文と写真:三井 惇
以前の記事で、公園で出会った子供たちが「お手。おかわりは?」と言っても、我が家の犬たちがやらなかったと書きました。
理由は簡単。言葉が違っていたからです。
つまり、ウチでは「お手」は「ポウ」で「お変わり」は「フット」と教えているので、犬たちはそのとき何を要求されているかわからなかったのです。
もちろん犬は機械ではないので、一語一句間違えないように言わないと反応しないわけではありません。長年一緒に暮らしていれば、日常的に私が「オスワリ」を「sit」と教えていても、同居している母がちょっと前かがみになりながら、「〇〇ちゃん、おすわりは?」と言えば座ります。
犬もちゃんと心得ているので、こういう場面で要求されるのは多分これだろうと予測で動くこともあります。
そうは言っても、日常的に聞きなれない言葉に対して瞬時に反応することは難しいので、犬にもわかる言葉で話してあげることがコミュニケーションの一歩と言ってもいいでしょう。
合言葉はなんですか?
犬に何かを指示する時、以前は「コマンド」とよく言われていました。
しかし、「命令する」という意味合いが強いので、最近は「合図の言葉」や「キュー」というのが一般的になってきています。
「キュー」は飼い主さんと犬とのいわゆる「合言葉」です。それが日本語なのか、英語なのか、はたまたドイツ語であろうと、お互いがわかっていれば問題ないわけです。
特にドッグダンスの場合、さまざまなポジションやトリックが増えてくると、それぞれのネーミングにとても苦労します。意味のある言葉だけでは足りなくなってくるからです。
「ヒール」のキューでハンドラーの左側を一緒に前進しているパートナー
例えば「回転」というトリック一つをとっても、「犬だけの右回り」、「犬だけの左回り」、「犬がハンドラーの周りを右回り」などなど、いくつも回転系トリックがあり、これらの動きには別々の名前を付けなくてはいけません。なぜならすべてが犬にとって違う動きだからです。
物にひとつひとつ名前があるように、「動き」にもそれを意味する言葉のキューを付けてあげると犬が理解しやすくなります。
別に特に難しいことを言っているのではありません。「オスワリ」と言われれば、「腰を落とす動作」を意味していると愛犬が理解できればいいのです。
「オスワリ」でなくても、「Sit」でも「フース」でも、もしかしたら「オシリ」という言葉でも、愛犬が「腰を落とすこと」と意味を理解していれば、どんな言葉でもいいのです。
いちいち言葉で言わなくても愛犬とは以心伝心だから「キュー」は必要ないとおっしゃる方は、心の会話を楽しんでくださいね。
合図(キュー)は言葉だけじゃありません
犬たちは、人間の言葉だけを聞いているわけではありません。
言葉と同時に人間が見せる微妙な動きも一緒に受け取っています。
つまり、聴覚だけでなく、視覚でも飼い主の指示を聞いているということです。
例えば「オスワリ」と愛犬に言うとき、自分の姿を鏡に映してみてください。
ちょっと前かがみになりながら、犬と向かい合って人差し指を立てたりしていませんか?
犬たちは目で見えるものも、合図のセットとして覚えていることが多いものです。
ですから「オスワリ」と言われても、飼い主のボディシグナルが「オスワリ」を意味していなかったりすると、一瞬何を言われているかわからず反応出来なくなるということもありうるのです。
ハンドラーが足を踏み出し「くぐって」とキューを出すと、足の間をくぐりはじめるパートナー
トレーニングの競技会などでは、言葉の合図しかほとんど認められていませんが、日常生活では別に手が動いたり、前かがみになってもかまいません。
ただ、犬が混乱しないように、統一してあげることは大事です。
特に耳が不自由な犬の場合は視力のみが便りですので、わかりやすく指示をだしてあげることが大切です。
我が家のアシスタント犬、トレーニングの最後に「オッケー」と言って解放してあげることが多いのですが、そのとき私が無意識に両手で犬の体をポンポンと叩く癖があり、「オッケー」と言ってないのに、手の動きだけで、勝手に犬がトレーニングを終了してしまったことがありました。
恐るべし、犬の動体視力。
合図の言葉は簡潔に
普段犬と会話をするとき、「もうすぐごはんにするから待っててね。」とか「そろそろお散歩に行こうか。」といったフレーズはよく使われると思います。
犬は時間だったり、飼い主の様子や服装で憶測することができます。
「そろそろお散歩に行こうか。」と言われて、台所においてある食器の前に座る犬はあまりいないと思います。
しかし、散歩で歩いている時、前方から車が来るのを見て、「〇〇ちゃん、車が来るからこっちに来てオスワリしましょうね。」と言っていたら車に轢かれてしまうかもしれません。
緊急であれば、「〇〇、来い。スワレ。」と言った方が犬の反応は速くなります。
ですから、いろいろな合図のキューを考える時は、なるべく短めの言葉にしてあげましょう。
「ビョン」のキューで二本足で立ちあがるパートナー
わかりやすいキュー(合言葉)とは。
前に書いていますが、ドッグダンスのキューは全てのポジションや動きに名前が付いているので、ネーミングをかぶらせないようにすることも大切です。
例えば愛犬に「お回り」を「スピン」、「吠えろ」を「スピーク」と教えてしまった場合、せっかちな犬だと、「スピ・・」と聞いただけで、吠えながら回ってしまう場合があります。なぜなら、どちらも初めの二文字が同じだからです。
特にせっかちでなくても、犬は最後まで聞かずに動き出すこともしばしばです。
日々予測しながら飼い主をじ~っと見ているので、飼い主が立ち上がれば、「遊ぶのか?」「出かけるのか?」と自分も立ち上がります。
「おじぎ」のキューでエンディングポーズ
いずれにしても、愛犬とのコミュニケーションツールになる「キュー」はわかりやすいネーミングにしてあげると早とちりも減るかもしれませんね。
もちろん、飼い主さんがネーミングを忘れないように覚えておくことも大切です。