文と写真:三井 惇
『INU MAGAZINE(イヌマガジン)』のこちらの記事の中でも取り上げられていますが、ドッグダンスの演技の中では、ハンドラー(人)とパートナー(犬)が常に動き続けているだけではなく、曲調にあわせて止まったりすることも必要になります。
「動いている犬を止める」ことや「止まっていることを持続させる」ことは簡単そうに見えて実は意外と難しいんです。
犬は「マテ」を理解しているのか
愛犬に「マテ」を教える一番簡単な方法はごはんを目の前にしたとき、愛犬と食器の間に手をかざしながら「マテ」と発することではないでしょうか。
ごはんに跳びつきたくなりそうな犬を前に、「マテだよ~。マテ!」と言いながらハンドシグナル(手)を使ってごはんに向かっていこうとする犬を遮る動作を自然にやっている飼い主さんは多いと思います。
最初はそんな手を押しのけてでもごはんに食いつこうとしますが、それでも飼い主としては「マテ~!」と言って犬を待たせ、場合によっては「オスワリ」をさせて何秒かじっとしていられたら「ヨシ!」と言ってごはんを食べることを許可する。そんなことをやり続けていることで、愛犬に少しずつ「マテ」イコール「動かないこと」と教えて行くことは意外と日常的に行われていると思います。
ところが、外に出て犬を待たせようとするとすぐ動いてしまうという現実があります。
なぜ「マテ」ができないのでしょうか。
犬が理解している「マテ」とは
ごはんの時だけに「マテ」を使っていると、「マテ」と「ごはん」がセットになってしまい、ごはんが目の前に無い状態では「マテ」の意味が理解できていないことがあります。
目の前に目標物が無いのですから当然と言えば当然です。
ごはんという報酬を得るためになさねばならない仕事と理解していれば、報酬が目の前になければやる意味がありません。
なんか理屈っぽいと思われるかもしれませんが、犬の目線に立って見ると理解できるのではないでしょうか。言葉の意味が分かっていない状態で、目の前のごはんを遮られ、「マテ」というキュー(言葉の合図)で待っていることは出来ても、何もない状態で、例えば玄関から外に出る時「マテ」と言われても、「?」となる犬は少なくないと思います。
もちろん、前にとび出そうとしても、「マテ」と言われて「リード」が張った状態になっていれば物理的に前に行かれないので止まることはできますが、ノーリードの状態ではおそらく待てないでしょう。
犬が理解しやすいようにするには
そこで、「『マテ』は目の前に何があろうがなかろうが、動かないでじっとしていること。」という意味を教えて行く作業が別に必要になってくるわけです。
最初はごはんの代わりに手にトリーツ(おやつ)や大好きなおもちゃを持っていてもかまいません。すぐに飛びかからないで我慢している時間を少しずつ伸ばす練習をすることで、「マテ」の意味がごはんと一緒でなくても同じ意味だよと伝えていくことが出来ます。
「なんか面倒だなぁ。」とは思われるかもしれませんが、あやふやな理解のままだと、本当に待っていて欲しい時に待っていられず、犬の安全が守れなくなったりすることもあります。
リードで繋がれているから待っていられるのではなく、たとえリードが手から離れてしまうような場合でも、待っていられるように愛犬に理解してもらえると危険回避もしやすくなります。
「マテ」と「トマレ」
最初に書いたように、「動いている犬を止める」ことや「止まっていることを持続させる」ためのキューを分けることも一つの方法です。
例えばドッグカフェなどで、足元に伏せたままでいて欲しい時と、信号が変わった時犬を止めるために使う言葉が同じ「マテ」ではわかりづらいのではないでしょうか。
もしかしたら「どっちも同じことだよね。」と理解できる犬もいるかもしれませんが、個体差があることを忘れてはいけません。
犬の理解の仕方によって、うまく伝わっていないなと感じたら、状況によってキューを細かく変えてあげることも必要です。長く待たせる時は「ステイ(とどまる)」、動きを止めて欲しい時は「マテ」や「トマレ」など、キューを使い分けてあげるのも一つの方法です。
ちなみに我が家の犬たちの場合、動かしたくない時は「マテ」よりも「フセ」と言うことが多く、犬たちには解除されるまで「フセ」を維持し続けるように教えていますが、環境や周囲の刺激によっては持続できないこともあるので、いろいろな場所で練習しています。
「立ってマテ」
座ったり伏せたりすると待ちやすいものですが、立っているとどうしても動きやすくなってしまいます。
訓練競技でも「立ってマテ」という課目があり、ハンドラーが歩き続けていても、犬はキューを出されたときにその場で止まって待たなければいけません。
ドッグダンスではハンドラーが動いているのにパートナーがその場で止まったり、あるいは、ハンドラーと反対方向に移動してハンドラーの方を見ないで止まったりと高度な技術が必要になる場合があります。
ハンドラーのそばでは待っていることが出来ても、離れるとさらに難しくなるので、一つ一つ丁寧に繰り返し教えていくことで犬たちはきちんと理解してくれるようになります。
競技に限らず、いろいろな場面でも必要な「マテ」や「トマレ」、愛犬にわかりやすく伝えてあげられるといいですね。