【インタビュー】アニマル・ドネーション代表 西平衣里|KEYPERSON’S STORY

「人」と「動物」の真の意味での「共生」を目指し、2010年に設立された、公益社団法人アニマル・ドネーション。いまや多くの企業・団体や個人からの寄付を集める動物関連専門のオンライン寄付サイトとして広く認知されているこの仕組みは、たったひとりの女性の思いからスタートしました。

代表理事である西平 衣里(にしひら えり)さんが、ある出来事をきっかけに行動を起こし、その共感の輪は、動物たちとの共生を目指す大きなムーブメントとして広がり続けています。

今回は、そのアニマル・ドネーションの立ち上げのきっかけや未来のあり方について、西平さんにお話を伺いました。

 


アニマル・ドネーション立ち上げのきっかけとは?

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【編集部】まず、西平さんがアニマル・ドネーションを立ち上げられたきっかけを教えて下さい。

犬と暮らし始めたことがきっかけで、日本には獣医療やブリーディングに関してなど、ペットや動物に関する色々な問題があることを知りました。そこで、Webで調べて得た情報を元に、勇気を出して行政施設に見学に行ってみたのです。

東京の行政施設へ見学に行くと、犬については「この子は貰われます、この子は純血なのでレスキューさんが迎えに来ます」といった形で、聞いているこちらが悲しい気持ちにならないような内容を職員さんから伝えられました。

でも、たまたまその日に運ばれてきた猫ちゃんがいました。すごいすり寄ってきて、しっぽもピンって長くてきれいなんですよ。

体もきれいだしメンタルも安定していることがひと目で分かる子だったのですが、職員さんに「この子どうするんですか?」と聞いたところ、「おじいちゃんが入院するという理由での持ち込みなので、この子は大人だし、たぶん処分です」と言われ、とてもショックを受けました。

行政による違いはありますが、日本国内の動物愛護センターでは迷い犬や猫だと1週間程、飼い主の持ち込みだと即処分されるというのが一般的となっています。

【第4話】グラフィティアーティストAZI(アジ)の「アニマル・ドネーション」訪問記(前編) 〜「殺処分という現実」を前に〜

2016.03.22

こんなに良い状態の猫が死んじゃうんだと思って。

連れてきたおじいちゃんの気持ちも考えると、これだけ可愛がってたのだから、きっと泣く泣く連れてきたに違いない。そのときに「犬猫も人も救える仕組みを作りたい」と思ったのがはじまりです。

自分にできることは何かということを考えながら、一年くらいかけて、70人くらいの動物業界の方々にお会いしました

主に犬や猫の保護をされている方、そこを管理されている方にお会いしました。多くの動物たちが殺されていることはショックだったのですが、そういった現状を変えようとしてる人たちもたくさんいらっしゃるということを知りました。そこで、自分では里親やレスキュー団体はできなくても、救える仕組みがあればいいなと思い、寄付に関するマッチングサイトを作りたいと考えました。

寄付にしたのは、保護団体さんを見ていると、お金がやっぱり無くて。皆さん言うんですよ、「犬だと4万円から5万円、猫だと2万円から3万円あれば、一頭の命が救える」って。

保護してから里親に出すまでのフード代やトイレシート代、医療費などを換算するとその金額になるのだと思います。医療費が一番大きいのですが、犬だと一頭あたり4万円から5万円が必要になるそうです。

そこで、私のように多少なりとも寄付したい人がいるかもしれないから、そこを繋げようと思い、やってみたのがアニマル・ドネーションです。

そういったことをやりたいと言うと、「じゃあシステム作りましょうか」という方や「WEBやりますよ」という方もいて、4人で立ち上げたのがこのサイトです。

“顔の見える関係”で寄付先をしっかりと選ぶこと

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【編集部】アニマル・ドネーションではどこからの寄付が多いのですか?

