【Vol. 01】ノーズワークと車|犬と暮らすところに車あり in Sweden [Sponsored by Volvo Car Japan]

世界有数の福祉国家として名高く、犬をはじめとする動物に対する福祉でも世界最高水準の国のひとつである北欧スウェーデン。この国で誕生し、現在に至るまで一貫して安全かつ丈夫な車を作り続けている「VOLVO(ボルボ)」の協賛により、スウェーデンにおける人と犬、そして車との関わり合いについて、フォト・レポートをお届けします。レポーターは、スウェーデン在住22年のドッグ・ジャーナリストであり、連載「北欧、犬暮らし」でもお馴染みの藤田りか子さんです。


文と写真:藤田りか子

車は愛犬家の持つべき必須アイテムである。単なる輸送手段というだけではなく、犬と暮らす者にとって他にもいろいろ意義があるものだ。その詳細には改めて触れるとして、今回は少し別の意味で犬と車の関わり合いについてお話をしたい。

車が欠かせないドッグスポーツ「ノーズワーク」

犬と一緒に競うスポーツの中に、車をどうしても使わなければならないという競技がある。その名も「ノーズワーク」。意味は読んで字のごとし「鼻(ノーズ)・作業(ワーク)」。このドッグスポーツ、私の住むスウェーデンの愛犬家の間で、大ブレーク中だ。スポーツ自体はアメリカ生まれ。数年前にスウェーデンに紹介されて以来、今ではノーズワーク・コースを設けていないドッグスポーツ・クラブがない、というほどの人気ぶり。

簡単に言うとノーズワークとは特定の臭気を犬が嗅覚で探し出す、という競技だ。トレーニングの基礎的な部分では、麻薬犬や爆薬探知犬などのそれとほとんど同じ。一般の家庭犬が、職業犬のドッグトレーニングのテクニックを学べる。これはとても魅力的。そして実に、どんな犬でも学べるし、参加できる。血統の優秀さなど関係なし!

スウェーデンのドッグショーにおける税関警察官の麻薬探知犬のデモ。国境が繋がっているヨーロッパでは国境を越える車に麻薬が隠されていないか、それを取り締まるために犬が活躍。Tullというサインが見えるがこれは税関という意味

さて、車が登場するのは、この競技におけるヴィークル・サーチ(車両を探す)という課目にて。ノーズワーク競技は4課目で成り立っており、ヴィークル・サーチでは、車に隠されたニオイを探すのが課題。ノーズワークの中でも、シーンとしては一番の見所となる。そしてこの時こそ、気分はまさに、国境警備をする探知犬ハンドラー!車に隠された麻薬を、私の犬の素晴らしい嗅覚にて暴いてやるぞ!という意気込みを持ってトライ。ただし、ノーズワークでは、麻薬や爆薬のニオイを探させるのではなく、植物由来のアロマオイルやアロマウォーターを使う。ノーズワークの発祥地アメリカでは、バーチ(白樺)、アニス、クローブを(いずれもアロマオイル)、北欧では、ユーカリ、月桂樹、ラベンダー(いずれもアロマウォーター)のニオイを探させることになっている。

ノーズワーク競技における4つの課目

  1. 複数の容器に隠された臭気を探す
  2. 屋内の部屋や所定区間に隠された臭気を探す
  3. 屋外の所定区間に隠された臭気を探す
  4. 車両のどこかに隠された臭気を探す

犬のウェルネスのためにも素晴らしいスポーツ

乗用車だけではなく、こんな風にトラクターも使われる!自然にあふれたスウェーデンの田舎ならでは!

ノーズワークが短期間のうちにこんなに人気を博すようになった理由は、ひとえにスウェーデン人がドッグスポーツ好きということに他ならないだろう。飼われている犬の30%以上もが競技会レベルで何らかのドッグスポーツに参加しているという統計も出ている。その根底には、「犬という動物はアクティブにしてあげるのが大事」という動物のウェルネスに根ざした精神があるから。散歩だけ、では犬の本当の幸せが実現できない。脳にも何か刺激が必要だ。嗅覚を使うスポーツというのは、まさに散歩だけでは得られない、犬にとっての最高の脳トレーニング。なんといっても犬は嗅覚の世界に生きる動物だ。

厳しいルール(!?)と心地の良い疲労

嗅覚を利用するドッグスポーツはトラッキングなど他にもたくさん種類があるのだが、ノーズワークの良い点は、とにかく手軽にできること。わざわざ、ドッグスポーツ・クラブの施設などを使う必要もなく、場所もあまりいらない。このカジュアルさも人気の秘密だ。室内のサーチであれば、自宅でも友人の家でもどこでもできる、そしてヴィークル・サーチだって、どの車を使ってトレーニングをしてもいい!

今日のトレーニングでは2台の車のサーチ。このうちの一台のどこかにニオイが隠されている。多分、右側の古いボルボ(Volvo 740)の方に隠されているに違いない!犬に前脚で傷つけられてもいいように!

ただし気をつけなければならないのは、探している間、犬は決して車体に前脚でタッチなどをしてはならないこと。北欧のノーズワークのルールでは減点となってしまう。犬が上の方を嗅ごうとして前脚をかけ立ち上がるというのは、かなり普通に行われる行動だけにルールとしてはなかなか手厳しい。このルールの起源は、人の車を捜索する際に、犬が車体に引っかき傷などをつけないように、という配慮から。というわけで初期のトレーニングでは、犬がうっかり前脚をかけてしまっても構わないように、古い車にニオイを隠して練習を行う。

さて、前脚で車をタッチしてはいけない、というルールのおかげで、競技会にチワワのような小型犬が参加している時などは、車を捜査すべきポイントはわかりやすくなる。つまり、決してチワワの体高以上のところにはニオイは隠されていないはず!となると、犬に探させるポイントとして、できるだけ低いところを集中して嗅がせるようにする。ただしこんな悪知恵が通用するのはやっぱりスポーツだから!本当に働いている麻薬探知犬の世界には、そんな甘さは存在するはずもない。

ヴィークル・サーチでは車内は捜索しない。外側だけなのだが、しかし、車は戸外に置かれているものだし、風も吹く。車体の周りで臭気はいろいろな方向に分散して、犬にとってもどこにその臭源があるのか、確定が難しい時もある。よって低いところにニオイが隠されていると推定できていても、決してやさしくはない。それだけに非常な集中力を要するようで、フガフガ、フガフガと鼻音を出してまで車を嗅ぎまわる犬の様子はとても迫力がある。

そしてトレーニングや競技会が終わった後の心地の良い疲労!犬も疲れるが、ハンドラーも疲れる!でも犬と一緒の充実感がたまらない。このスポーツにハマる人が多いはずだ。

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者