【インタビュー】トリミングサロン「チロのアトリエ」オーナートリマー 生井沢 里美|KEYPERSON’S STORY

日本のペットマーケットで育った洗練されたドッグアパレルやグッズブランド、美容ブランドやグルーマー達が集まり、「愛犬と愛犬家とのより豊かな暮らし」の実現を目指す “Dog Fashion & Beauty Week” 。

そんな “Dog Fashion & Beauty Week” のキーパーソン達のストーリーを紡ぐインタビュー企画「KEYPERSON’S STORY」。

今回は、「第6回Interpets(インターペット)~人とペットの豊かな暮らしフェア ~」で開催される「10分で可愛く変身!カリスマトリマーによるワンポイントビューティ」や子ども達によるトリミング体験イベント「未来トリマー」にもご参加されるトリミングサロン「チロのアトリエ」オーナートリマー 生井沢 里美さんのストーリーをお聞きしました。


 

「なぜ、このお店にはイイ子しかいないの?」

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サロン嫌いの愛犬もすっかりイイ子に変わってしまう、不思議な場所。

東京の都心部から離れ、車でないとたどり着けないような場所にも関わらず、予約が3ヶ月先まで詰まり、遠方からも足しげく通うお客様も多いというドッグサロンがあります。

その名は「チロのアトリエ」。 愛犬の名を冠したというアトリエでハサミをふるう”アーティスト”なのが、オーナートリマーの生井沢里美さんです。

バリアートと呼ばれる技術を中心に多くのコンテストで評価され続ける彼女の仕事観をお伺いしました。 彼女がトリマーとして活躍する陰には、高い向上心と研究の数々、そして愛犬への強い愛情がありました。

愛犬に導かれるようにトリマーの道へ

アメリカのカリフォルニア州で生まれ、学生時代は日本とアメリカで過ごした生井沢さん。 自分の進路が定まらずにフリーターとして今後の将来に悩んでいた中、ふと愛犬のチロちゃんに簡単なトリミングをしようとしたときに感じた疑問からトリマーへの道が開かれました。

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(編集部)トリマーを目指したキッカケを教えてください。

チロちゃんはシーズーの男の子で、とってもいい子なんですけど、ある日ちょっと伸びた毛を私が切ってあげようと思ってハサミを向けたらものすごく拒絶したんです。牙をむいて。 今までトリミングにも行ってるのに、なぜ…?という気持ちがぬぐえなかった。

その後、トリミングに出しても虎刈りだったり怪我をして帰ってくることが増えていったので、トリマーさんに疑問を感じて、それなら愛するチロちゃんを自分でトリミングしようと決意したのがキッカケです。

社会人向けのトリマー学校を経て勤務しながら、チロちゃんをトリミングしました。 噛み付かれても暴れても絶対に怒らず、抱きしめながら6年かけて「トリミングは怖くないんだよ」ということを伝えていきました。

(編集部)そこまでチロちゃんと向き合えるのはすごいですね。その間はどんなお気持ちだったのですか?

「今までチロちゃんはどれだけ怖い思いをしながらトリミングされてたんだろう」って考えると、胸が締め付けられる思いだったんです。たくさん噛まれましたし血だらけで大変だっ たんですけど、チロちゃんの「怖かった」という思いを解消したくて、強い気持ちで向き合 い続けました。

多くの苦労が「自分スタイル」の礎

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(編集部)トリマーをしていて、苦労したことはどんなことですか?

苦労したことは…いっぱいありますね…。

まず、学校を出ただけでは現場で何もできなくて。現場で基礎をみっちりしごかれました。 すごく大変だなって思ったけど、動機が強かったので乗り越えられました。

その後、経験量も浅いまま自宅をサロンにして仕事を始めたので、何もかもがわからなかった。 よく噛む犬の扱いも、雑誌に載っているような美しいカットにする技術も、すべて自分で徹底的に研究しましたね。 事細かに分析してノートに書き溜めて。答えは誰も教えてくれないので、自分なりにマネたり研究を重ねてスタイルを作り上げていきました。

「トリミングは怖くない」がコンセプト

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今は生井沢さんが一人で経営するチロのアトリエ。 常に予約が詰まるほどの人気ぶりは、彼女の実力とコンセプトに秘密がありました。

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仕事をする上で一番大事にしているのが犬の扱いですね。これが絶対ですね。 犬に「サロンは怖くない場所」だっていうのを知ってもらうことがコンセプトなので。