立ち上げて驚いたのが、今もそうなのですが、企業からの寄付が8割です。

オンラインでの寄付という仕組みなので、一般の方々からの寄付しか想定していなかったのですが、寄付したいけど、どこに寄付していいか分からないという企業さんもいて。

そういったときに、アニマル・ドネーションのような審査の厳しい中間組織が必要とされているんだなと思いました。

寄付先となる団体さんはたくさんありますが、保護施設はまだ9団体しかありません。そこには特に時間をかけています。

最初はWEBなので、支援されたい方々がクラブのような勝手に登録できた方が、寄付は起こりやすいかもしれないとは思いました。団体数が多くて、こんなかわいそうな子たちがいっぱいいるんだよといったネガティブアプローチの方が伝わりやすいかもしれませんが、アニマル・ドネーションではあえてそういったアプローチはしていません。

寄付先となる保護団体は、私や私が信頼するアニドネスタッフが現地に行くか、代表にお越しいただいてお会いして、半年から1年かけて活動を拝見した上で登録させていただいています。もっと先は変えるかもしれませんが、しばらくはそのスタイルで行きたいと思ってます。

ゼクシィ創刊に携わった経験が、現在の活動の糧に

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【編集部】アニマル・ドネーションを立ち上げられるまでは何をされていたのですか?

新卒でリクルートに入って14年くらい、最後は「ゼクシィ」というウェディングやブライダル情報を扱う媒体にいました。

【編集部】「ゼクシィ」には創刊のときからいらっしゃたのですか?

創刊からいました。当時は大阪で働いていたのですが、やりたいと言って東京へ来て。

そこの経験はやはり大きくてですね。「ゼクシィ」を立ち上げた当時は、ブライダル業界がまだ混沌としていた時期でした。

私はページ制作などの仕事をしていて、ブライダル業界の色々な人たちにお会いしていました。「ゼクシィ」という情報の集まっている媒体ができたことによって何が起きたかというと、業界でダメなところは潰れるし、良いところはすごく伸びる。そういったことを経験しました。

情報の集まる媒体がひとつあると、そこで切磋琢磨されて、新しい概念も出てきます。ハウスウェディングだったり、地毛結いや素敵な着物を着るスタイルも、「ゼクシィ」という媒体があって作り上げていくことができました。

「ゼクシィ海外ウェディング版」やドレスといった色々な新しいものをたくさん立ち上げさせていただいて、それぞれがまたそうやって成長していくのです。

そういった経験から、何かひとつ情報が集まるところがあれば、この世界が整理されて、発展するに違いないと思い、WEBサイトを作ることにしました。

共感がつないだ仲間たちとの“縁”

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【編集部】アニマル・ドネーションのメンバーの方々とはどのように出会われたのでしょうか?

アニマル・ドネーションを始めてみると、「クラブ★アニドネ」という組織もあるのですが、ボランティアで動物のために何かをしたいという人がたくさんいました。

そして、皆さん何かのプロフェッショナルなのです。広告をやられていたり、ライターやられていたり。

動物が好きで、自分の仕事があるのでレスキューとかはできないけど、動物のための何かをライフワークにしたいという人たちです。

私もそれに近いのですが、そういう人々が協力してくれるということが起きていて、リクルート時代の仕事は左脳で頑張っていたとしたら、今の社会貢献というのは、犬猫のためと言いつつも人のためなので、右脳で人に対して良いことができているという満足感があります。もうちょっと突き詰めていきたいと思いますね。

【編集部】運営していくうえでの壁などはありませんでしたか?

本当に壁はたくさんありました。

まず、立ち上げた当時、クレジットカードが使えませんでした。とあるご縁とタイミングでOKになり、サイトができました。

そこから、アニマル・ドネーションの立ち上げは、私自身の出産のタイミングと同時だったので、時間がない、今もそうなのですが。そこも助けてくれる人が現れました。

あとは去年の4月に公益社団法人を取得したときのことです。内閣府とは差し戻しとかをたくさんやりました。色々な質問に対してうまく回答できたと思うのですが、思っていたよりはスムーズに取得できました。

公益社団法人

一般社団・財団法人のうち、民間有識者からなる第三者委員会による公益性の審査(公益目的事業を行うことを主たる目的とすること等)を経て、行政庁(内閣府又は都道府県)から公益認定を受けることで、公益社団・財団法人として税制上の優遇措置を受けることができます。

※出典:内閣府「公益法人制度とNPO法人制度の比較について」より

次に目指すのは、動物たちへの遺贈(いぞう)のマーケットづくり

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公益社団法人を取得したことにより、税金控除が受けられます。やはり寄付を扱う以上、そこは大きいです。

今後は “遺贈(いぞう)” のマーケットを作っていきたいと思っています。

ご自身が亡くなったときの遺産の一部を、自分の子供にも残すけど、いくばくかは動物のためにという風に考えてる人たちがいるのではないかと考えています。公益社団法人であるアニマル・ドネーションが受け皿になることができれば、税金の控除も受けられます。

ユニセフさんも、そういうアプローチをたくさんやられているのですが、大きく違うのが、仮に私が代表ではなくなったとしても、アニマル・ドネーションという組織・仕組みがあれば、誰かしらが亡くなられたときに、その時々で活性化している保護団体さんを繋ぐハブの存在になることができるのです。

そのときに、お金だけではなくて、もし残されたペットたちがいれば、新しい飼い主さんを探すということもやりたいですね。

動物に関わるすべてのひとが持つべき“正しい知識”

【編集部】活動をしながら、ペット業界について思うことや気付きなどはありましたか?

