今や年間1兆4千億円を超えるというペット市場、そして空前の猫ブームのなかで、「追跡!ペットビジネスの闇」と題し、5月26日(木)22:00より放送されたNHK クローズアップ現代+の内容は、ペット社会を支える “ペットの大量生産大量消費の ひずみ” にスポットライトを当てるものでした。
“ネコノミクス”という言葉も生まれるほど、空前の猫ブームに沸く日本。犬猫だけで推計2000万匹が飼育されているペット社会の裏側で、“引き取り屋”と呼ばれるビジネスが横行していることが明らかになってきた。ペットショップなど、流通過程であまったペットを有料で引き取り、劣悪な環境で飼い殺している業者も少なくないと言う。 番組では“引き取り屋”の告発に乗り出した動物愛護団体に密着。ペットの大量生産大量消費のひずみをみつめる。
ペット社会の裏側に存在する悪質な「引き取り屋」とは?
出典:「NHKクローズアップ現代+」Facebookページ
番組内で “推計2000万匹を超えるペット達の影に存在する悪質なペットビジネス業者” として取り上げられたのは、平成25年の改正動物愛護管理法の施行以降に増えているという「ペットの引き取り屋」という業者。
日本におけるペットの主な流通経路は、「ペットの繁殖業者」から「ペットオークション」を経由し、その後に皆さんお馴染みの「ペットショップ」を通じて、消費者である飼い主のもとへと届きます。
そういった消費財さながらの流通構造においては、どうしても「売れ残り」が出てしまいます。
■「売れ残った」ペット達は?(改正動物愛護管理法 施行前)
ペットの繁殖業者やペットオークション、ペットショップにおいて「売れ残った」ペット達は、平成25年の改正動物愛護管理法の施行までは、各自治体が引き取り、多くは殺処分されていました。
■「売れ残った」ペット達は?(改正動物愛護管理法 施行後 1)
しかし、改正動物愛護管理法に以下の条文が追加されたことにより、動物取扱業者からの引き取りを自治体が拒否できるようになりました。
第四章 都道府県等の措置等
(犬及び猫の引取り)
第三十五条
都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第二百五十二条の二十二第一項 の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、犬又は猫の引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。
■「売れ残った」ペット達は?(改正動物愛護管理法 施行後 2)
そういった背景のもと業界内での需要が増したのが、「ペットの引き取り屋」という業者です。自治体が引き取ってくれない「売れ残った」ペットを有料で引き取ります。
それだけを聞くと、従来も自治体で殺処分されていて今となっては行き場のない「売れ残り」のペットを引き取ってくれる「優良な業者」のようにも聞こえます。
しかし、今回のNHKクローズアップ現代+で取り上げられていた「引き取り屋」の様子は、優良とは程遠い姿でした。
飼養管理のできていない業者と命の危険にさらされる犬や猫
出典:「NHKクローズアップ現代+」Facebookページ
番組に登場した元「引き取り屋」の男性によると、多い時には一度に100匹の犬を引き取り、売れる犬は自分の店で安く転売、繁殖できる場合には子犬を産ませて販売しており、一方、繁殖を終えたり売れ残った犬の世話はおろそかになっていたと言います。
悪質な「引き取り屋」の追跡調査を行っていた公益社団法人 日本動物福祉協会のスタッフが、その業者を訪問した映像のなかには、劣悪な環境下で耳ダニを放置されて掻きむしった跡が大きく陥没した猫や、栄養失調で体温が20度近くまで下がってしまった犬といった、命の危険にさらされた多くの犬や猫達の姿が映し出されていました。
「引き取り屋」を生む土壌は今の流通の仕組み
本来は「殺処分を減らすこと」を目的として改正された動物愛護管理法。しかしそれにより増えてしまった悪質な「引き取り屋」というジレンマ。
人と動物の関係についての研究を行う東京大学 名誉教授で獣医師の林 良博氏は番組のなかで、悪質な引き取り屋は一部かもしれないが、今の流通の仕組みが悪質な「引き取り屋」を生む土壌になっていると指摘し、「大量生産大量消費はペットには似合わない仕組みである」と断言します。
まずは問題を知ること、意識の改革から
出典:「NHKクローズアップ現代+」Facebookページ
番組をご覧になった視聴者の方々からは、痛々しい姿に胸が苦しくなったという感想から生体販売自体を無くすべき、命をモノ扱いすることが間違っているという意見まで、インターネット上には様々な声が飛び交いました。
既に1兆4千億円にも至るペット市場の主要部分を担う流通の仕組みそのものを一朝一夕で変えることは恐らく難しいでしょう。
こういった課題を解決していくためには、国や自治体、ペットビジネスに携わる業界関係者、ペットを飼う人や飼おうとする人、様々なレイヤーからの取り組みが必要です。
そして、仮に仕組みが変わったとしても、人々の意識が変わらなければ、また新たな闇が生まれてしまうかもしれません。
そう考えると、大量生産大量消費を行う今のペット市場における「消費者」である私たちが、まずは問題を知り、意識を変えていくことが大切です。
番組ゲストとして出演されていた動物愛護の先進国スイス出身の春香クリスティーンさんも、放送後記では以下のように述べています。
[ペットビジネスの闇]
【放送後記・春香クリスティーンさん】
ペットの裏側のことは、現実を直視するとショックでした。自分がペットを飼うときは、一回立ち止まって、その子たちがどこから来たのか、最後まで飼えるのか、そういったことを踏みこんで考えなければいけないなと思いました— NHK「クローズアップ現代+」公式 (@nhk_kurogen) May 26, 2016
ともすればブームを煽りがちな放送局のなかで、華やかなペットビジネスの裏側にスポットライトを当てて、私たちに問題を知る機会を提供してくれたNHKの今回の番組は、とても素晴らしい内容でした。
しかし、ただ内容を鵜呑みにして終わるのではなく、そこから更に自分自身の頭で考えていくことはもっと大切だと思います。
私たち『INU MAGAZINE』でも、こういった課題に対して何ができるのか、より深く考えていきます。
番組を見逃した方は、「クローズアップ現代+」のWEBサイトに全編がまとめられています。
また、「NHKオンデマンド」にて購入も可能です。