ノーズワークというスポーツ

文と写真:藤田りか子

「うちの子、取り柄のない犬なの…」

なんてもう言わせません!だったら嗅覚を使わせればいいのである。どんな犬も嗅覚に関すれば天才だってことを、どれだけ多くの人は見過ごしていることか。彼らの鼻こそ天下一品の探索ツールだ。人の嗅覚を切手の大きさに例えると、犬のそれではサッカー場の面積に相当するとも!と考えると、犬に比べて人の嗅覚というのは、爬虫類の知性にも満たないほど、かなり控えめな器官とも言える。

そんな犬の嗅覚のすごさを麻薬探知犬ハンドラーにならずとも、もっと気軽に楽しもうではないか、とある犬遊びがアメリカで考案された。その名も読んで字の如し、ノーズワーク(Nose Work:鼻作業)。アメリカのみならず、現在北欧諸国やポーランドなどでも人気急上昇!そのキャッチフレーズは

「ノーズワーク、万人、万犬のスポーツ」

要は「犬ならできる!」というスポーツなのである。

遊び方は簡単だ!特定のにおいを一定のエリアに隠してそれを探させる。手間いらずで、どこでもできるのがメリット。自宅の部屋はもちろん、都市のど真ん中だって!さらに嬉しいのは、オビディエンスなど基礎トレーニンングが入っていない犬だってできること。他の子と仲良くできない犬ももちろんOK!犬種、ミックス、関係なし。必要なのは、愛犬の鼻だけ!

トリーツ探しよりもワン・ランクアップ!

世間ではノーズワークと言うと「隠されたトリーツを探させるゲーム」との理解もある。鼻を使わせる、という意味でトリーツ探しも立派なノーズワークだ。しかしここで述べているのはスポーツの競技科目として「ノーズワーク」と理解されたい。爆薬や麻薬探知犬と同じように特定のにおいを探すアクティビティ。ただし、当然ではあるが、ノーズワークでは麻薬のにおいは探さない(麻薬所持で逮捕されてしまう!) 。アメリカでは精油(アロマオイル)を、北欧、ポーランドでは、エッセンシャル・ウォーター(芳香蒸留水)をターゲット臭(探すべきニオイ)として使うことにしている。

嗅覚のスポーツには他にもトラッキング(足跡追求)などがある。しかし、足跡をつけるという準備が必要となるなど、ちょっと面倒。飼い主の方でなかなかモチベーションが上がらない時もある。ノーズワークなら、その点、においを染み込ませたフェルト状のシールを容器や箱の中に隠す、家具の後ろに貼り付けるだけで準備完了だ!

匂いをフェルトに染み込ませる。これを隠して、犬に探してもらう

ターゲット臭の種類

競技のレベル(全部で3つ)によって探すターゲット臭と数は異なってくる(表参照)。もちろん上に行くほど数は増える、あるいは一番上のレベルでは捜索エリアにまったくにおいがなかったりするパターンもある(しかし正解を得るには、なかった、ということを審判に報告しなければならない)。

競技レベル/国 アメリカ 北欧(スウェーデン、ノルウェー)、ポーランドなど
NW1 (Nose Work 1) バーチ ユーカリ
NW2 (Nose Work 2) アニス
バーチ
またはそのコンビネーション
ローレル
ユーカリ
またはそのコンビネーション
NW3 (Nose Work 3) クローブ
アニス
バーチ
またはそのコンビネーション
ラベンダー
ローレル
ユーカリ
またはそのコンビネーション
ノーズワーク、国別、レベル別のターゲット臭
※注:バーチの精油に関してはアメリカの獣医師からも毒性があり危ないとの警告が出されており、スウェーデンでは途中で精油の使用を中止した。それでエッセンシャル・ウォーターを使うようになった。

競技会の仕組み

スウェーデンのノーズワーク競技会のシーンから。ヴィークル(車)サーチ(車両の外側に隠されているにおいを見つける)にて。写真手前の女性はジャッジ。
エクステリア・サーチのシーンより(屋外に隠されているにおいを見つける)※北欧メガセミナーより

レベルに関係なく探す環境は4つの科目として定められている。

  1. コンテイナーサーチ(においの隠されている容器を見つける)
  2. インテリア・サーチ(屋内に隠されているにおいを見つける)
  3. エクステリア・サーチ(屋外に隠されているにおいを見つける)
  4. ヴィークル(車)サーチ(車両の外側に隠されているにおいを見つける)

最初のレベルでは例えばインテリアサーチであっても、たった一つのエリアを探すだけ。そして必ずどこかににおいは隠されている。だが、一番上のレベルともなると、探すエリアが 3つになることもある。さらに、そのうち一つのエリアにはまったくにおいがなかったりする。誘惑(食べ物のニオイなど)も隠されており、犬がそれをターゲット臭として告知(お知らせ)してしまったら、もちろん0点! 各々の科目では時間内ににおいを見つければ25点のフルスコアがもらえ、すべての科目でクリアすれば100点が取れる。

