【インタビュー】erva(エルバ)代表 黄瀬知美|KEYPERSON’S STORY

日本のペットマーケットで育った洗練されたドッグアパレルやグッズブランド、美容ブランドやグルーマー達が集まり、「愛犬と愛犬家とのより豊かな暮らし」の実現を目指す “Dog Fashion & Beauty Week” 。

そんな “Dog Fashion & Beauty Week” のキーパーソン達のストーリーを紡ぐインタビュー企画「KEYPERSON’S STORY」。

今回は、「わんことの人生の歩み方を提案する」というコンセプトのもと、家族の一員として「わんこと、より楽しく、より快適にかっこよく暮らせるアイテムをつくる。様々な角度からわんこ達の情報を発信し、多くの人に共有する。わんこが捨てられる原因をなくしていく。」というミッションを掲げるブランド、“erva(エルバ)” 代表の黄瀬 知美(きせ ともみ)さん。昨年(2015年)7月に第1弾アイテムとして、人間の赤ちゃん用スリングの安全基準を遥かに超える強度を持つドッグスリングを発売し、並行して犬を取り巻く課題解決に向けた社会活動にも奔走されている、バイタリティ溢れる女性です。

 


小学生の頃に芽生えた、社会貢献の意識

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(編集部)商品のお話の前に、ブランドのミッションが気になりました。社会活動にも精力的に参加されているということですが、そのルーツはどこにあるのでしょうか?

私が今、こういうワンちゃんの社会活動をしていきたいというのに繫がる話なんですけど、小学校6年生の時に、担任の先生が社会科の授業がすごい面白い先生だったんです。

その時に、世界には毎日何も食べることができない子どもたちがいてるんだっていうことを初めて知ったんですね。

すごいそれが衝撃的で。自分と同じくらいの子、小学校6年生まで育つ子も少ないっていうのを聞いて。

自分は毎日ごはんも食べられるし、親もいてるし、あったかい所で過ごせるし。

ものすごい興味を持って、自分はそういう人たちのために生きていきたいって思ったんです。

学校全体で貧しい国の子に対して募金活動をしようっていうことを始めて、結構自分に手応えがあって、さらに担任の先生の呼びかけで、着なくなった服とか、粉ミルクとか、みんなで集めて送ろうっていうのも定期的にやって。

そういう気持ちがあって、その時にユニセフという存在を知ったりとか、国連っていう存在を知ったりだとか。こういうところに属している人たちは、世界の子どもたちに向けてこんなにも役に立つことをしてるんだってすごい感動したんですね。

幼い頃から育まれた、自分で創るという価値観

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(編集部)若くしてブランドを立ち上げられていますが、ビジネスへのご興味を持たれたキッカケは?

私の育った黄瀬という家族は、商売の家系に育ったので、小さい頃から(起業や独立などの)そういう話が飛び交ってたんですね。

「なんや小学校卒業したんか、独立すんのか?」とか(笑)「起業なにすんねん」とかそんな中で育ったので、自分で何かを作って、それを活かして社会貢献するっていうのが、小さい頃から自分にとっては当たり前の生活だったんです。

ずっとありがたいことに海外に連れてってもらってたので、アメリカに行った時に喉が乾いて、お父さんに「オレンジジュースちょっと飲みたいねんけど」って言うと「そんなん自分で買ってきいや」って言われて。

「買ってきいって何も言うことわからんし、しかもみんななんか変なん喋ってるし。」って。

「そういう時は、オレンジジュース、プリーズって言うねんで」って言われて、「分かった」って。

ハワイに行く経由地の空港で、そこで2ドルくらいもらって、震えながら「エクスキューズミー」って言って、もう何もわからないんで「オレンジジュース、プリーズ」って言ったら、おばちゃんがめっちゃ笑ってて(笑)なんで笑われてるのかも分からなくて。

でも、もう向こうが「OK、あなたは喋れないのね」みたいなリアクションをされて、オレンジジュースだけ来たんですよ。

その時にすこぶる感動しまして。

ほんまにオレンジジュース持ってきてくれたと、こんなわけわからんこと言って。へえーと思って、それからすごい”言語”に興味を持って、英語っていうんや、しかもいろんな言葉があるんやってことを知って。

