなるのだが!そして犬のアクティビティ・レベルを落とすというトレーニング は家の中でも簡単にできるもの、とも。エヴァさんの話を聞いていると、どんなに難しそうなトレーニングでも、自宅の 居間で出来るような単純なエクササイズに全てが置き換えられてゆくのだ。なんだか魔法のようでもある。

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すぐに犬からダミーを取り上げるのではなく、上体を起こして後退をして!ハンドラーは犬に対して体を覆い被さりがちになる。これはどんなドッグスポーツを行なっている際も気をつけなければならないとも。

しかしこれら発想は、まさにトレーナーならでは、の創造力の賜物でもあるだろう。そして 多くの参加者にとって何よりも目からウロコの体験となったのは、エヴァさんのこの言葉。

「レトリーバーにとって回収というのは、その行動自体、既にご褒美にあたります。…と考えると、では、ハンドラーとしてみなさんは、そのご褒美が何に対して与えられているのか、と考えなくてはなりません」

ピョンピョンと落ち着きない行動を見せているにもかかわらず、そのまま回収というご褒美をあげていれば、ますますピョンピョン行動を助長してしまう、ということでもある。つまり「回収前の行動をよく考えて」、というのがエヴァさんの メッセージ。とても単純なことだ。なのに、どうして考えつかなかったのだろう…! と誰もが思ったはずだ。これぞ、エヴァさん独特のトレーニング・ワールドとも言える。どんなに複雑に見えるトレーニング、あるいは問題行動の解決も、因数分解をするように、一つ一つの要素を単純にとらえることから始まる。

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主催者であるプレイボゥの代表、森山琴美さんは、フィールド系のゴールデン・レトリーバーのケイティを伴ってエヴァさんのセミナーに生徒として参加。素晴らしいヒールウォークを披露。ケイティは、北欧メガセミナーにふさわしく、実はスウェーデン生まれ!
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セミナーの最後は、フィールド・トライアルのシュミレーション・テストで締めくくり。何をジャッジにみてもらいたいのか、それは参加者が決めることに。レトリービング(回収)そのものよりも、多くのペアはヒールウォークの重要さを認識しており、その部分を特にみてもらった。何しろここが回収の出発点となるところ。

あっという間に犬たちの集中力が変わったノーズワーク!

レトリーバーのフィールドワークというのは、ドッグスポーツの中でも高いレーニング能力と犬及びハンドラーの資質が必要とされるものである。その一方で、誰でも、犬種を問わず参加できるノーズワークというドッグスポーツも、北欧スウェーデンでは大ブレークとなっている人気のアクティビティだ。その紹介ともなるべきノーズワーク・セミナーを開催してくれたのが、バルブロ・リーデンさんだ。

床にいくつもの箱が一列に並べられ、まずは箱に犬が鼻を突っ込んで何かを探す、という動作からのトレーニングが始まった。この時に、ユーカリのにおいは使わない。最初は箱を見て「何だろう!」と不思議がっていた犬たちは、すぐにニオイに誘われて、箱の中に入っているトリーツを次々と見つけた。

「な〜んだ、これ楽しい!箱の中にニオイを探せばいいんだね!」

とすぐに要領を得た。回数を重ねてゆくほどに、犬たちは「箱を一つ一つ丹念に鼻で調査する」という行動を確実に身につけていった。一見すると、本当に税関で 荷物を検査している探知犬のよう。それほどどの犬たちも素晴らしい嗅覚能力を見せたのだ。参加した人々も、普通の家庭犬が職業犬と変わらぬ情熱で作業を凛々しくこなしている姿にすっかり魅せられた! ノーズワークをきっかけとして 嗅覚を利用してスポーツを楽しむ面白さを経験したとも言えるだろう。

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最初は箱にトリーツを入れて「箱を調査させる」という癖づけから始める

さらに二日目では、ユーカリのニオイをトリーツと一緒に箱に入れて、犬たちにサーチを行わせた。スウェーデンではこのニオイの学習だけで 5週間をかけて完了させる(週に一回のコース)。今回は時間の制約があるために、完全に犬たちに学習をさせることはできなかったが、それでもほとんどの犬たちが勘よくユーカリにおいを探し当てた!そして、最後には「お試し」として実際にノーズワーク競技会の前に行われる「ニオイ識別テスト」を行った。何と、数頭の犬たちがちゃんとニオイを探し当てたのだ!あっぱれ。

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ノーズワークの4つの課目の一つ、車両サーチもトライ!ユーカリのニオイとトリーツを組み合わせて練習をおこなった。

最後に

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3名の講師達の母国スウェーデンが生んだカーブランド「VOLVO(ボルボ)」のプレミアムSUV、XC60と一緒に記念撮影

各講師のセミナー毎に、興奮と学びはフルスピード、実はあっという間に六日間は過ぎてしまった。ちょっとしたアドバイス、発想の逆転や転換 によって、犬たちの態度や行動がどれだけ変わってゆくか、トレーニング先進国の北欧の講師たちによってまざまざと見せつけられた 。参加者の誰もがすっかりインスピレーションを得て、 この感動の継続を望んだ。その流れで、実はノーズワークのファンが集うFacebookグループ(メガセミナー参加者に限らず、またトレーニングの流派やグループを問わずノーズワークスポーツに興味のある人が集まるグループ)も立ち上げられた。さらに後日、嬉しいお便りを主催者のプレイボゥさんからもいただいた。セミナー見学に来ていたプレイボゥ・スタッフの皆さんも、エヴァさんやイェシカさんの犬の感情を汲み取りながらの賢いトレーニング方法にすっかり心を打たれ、二人の北欧トレーニング・スタイルを早速トライしているということだ。

さて、噂によると来年も開催されるかも…ということ。乞うご期待!

そして最後に…。『INU MAGAGINE(イヌマガジン)』スタッフの方の サポートについても言及をしたい。セミナーでの動画による充実の授業は『INU MAGAGINE(イヌマガジン)』カメラクルーの素晴らしい働きによるものだからだ!

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ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者