「お手・おかわり」って必要かしら?

文と写真:三井 惇

子供の頃散歩中の犬と出会うと、誰に教わったわけでもないのに、犬に向かって「お手・おかわり」と言って芸をさせようとしたのを思い出します。

別に何の意味もありません。犬はみんな出来るものだと子供心に思い込んでいたからでしょう。

今でも犬たちを連れていると、子供たちが寄ってきて、「オスワリ」のあとに必ず「お手、おかわり」と言われます。ところが我が家の犬たちはそう言われても知らん顔。すると子供たちはがっかりするわけです。別に教えていないわけではなくて、この場合はキュー(合図)の言葉が違っていたので意味がわからなかっただけのことです(笑)。

つまり、「お手・おかわり」は犬はみんなするものだと思い込んでいる人が多いという話。そんなわけで、愛犬に「お手・おかわり」を教える方はとても多いのだと思います。

一方、「『お手』なんて出来ないし、必要ないわ。」とおっしゃる方も結構いらっしゃいます。別に出来ないのが悪いと言っているのではありません。なぜなら手足を触られるのが嫌いな犬も意外と多いからです。

できると便利な「お手・おかわり」

では、「お手・おかわり」は単なる芸にすぎないのでしょうか。前足をあげる犬の動きはとてもキュートなので、芸として身に着けていてもいいかもしれません。「芸は身を助ける」ともいいますし。でもそれだけでなく、日常生活のなかでも足をあげるという動きは覚えておいた方が便利なことがあります。たとえば散歩から帰ってきて足を拭いたり洗ったりするとき、無理やり犬の足を掴んで嫌がられるより、犬が自分から出してくれれば余計な力をかけずにスムースにいきます。

また足裏は怪我をしやすい場所でもあるので、ボディチェックと共に、普段からチェックする習慣をつけておくと、ひび割れや切り傷などを早めにみつけることもできます。爪切りや、足裏の毛をカットする時などにも便利です。

引っ込めようとする足を無理やり引っ張って作業するより、自分から出してくれた方がお手入れも短時間ですむというもの。便利でしょう?

「お手・おかわり」ってどうやって教えるの?

さて、ウチの子でもちょっとやってみたいと思った方に教え方について少しお話しましょう。

おそらく昔からの簡単な教え方は、「お手」や「おかわり」という言葉のキューを言いながら前足を掴むものではないでしょうか。別にそれでもいいんです。でも、改まって前足を掴んで、「これが『お手』だからね。」という必要はありません。なぜなら、散歩から帰ってくれば、日常的に足を拭いたりしませんか?その時に、ただ黙って足を掴むのではなく、「お手」と言って左前脚を拭いたら、「おかわり」と言って右前足を拭く、ついでに「後ろ」と言って後ろの左足を拭いたら、最後に「はんたい」と言って右後ろ足を拭く。

これを毎回散歩から帰ってやっていれば、犬は言葉のキューを聞いただけで足をあげるようになります。もちろん一日二日では覚えられませんが、繰り返されることで次第に足をあげる動きと言葉のキューが関連付けられて、言葉の意味が理解できるようになるのです。

無理矢理お勉強の時間を作らなくても、簡単に出来そうじゃありませんか?

ここでポイントになるのが、時折足を拭く順番を変えることです。毎回同じ順番だと、一つ一つの意味より、パターン化して犬が覚えてしまうからです。

「ウチは犬の足は拭かないんだ!」とおっしゃる西洋式の暮らしをされている方は、無理に拭かなくてもいいです。ただ足裏を触って拭いたフリをしましょう。もしお友達の家に招待されたときに困らないように。

「無理矢理愛犬の足を掴むのはちょっと・・。」とおっしゃる方は、クリッカーというトレーニングツールを使って、愛犬の行動を促すという方法があります。これはちょっと難しいので、やってみたいとおっしゃる方は是非トレーナーさんたちがやっている「トリックレッスン」などに参加してみてください。新発見があること間違いなしです。

ドッグダンスでは欠かせない「お手・おかわり」

「お手・おかわり」はドッグダンスでは様々なところで使われています。「お手」と言われたら前足を人の手に乗せることだけだと思っていませんか?

最初は手に乗せることから覚えた動作ですが、次第に「前足をあげる」ことと犬に理解させていくと、人の手やひざ、足の上など、様々なパターンのお手が出来るようになります。

更に、目の前に人がいなくても、言葉のキューで前足をあげることがわかってくれば、犬が単独で前足をあげることもできるようになります。するとドッグダンスでは犬と人が並んでシンクロするなんてこともできるようになるわけです。

そしてもうひとつ、犬には足は4本あるのですから、足を拭くときの要領で一本ずつの足をきちんと分けて理解できれば、後ろ足をあげることもできるようになります。

ほらっ、日常生活とドッグダンスってすごく身近なものだと思いませんか?

毎日黙って足を掴むのではなく、ちょっと声をかけてあげると愛犬も納得して素直に足を拭かせてくれるかも。

オマケ

当時生後6か月の子犬が、見よう見まねで先住犬と一緒にやってくれました。

ボケと突っ込みに見えるのは飼い主だけでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。