私いつかここで生活したいなって思ったのが小3くらいの時なんですよ。

ずっと願い続けて想い続けて、本当は中学校から向こう行きたかったし、高校から向こう行きたかったんですけど、人間としての自己形成ができる中学生までの間は、日本の教育のほうが日本人としての礼儀とか学べるからっていうので、中高はこっち(日本に)いたんですけど、高校生になって卒業するときに、「もう無理やから、もういい加減行かして」って言って、アメリカのニュージャージー州にある大学に入りまして。

思わぬ転機となった、夏休みの経験

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(編集部)海外の大学を卒業した後は、日本へ戻られるご予定だったのですか?

夏休みに帰ってきた時に、父親がいつものごとく取引先とか、お仕事仲間さんとかに何回も色んなとこ連れてってもらって。

2007年の夏休みに、通販で有名なんですけど、ハンコヤドットコムさんの社長とうちのお父さんが仲良くて、そのミーティングに連れてってもらって、私は隣でほとんど何も聞いてなく居てたんですけど、難しすぎて(笑)

私はアメリカですごい生活してるじゃないですか、もう日本に帰ってきたら休憩なんですよ。なのに、そういう風に連れ回されたくなかったんですね。

※編集部注:アメリカの大学へ進学された黄瀬さんは、慣れない英語での授業に加え、バレーボール部のエースとして活躍しつつ、学生寮の寮長も務め、大学からリーダーシップ賞を授与されるほどに、持ち前のバイタリティをもって多忙な日々を過ごされていました。

ちょっとムスッとしてたんですよ、だから何も聞いてなくて(笑)

それで突然、父親が「自分暇やったら明日からバイトしたらここで?」って言い出して。押し切られて、「何ができんの?」ってことだったんで、ウェブサイトの構築のお手伝いならできますってところで、ハンコヤさんの一番頭脳の部分の、ウェブサイトの運営とか企画とかの部署に入れてもらって。

そこでいろいろお手伝いさせていただいて、ある日ヤフーのトップページを見た時に、右横ででかいバナー(広告)があるじゃないですか、そこでどこどこの広告を買うか買わないかだとか、いろんな会話がそこで聞こえてきて。

次第に、この何かしらんけどチカチカするもんにお金出して、どうやってそれで利益、売上があるんだろうってそのサイクルがものすごい気になったんです。

「これどういう仕組みなんですか」って訊いたところ、その質問が初めてだったらしく、すごい喜ばれて、ブワーって教えてくれはったんです。

ネットショップはどういう仕組みで、収益はこういうことをして上げていくんよっていうのを教えていただいた時に、眠ってた自分の商売魂みたいなものに火がついて、おもしろいわあ!って思って。

父親に「私これやりたい、これやるわ」って言ったら、ちょうどその時期に父親の会社の黄瀬商事自体がネット通販を始めたばっかりで、その核となる子がいなくなるから、「じゃあ代わりに入っといでよ」って言って、「よっしゃ、じゃあそうする」ってなって、卒業までに2年あったんですけど、早めに卒業して帰ってきたんですよ。

父の後を継ぎ代表就任。そして “erva” 立ち上げへ

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キューズベリーで働き出したのが2008年ですね。

※編集部注:キューズベリーは黄瀬さんが代表を務める、黄瀬商事株式会社の赤ちゃん用抱っこひものブランド

父親がいろんな勉強会に連れてってくれて、いろんな経営者の方ともお話させていただいて、ウェブサイトを運営する、運営してどういう風に収益を上げるかっていうのを、7年間ずっと。

初めは、ウェブサイトを作るコーディングっていう作業があるんですけど、そういうのからカチカチやって、デザインをして、広告の代理店さんとお話したりとか、新商品どうやってアップしてどうやって売っていこうかっていうのを7年間くらい、頭に血出るほど考えて考えて。

私は一昨年の9月に代表交代になった時に、キューズベリーこれからもっと盛り上げてこうって思ったんですけど、弟達がそれをやってくれるっていうのと、おじさんとかが「それやったら自分が前々からやりたいって言ってたのやったらええやん」って言われて。

「やったらええやん」ってどういうことやろって初め思ったんですけど、やっちゃおうか!ってなって(笑)“erva” 立ち上げようって。

erva立ち上げのきっかけとなった、2頭の愛犬との出会い

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(編集部)“erva”を立ち上げられたきっかけは?