お客様がご来店する時、飼い主さんとの会話の前にまずワンちゃんです。「いらっしゃい!よく来たね〜!」って思いきり嬉しい気持ちを伝えると、ワンちゃんはお店に入った瞬間、 尻尾を振って来てくれます。

お客様から「なんでここのお店にはいい子しかいないの?」とよく聞かれるのですが、いい子しかいないんじゃなくて、いい子であるように教えていくだけなんです。

例えば、犬の触り方もトリミングをする前にさりげなく触れて犬に聞いていくんですね。 痛いところはない?ここは触れてもいい?って確認して、犬が嫌がったり反応する場所は触りません。また触れるだけで掴んだりしないから、そもそも犬は暴れないです。

他にも、嫌いなことがある子には違うアプローチを重ねて、トリミングは怖くないよって少しずつ学んでもらうんですよ。だから自然とサロンを嫌がらない子に育っていっちゃうんです。

これが私のコンセプトであり、ゴールであり、日々のサロンワークで一番大切にしているこ とですね。

(編集部)やはりトリマーを目指すキッカケとチロちゃんの存在が大きいのでしょうね。

“アーティスト”として評価されたコンテスト

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(編集部)コンテストにも積極的に参加されているそうですが、印象に残っているコンテストはありますか?

一番心に残っているコンテストは、2010年に出場したJKCドッグビューティーコンテストです。 愛犬のジャスミンとクリエイティブ部門に出場しました。ジャスミンは白いプードルなんで すけど、背中にカラーリングをベースにして、マイケルジャクソンを描きました。

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(編集部)マイケルジャクソン!なぜ描こうと思ったんですか?結果も気になります。

直感ですね。マイケルジャクソンしかないな!ってひらめいちゃったんです。 結果的は優勝とシーザー賞をいただきました。 でもまさか自分が選ばれるとは思わなかったです。スタイルとして、「デザインカット・カラーリングというイメージできるスタイル」という枠を超えた仕上がりだったのが良かったのかなって感じましたね。

前人未到の領域で結果を出せた、と印象に残っています。

バリカンを駆使して描く「バリアート」

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私「バリアート」って呼んでるんですけど、バリカンで犬の体にアートを施していくんで す。

昔から白い紙を見ると肖像画を描きたくなっちゃうっていうことろがあるんですよね。 だからプードルの背中を見るとついついスケッチブックに見えて、バリカンを鉛筆のようにしてアートしたくなっちゃう(笑)。そんなところから「バリアート」がスタートしました。

お客様の要望があればそれを満たすことを大切にしますし、「お任せで」と言われたら直感で描き始めます。その子に一番似合うものがピン!とくるんですよ。 下絵も型もなく一発勝負ですが、失敗することはありません。そもそも、どんなラインになってもアレンジして「成功」させちゃうので、失敗ということが存在しないんですね。

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店舗に飾られているアート作品は生井沢さんのお兄様が描かれたものだとか。家族みんなが アートやクリエイティブを得意とする「アーティスト家系」なのですね。

今もこれからも。「トリマーと音楽」を貫く

将来は、自分の好きなことをやって生きて行くのが好きなのでトリマーと音楽を貫きたいん です。

研究や経験を重ね、頑張って積み上げてきた自分のスタイルがある「トリマー」も、自分の人生に絶対欠かせないと思える「音楽」も両方です。どっちかだけは選べない。

トリマーの仕事をしていて音楽のいいフレーズが浮かぶこともあるし、ギターを弾いているときにワンちゃんの素敵なカットアイディアが浮かぶこともある。私にはどちらの存在も必要で、両方があるから今の私があるんだと思っています。

トリマーと音楽の両方を同時に進めていくことが私の夢、というよりコンセプトなのかな。

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穏やかな音楽が流れる店内で、「自分が好きなことをして、それでお客様と円滑にコミュニケーションが取れていて、犬が心地よさそうにしている空間がある日常が幸せ。」と語る生井沢さん。

多くの人が彼女を求め、犬たちには心地よい空間を共有して喜びを伝え、多くのコンテストでは賞という形で評価され続けるのは、彼女にとって「トリマーと音楽」の両方を追求するライフスタイルそのものが”天職”だからだと確信しました。

愛犬のチロちゃんがキッカケとなり偶然にトリマーの道を志された彼女ですが、きっとそれは運命だったのかもしれません。