日本のペットマーケットで育った洗練されたドッグアパレルやグッズブランド、美容ブランドやグルーマー達が集まり、「愛犬と愛犬家とのより豊かな暮らし」の実現を目指す “Dog Fashion & Beauty Week” 。
そんな “Dog Fashion & Beauty Week” のキーパーソン達のストーリーを紡ぐインタビュー企画「KEYPERSON’S STORY」。
今回は、トリミングサロン「BUBBLES DOG(バブルスドッグ)」 グルーマーの吉積 優さんにお話を伺いました。
元々グルーマーではなかった吉積さんが、ふとしたきっかけからその道を歩むこととなり、瞬く間に海外にまで活躍の場を広げた歩みと、今後実現したい夢をお聞きすることが出来ました。ぜひ御覧ください。
環境を守る仕事から、グルーマーに転身
(編集部)グルーマーになられるまでのご経歴を教えてください。
環境を守る仕事をしたくて、大学で化学を専攻しまして、その後大学を卒業しまして、環境調査の仕事についていたんです。
それで分析などの仕事をしながらも、やっぱり犬が好きだったんですね。
そんな時にたまたま “わんわん動物園” のような場所に行ったときに、トリマーやトレーナーという仕事があるというのを、そこにおいてあるチラシで見つけまして。
「あ、こんな好きなことが仕事になるんだ。お金がもらえるんだ。」ということを思ったら、環境の仕事もすごく楽しかったんですけど、国家資格とかもあるし(編集部補足:吉積さんは公害防止管理者 ダイオキシン類や毒劇物取扱者などの資格をお持ちとのこと)、もし合わなかったらやめようという気持ちで専門学校に行きました。
そこでトレーナーの勉強をしていたんですが、就職がトリマーのほうがあるというのを聞いて、だったらトリマーもちょっとやっておこうかなという程度の気持ちで勉強をし始めたら、もうハマってしまって。
そこからですね、私のトリマー人生が始まりました。
理論的に考え、ひとつひとつの作業の“理由”を知る
(編集部)どういったことを考えながらグルーマーのお仕事をされていますか?
例えば、ブラシひとつひとつをとっても、原理があるわけですよ。
なぜこのブラシがこの形状をしていて、これがどう働いて犬の毛がきれいになっていくのかという原理を自然に考えながら使っていたんです。
そのことを人に話すと、それ面白いと言われたんですね。
あと、犬の毛を乾かすときに、何で乾くのか?何でこの犬は震えているのか?寒いと感じるその原理はどこにあるのか?を説明すると、また面白いといってくれて。
逆もそうで、自分が当たり前のように”これはこういうものです”と教えられて、決められたことをやっている人って結構多いんですけど、その理由を考えた時に、だからそうなのかという気付きがあるはずなんです。
理論的に考えることで、自分の中にふっと腑に落ちるというか、自分がやっていることは正しかったんだ!とか、自分なりのアレンジを加えられたりとか(しますね)。
グルーマーとして、海外への一歩を踏み出す
画像提供:BUBBLES DOG
(編集部)実際にグルーマーになられてみて、いかがでしたか?
グルーマーの仕事は楽しいんです。最初から思っていたとおり、好きなことでお金がもらえるなんてという気持ちがあったので。
でも、それまでやっていた環境調査の仕事からは、年収で言うと3分の1になりました。時間としても残業も多いし、休みも少ないしという感じですね。
専門学校を卒業した当初は、縁あってそのまま講師のような形で学校で働かせていただいていました。
ただ、もっともっとうまくなりたいとか勉強したいという気持ちがあって、2年半専門学校で勤めた後、カナダに行きました。
誰にもできない経験をするため、単身カナダへ
同い年のトリマーたちとはスタートが違うじゃないですか。(始めた時期が遅かったので、)10年くらいの差があるわけですよね。
でも、負けず嫌いなので追いつきたかったんです。
人と同じことをやっててはダメだと思って、海外のグルーミングを学んでこようと思ってカナダに行きました。
(編集部)なぜカナダに?
ワーキングホリデーがとれたことと、あまり日本人が行っていないところという点ですかね。
カナダでもバンクーバーには日本人が多いんですが、トロントの方は少ないということを聞いていたので。
(編集部)カナダへは留学されたんですか?