制限時間は、大抵3分ではあるが、エリアの広さ、複雑さによって、1分から5分。さらに失点というルールもある。これについては別の機会に詳細を記すが、失点は3点までに限られており、それ以上間違いを犯すと、失格になる。

つまり競い方としては、まず点数ありき。点数が同じであれば、失点数がランクを決める。失点数が同じ場合、探し出すまでの速さがカウントされる。大抵の競技会において、上位は100点同士の競い合い。その中で時間が一番早いペアが優勝する。

もとは保護犬のためのアクティビティ

日本の保護施設にて。コンテイナーサーチ(においの隠されている容器や箱を見つける)をする保護犬。においを探す、という行為を介して、保護犬は環境や見知らぬ人に慣れるトレーニングを自然な形で受けることになる。

スポーツの正式な名称は「K9 ノーズワーク」という。歴史としてはまだ浅く、2006年にアメリカのロン・ガーント、エイミィ・ヘロット、ジル・マリー・オブライアンの3人のドッグ・トレーナーよって作られた。単調な一日を過ごすシェルター(保護施設)の犬たちにメンタルの面で何か刺激を与えたい、というのがこのスポーツ考案の始まりだそうだ。ローン・ガーント氏は警察犬トレーニングのエキスパート。これまでに100頭以上の犬をトレーニング、優秀な麻薬、爆薬などの探知犬を育成してきた。この知識と経験を元にノーズワークというスポーツを構築してみた。氏曰く

「多くの犬が、何かを狩りたい、探したい、という自然な欲を持っています。でも、その欲をはけるところがなく、結局、問題犬になってしまうことがあるのです。でもノーズワークをさせることで、どんな犬も犬ならではのニーズを満足させるチャンスが与えられます」

これこそまさに5つの自由のうちの「正常な行動を表現する自由」が満たされるという意味である。

「ノーズワークをやった後、犬はすっかり満足。家に帰ってもこんこんと寝込みます。これは飼い主にとってもありがたいですよね」

とは、2016年に日本でノーズワークセミナーを開催したスウェーデンのノーズワーク・インストラクター、バルブロ・リーデンさんの言葉。

バルブロ・リーデンさんは2016年に北欧メガセミナーの講師の1人として来日。ノーズワーク・セミナーを山中湖のWoofで開催した。セミナーは大好評!

ところでスウェーデンはアメリカ以外の世界に名だたるノーズワーク王国でもある。2014年にスウェディッシュ・ノーズワーク・クラブが設立。そして今年から世界初ケネルクラブ公認の種目となった。ノーズワーク人口はたった2年の間で2500〜3000人とも(スウェーデンの人口は東京の総人口にも満たないことを考えるとこの数字は驚異だ)。前述のノーズワークの創始者の一人であるロン・ガーント氏を4年前から毎年にわたって招き、トレーナーを集めて勉強会を実施するなど、新しいスポーツのノウハウを確実に蓄積している。その熱心さは筋金入りだ。

ノーズワークの創始者の一人であるローン・ガーントさん(右から2番目)はアメリカからスウェーデンに何度も訪れノーズワークのセミナーを開催。写真はローンさんがバルブロさん(右端)のトレーニング・スクールを訪れた時のもの ※写真提供:Barbro Ryden

ノーズワークがインターペットに初登場!

さて、そのスウェーデンからノーズワーク講師であるバルブロ・リーデンさんをお招きして、3月31日(金)に東京ビッグサイトで開催されるInterpets2017(インターペット2017)にて、ノーズワーク・ショー「子犬からシニア犬まで!今話題のノーズワーク ~デモンストレーションと体験会~」を予定している。

主催はドッグトレーナー養成スクールや犬の保育園を運営する株式会社プレイボゥ(協力:ノーズワーク トレーニング インスピレーション)。

そしてこのノーズワーク・ショーを力強くサポートしてくれるのが、今回の講師バルブロさんの祖国でもある動物福祉先進国スウェーデンで誕生し、現在に至るまで一貫して安全かつ丈夫な車を作り続けているVOLVO(ボルボ・カー・ジャパン)、そして 愛犬のためのプレミアムペットフード・ケアの専門店GREEN DOG(グリーンドッグ)を運営する株式会社カラーズといった犬との暮らしを応援する企業たちだ。

ちなみに私、藤田りか子もコーディネーターとして参加します!

ノーズワークって何?を知りたい人、ちょっとトライしてみたいという人、ぜひ参加されたい。詳細については次回またお知らせしよう!

 

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者