クリエイターさんのオフィスが取材されていてて、ワンちゃんがチョロチョロ動き回っているのを見たんですけど、その経営者の方も、「この子がいて、スタッフ皆なごんで、この子には感謝なんです。」っていう映像を見て、「ワンコが家の中にいるのいいな」ってなって。

本当きっかけはそんなんで、父親が探してきて、この子はブリーダーさんのとこから来たんですよ。

ブリーダーさんとこ私も実際に行って、私はノンちゃんを見てノンちゃん飼いたいなーって言ってて、弟はムーちゃんを見つけて、ムーは見た時にゲージの中の隅っこのほうで震えてたんですよ。他の子元気に遊んでるのに。すごい弱々しかったんですけど、弟がこの子にしようっていうので、どうしようって父親に言ったら「じゃあもう2匹飼うか」ってなって。

それからこの子たちとの生活が始まって。ド素人ですよワンちゃん飼うの。

初めは、犬が来たなあっていう感じだったんですけど、ある日朝起きて、めっちゃ苦しいって思ったら、ムーちゃんが首に乗っかって寝てたんです(笑)苦しかったんですけど、「はあ、かわいい」と思って。もう次第に自分が惚れ込んでいったっていうか。

彼らとずっと生活してて、初めは「わあ、かわいいな」とか「こんな性格があるんだなあ」とかそこら辺だったんですけど、段々だんだん私のほうが元気になってるし、私のほうが幸せになってるし。

それで会社来てくれて、やっぱり社内っていろんな時期があるじゃないですか。スタッフの誰かがへこんでたりとか、病気がちやったりとか、スタッフ間でなんかあったりとか。そういうことが正直、無くなって。

このキューズベリーの癒やし部隊なんだっていう風になって、本当にもう感謝しかないなあって話をずっとしてた時に、そういえばこの子達って家族っていてるんだろうかってところに行き着いたんです。

お父さんお母さんはいるよな、でもそのお父さんお母さんどこにいるんだろうとか。それでいろいろ調べだして、調べたらいっぱい出てくるじゃないですか。

そこに愕然として、前までは世界の子どもたちにとかアフリカのとか思ってたんですけど、アメリカに行って、日本を客観的に見るようになって、自分が育った国のために恩返ししたいなって思い出すようになって。その時にノンちゃんムーちゃんの背景を知って、この子たちのためにしたいって思ったんですね。

私にとっては、いろんなことを教えてくれて、色んな道つけてくれて、感謝しかなかったんですね。

わたしが出来ることなんやろって思った時に、こうやってムーみたいに、幸せって感じてくれてたら嬉しいですけど、生活ができてる子もいてるし、真逆の子たちもいてるから、この子たちが私に出会って、私がこの子たちに出会って、もし、この世に「天命」と言われるものが人それぞれあるのならば、きっと私はこれに違いないと思ったんです。

じゃあ “erva” ブランドを立てて、そういうことをしていこうっていう風になりました。“erva” が生まれたのは、この子たちと出会わなかったら絶対に無かったですね。

“erva” の存在意義

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(編集部)“erva” というブランドを通じて、黄瀬さんが実現されたいことは?

“erva” をスタートした時に、「殺処分をなくしたい」と思いました。

でも、私は資金力もないですし、どうやっていこうかと悩んでいろいろと調べた時に、「1匹1匹の子は助けられる、それがどんどん大きな力になってく(『1匹のわんこを助けたって、世の中は変わらないだろう。でも、この子にとっては 一生変わることなんだ。』)」っていう考えに出会って、これやって思ってからスタートできたんですよ。

※編集部注:その言葉は、今も“erva”のウェブサイトに掲げられている。“Dogs are Family = わんこは大切な家族”という言葉を添えて。

“erva” っていうのは今もずっとそうなんですけど、存在意義っていうのは、1匹でも多くのワンちゃんが幸せになれますようにっていうところの手助けをさせてもらうというところにあるんです。

自分は何をすべきか、答えはこれまでの歩みにあった

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(編集部)なぜ、ドッグスリングを?