本当に正しい知識をみんながもって、正しく行動してほしいとすごく思います。

ものをつくる人たちももっと努力できると思うし、生体販売の人たちも、私のような活動をしている人のなかには「生体販売は敵だ!」みたいな人もいると思うのですが、全然そうではなくて。

例えば、すごく素敵な施設で生体販売をしているところがあったとしたら、良いじゃないですか。ドッグランもあって、ケアも最高で、母親の犬もちゃんといてというような。生体販売をやられている人はそういった風にやればいいのになと思います。

アニマル・ドネーションと自身の描く未来とは

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【編集部】今後アニマル・ドネーションとして、また西平さん個人としての目標などを教えてください。

寄付というマーケットにチャレンジしたことで、寄付って、人によって考え方が全然違うということもよくわかりました。いくら良いことでも別に興味ないと言われればそれまでですし。なので、今後は寄付という分野でターゲットとチャネルを変えた事業を色々やりたいと思っています。

そのひとつが「INUTO」です。犬が大好きで惜しみなくお金を使うけれど、そんなに社会貢献には積極的ではない、ただ、たまたま買った商品に寄付が付いてれば嬉しいなという方々が「INUTO」のターゲットです。

逆にそんなにお金は使わないけど、アプリで寄付できたらいいなって人へは、動物系のアプリでチャレンジしていますし、あとはあんまりできていないのですが、リアルなセミナーへのニーズもあります。

やっぱり「お話を聞いて動物のために何かしてみたい」という人たちもたくさんいらっしゃるので、そこもやりたいですし、最近しばらく注力しているのは遺贈の商品スキーム設計。将来的には、正しい情報が発信できる研究所のようなものを作りたいと思っています。

例えばうちの子と犬もそうだったのですが、うちは犬が6歳の時に子どもが産まれて、犬がうつ病になってしまいました。自分の居場所が無くなったと思って拗ねてしまって。今はもう仲良しなんですけど。

例えば小さい子どもが犬と暮らすとノンバーバルコミュニケーションが発達するというデータが出ています。実際にうちの子たちを見ていると、犬が威圧してウッって怒っているのが子どもには完全に通じていて、最近では「いまトゥーちゃん怒ってる」とか「トゥーちゃん遊びたいって言ってるよ」とか、子どもが通訳してくれています。

そういうことがデータとして出ているのですが、みんな知らないじゃないですか。そういうことを、正しい研究機関が発表するというかたちで情報発信していきたいです。

ドイツにもモデルがあるのですが、犬猫のことを研究する方々に寄付を届けるという仕組みもあるんですよね。そういう風なことも、寄付サイトの発展としてはやっていけるといいなと思っています。

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西平さんのひとつひとつの言葉からは、真の意味での「人」と「動物」の「共生」を実現するという目的に対して、真剣に向き合っている姿勢をひしひしと感じ取ることができました。

オンラインでの寄付サイトというアニマル・ドネーションの仕組みひとつを見ても、寄付をしたい側と求める側とをインターネットを使ってただ簡単にマッチングさせるだけではなく、しっかりとご自身の目で見て、足を運ぶことで初めて分かる、保護施設に関わる人々の思いや現場の状態を理解した上で寄付対象に加えるという方針を取られています。長期的に寄付文化が日本に根付いていくためには、そういった透明性を自分たちが担保することが必要だという信念があるのだと思います。

そういった西平さんを突き動かす強い信念、使命感こそが、西平さんが起こした行動に伴い拡がっていった支援の輪の源泉だったのではないでしょうか。

点と点になりがちな個々の活動ひとつひとつを繋ぎ、仕組みとして継続的に発展させていくことまでを視野に入れた西平さんの考え、そして行動は、一人の愛犬家である私たちにも大きな気付きを与えてくれるものでした。