文と写真:三井 惇
ドッグダンスにかこつけて、愛犬とのコミュニケーションアップや愛犬のことをもっとよく知ってみませんかとコラムを書かせて頂いていますが、今回は更にマニアックなタイトルなので引き気味の方もいらっしゃるかも知れません。
「遠隔」をわかりやすい言葉にできなかったのでそのまま書いてしまいましたが、要は犬が人と離れている状態でハンドラーのキュー(指示)に反応して行動することを意味しています。
離れると言うのは2メートルかも知れないし、30メートルかも知れません。もちろん、猟犬や災害救助犬などのお仕事犬ではないので、何百メートルとは言いません。でも、少なくとも飼い主のすぐ目の前にいるのではないのが「遠隔」です。
愛犬の写真を撮るとき、愛犬は動かないでいられますか?
今やSNSは当たり前の世の中で、人に見せたくなるようなランチやディナーを前にすればすかさず「カシャッ」とシャッターを切る、いやボタンを押す時代。
キュートな愛犬の姿だってどんどん載せてしまいたくなりますよね。でも、その時「チーズ」と言ってじっとしていてくれるならいいのですが、立ちあがってしまったり、ズルズルと飼い主さんの方に近寄ってきて、一向にピントが定まらないなんてことはありませんか?
口では「マテよ~、マテだからね~、動いちゃダメよ~。」と言っていても、愛犬の方は「なんのこっちゃ?」と勝手に動き出してしまう。
もちろん、カメラ自体が好きじゃない子は勝手に動いてそっぽを向いたりしていますが、そうでない子は「マテ」と言われても、飼い主さんがどんどん後ろに下がっていくのを見れば、ついつい追いかけてきてしまったりするものです。
そこで必要になるのが愛犬に「マテ」の意味を教えてあげることです。
「マテ」ってな~に?
人間は犬を動かしたくない時、無意識に「マテ」と言っていますが、果たして愛犬に「マテ」の意味は本当に伝わっているのでしょうか。
例えばごはんの食器を目の前に置いて「マテ」と言った場合、愛犬にとっての「マテ」は「ヨシと言われるまでご飯を食べてはいけないこと。」と認識しているでしょう。
散歩に行く時、玄関の前で「マテ」と言われれば、「ヨシと言われるまでは勝手に玄関から飛び出してはいけないこと。」と認識しているはずです。
「マテ」が「その場から動かないで、じっとしていることだよ。」と教えるためには、まず基本の「マテ」を教えてあげなくてはいけません。
例えば犬がフセをしているとき、「マテ」と言いながらハンドラーは一歩下がってみたり、横にちょっと動いてみたりと、位置を少しずつ変えても犬が立ち上がろうとしなければそこを褒めて、それが「マテ」の意味だよ。と教えていきます。
「マテ」と言ってから、犬の後ろに回ってみる。
一歩は次第に二歩、三歩、1メートル、5メートルと距離を伸ばしていくことで、飼い主が傍にいなくても動かないことが「マテ」だと段階を踏んで教えていくと、「マテ」と言われれば、言われた姿勢で動かないでいることだから、当然目の前のごはんを勝手に食べ始めてはいけないのだと認識します。
「マテ」の意味が理解できて、飼い主がその場から離れても動かないでいられるようになれば、玄関に来客があった時も、飼い主がいちいち犬の傍まで行って「マテ」と言わなくても、その場で「マテ」と声をかけて、愛犬が我先に玄関に走って行くのを止めることが出来ます。
ドッグダンスにおける遠隔とは
離れた場所で「マテ」が出来るようになってきたら、同様に離れた場所で「オスワリ」や「フセ」などのキューを言ってその場で行動してもらうことも可能です。もちろん、少しずつ距離の変化に慣らしていくという練習は欠かせませんが、それをすることで、飼い主が犬から離れていても、犬が飼い主のキューにその場で反応することが出来るようになります。
この遠隔の作業はドッグダンスでは欠かせない動きです。
ドッグダンスには「ヒールワークトゥミュージック(HTM)」と「ミュージカルフリースタイル(MF)」という二つのカテゴリーがあり、後者のMFにおいては、ハンドラーとパートナー(犬)が離れて演技する場面を入れることで評価が高くなります。
しかし、離れて「スピン(回れ)」や「サイドステップ」、「バウ(おじぎ)」などのトリックを行うためには、パートナーがハンドラーと離れていても自信を持って動けるようにならなくてはいけません。
まずは目の前でその動きが出来るように練習してから、少しずつ離れていきます。
ハンドラーの目の前にいても、離れていても、同じように行動出来るということは、それだけハンドラーに集中できているということ。
離れた状態でサイドステップを踏んでいるアシスタント
日常生活においても、愛犬がいつも周囲の刺激ばかりが気になってしまうのではなく、飼い主に集中してくれることが増えてくれば、愛犬との楽しい時間が増えるかもしれませんよ。