どうやってやっていこうと思った時に、色んな方たちにお会いしに行ったんですね。

でも一番は自分の資金力がないとっていう風に思いまして。

やっぱり寄付で成り立つっていうのはしにくい部分もたくさんあるので。やっぱり自分は商売人だし、いままで7年間やってきたこともあるので。かつ、ここはものづくりの背景っていうのは整っているので。

じゃあ何しようと思った時に、赤ちゃんのスリングを昔キューズベリーで販売してたんですけど、それのサンプルを、病院行く時とか私が使ってたんですね、ワンちゃんたちに。いろんなワンちゃん連れの人が、「どこのんそれ」とか、「めっちゃいいやん」って言われて、じゃあスリング作ろうってなって。

ものづくりの背景がうみだした、”ホンモノ”のドッグスリング

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(編集部)“erva” のドッグスリングのこだわりは?

私達ずっと抱っこしてるわけじゃないんですけど、そういう必要な場所とか、あと老犬の子にも役に立つし。

やっぱり赤ちゃんの製品作ってたっていうのがすごい大きくて、人間の子どもに対しての製品基準ってすごく厳しいんですよ。抱っこ紐もそうですし、うちの弟が何回も改良してますけど。やっぱりそこの畑からきたので、こっちにちょっとずらしてワンコ業界に来た時に、「いいのんないな」って思ったんです。

しかも、家庭用ミシンでするのと、しっかり工業用ミシンでするのともちろん強度も違いますし、ものづくりでしてきた背景の人が商品作るのとそうでないのとは、もの作ってなかったらわからない部分もあるんですけど、やっぱり強度面とか。

うちのスリングを、ちょっとワンコ用だと改良しないといけない部分があったので、こういう形のほうがいいんじゃないかっていうのを相談しながら、スリングのサイトを(2015年)7月27日に立ち上げて。

ervaがめざす、これからの姿とは?

“erva” のモノの方向性としては、シンプルで、素材感が楽しめる、かつ機能的。そこの3つかなって思ってます。

つい最近も保護活動されてる方とお話させてもらって、“erva” は「捨てられる子をなくす」っていうのもミッションの一つにあるので、ウェブを通して実際に保護活動されてる方々の取材をして、そういう活動をされてます、こんな子たちがいますっていうのを、見せていけたらいいなっていうところを、今着々と進めているところです。

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黄瀬さんがこれまでの様々な経験をもとに、ひとつの答えとしてたどり着いた “erva” というブランド。

“erva”の挑戦はまだまだ始まったばかりですが、 “erva” のものづくりへのこだわりが織り込まれたドッグスリングは、すでに多くの愛犬家に選ばれるアイテムになっています。

「シンプルで、素材感が楽しめる、かつ機能的」というアイテムそのものの価値はもちろんですが、ブランドの背景にある、「一匹でも多くのワンちゃんが幸せになれますように」という黄瀬さんの思いが、愛犬家の皆さんにも届いているのではないでしょうか。

そして、黄瀬さんの思いを最も象徴しているのが、“erva宣言”。“erva” のアイテムをどれだけ気に入ってくださったとしても、“erva宣言” をしていただいた方にしか販売しない。なぜなら、アイテムの前にミッションがあるから。

すべての愛犬家に届くまで続けていくというその考えは、きっとたんぽぽの種のように各地へと広がり、芽吹いていくことでしょう。

 

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“erva宣言”:http://www.erva-dog.com/html/page1.html

 

“erva” 初のInterpets(インターペット)出展となる、第6回Interpetsでは、”Dog Fashion & Beauty Week” ゾーン内にアトリエの雰囲気を模したブースを構え、新商品の試着会も開催されるそうです。ぜひ足を運んでみてください。