(カナダに行った後は、)飛び込みで店に入ったんです。
当時私は全然わからず、グルーミング用のハサミを預け荷物に入れてもダメなんだと思い込んでいて、何も持たずにカナダに行ったんですね。
なので、道具もないし現地でどうするんだということになって。
1ヶ月くらいホームステイをして、イエローページという電話帳を開いて、グルーミングショップを見つけて、かたっぱしからから行ってみたんです。
自分がここいいな、働きたいなと思う店に履歴書を持っていって、「道具ないんですけど、働けますか?」というような英語のセンテンスを覚えて飛び込みで店に入りました。当時はまったく英語ができなかったんですが(笑)。
日本人がいなくて、きちんとグルーミングをやっているところに飛び込んでいったんです。
そしたら、お店のひとから何月何日にここにきてと言われて、指定の日にそこにいくと犬が用意されていました。
「じゃ、この犬を何時間でこのように切ってください」というような感じでテストをやらせてもらって。
そこで技術を見てもらったら、じゃ明日からというような感じで採用していただきました。
そこから1週間くらいで時給が上がって、1ヶ月くらいでメインのトリマーになって、3ヶ月くらいでうちの社員にならないか、と誘われるまでになりました。
海外での挑戦を続けるため、やがて香港へ
画像提供:BUBBLES DOG
まだ日本に帰りたくないと思っていたので、もう一回違う国に行こうと思っていました。それで香港に行ったんです。
(編集部)なぜ香港に行ったんですか?
日本スタイルがまだ染み渡る前というか、ちょうど日本スタイルに目をつけた香港のオーナーが日本人トリマー限定ということで募集をしていたんです。そこから6年くらい香港にいました。
海外でグルーミングを経験したことでわかった“文化の違い”
画像提供:BUBBLES DOG
(編集部)海外での経験は、今どのように活きていますか?
人と違う経験を詰めたので、文化の違いによるスタイルの違いというのがあるということも知りました。
(例えば)カナダはいろんな犬種がいるんです。大型犬とかも多いし、日本ではまず見たことがないような、ポージュギーズ・ウォーター・ドッグなどの珍しい犬種を触ることができました。
珍しい犬種を飼っている方は、こだわりの強い方が多いので、日本であの犬種ですね、となると、こだわりの強い方が心を許してくれるというか。お客さまになってくれることがあったりもしました。
香港や中国の方は、頭が大きいのがお金持ちというような文化がありまして。丸い大きいなカットが人気でした。
あとは、3Dカットというのを遊びでやったら評判が良くて。
(編集部)3Dカットというのは?
プードルとかの犬種は毛がもこもこしているので、形がいくらでもつくれるじゃないですか。
背中とかにテディベアみたいなカットにして、ちょっと色をのせてあげたりすると、ワンちゃんと一緒にクマが動くんですよ。座ると延びたりして。それが可愛かったみたいんで、広まりましたね。
これから実現したい夢とは?
(編集部)グルーマーとしてこれから実現したい夢や目標を教えてください。
教科書みたいなものを作りたいです。
化学とトリミングを融合したような内容で、トリマーを目指そうと思った時にぱっと手にとる本。これを読んでおけばトリマーになる第一歩になるという本が作れたらなと思っています。
そうすることによって、トリマーの地位も上がると思うんですよ。
(トリミングというのは、)職人の世界ではあるんですけれど、学問ではないですよね。学問じゃない分野って社会的にあまり認められていなかったりするので。
動物の世界でも、獣医さんだったら獣医学があるんですが、トリマーはトリマー学はないじゃないですか。
なので、トリミング学・グルーミング学などの学問として確立することを生きてる間にできたらなと思っています。
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環境を守る仕事から、グルーマーに転身。その後、カナダや香港といった異国の地を渡りながら経験を積んできた吉積さん。スタートが遅いからこそ、誰にもできない経験を得るために選択した道は、今では誰にも真似できない技術へと昇華されています。
「カリスマトリマー」と呼ばれる存在になるまでには、人知れぬ努力と研究の日々があったに違いありません。最近では香港時代から生活を共にしている愛猫のビール君と、猫のトリミングについても研究中なのだとか。
第6回Interpets(インターペット)で開催される「10分で可愛く変身!カリスマトリマーによるワンポイントビューティ」では、そんな吉積さんの型にはまらないスタイルを実現する、確かな技術も披露されます。ぜひ足を運ばれてみてください!