犬に行動を教える

文と写真:三井 惇

ドッグダンスを一度でもご覧になった方はおそらくピンとくるのではないかと思いますが、演技の中でいろいろな動きを見せる犬たちを見て、「あれ、どうやって教えるのかしら?」と思ったことはありませんか。
犬たちがハンドラーの周りを上手に回ってみたり、バックステップを踏んでみたり、あるいは小道具を上手に運んでいたり。
そうなんです。みなさん本当にオリジナリティがあって、愛犬のかわいらしさや素晴らしさをアピールする様々なトリックをご披露してくださいます。
今回はそんなトリックの教え方のヒントをちょっとお教えしちゃいますね。

犬に行動を教える方法

昔は愛犬に初めて「オスワリ」を教えようとすると、首輪に付けた紐を引っ張り上げ、お尻を下の方に押しながら、「オスワリ!」「オスワリ!」と連呼していたのではないでしょうか。
今思えば、首を引っ張られながら、お尻を押される犬の身になってみると、よくこんな方法で犬は理解したものだと感心します。
なぜって、人間だって誰かに押されれば、反射的に押し返そうとしてしまうではないですか。
押されるがままに押しつぶされることはまずないですよね。
そんなところから、犬を押さずに行動を教える方法を考えてみましょう。

今さらですが・・。

では、「オスワリ」の動作はどんな方法で犬に伝えると犬は理解しやすいのでしょうか。

以前も書きましたが、「犬が西むきゃ尾は東」なんていうことわざのように、犬の体の動かし方を見ていると、どうやったら「オスワリ」しやすいかわかってきます。
この場合はお尻が下がればいいので、お尻とは反対側にある顔をあげさせれば腰を下ろしやすくなるという理論です。
ではどうやって顔を上げさせるか。
犬にとって気になるものをちょっと顔があがるくらいの所で見せれば自然と顔があがります。
顔を上げるとはどういう意味でしょう。
顔の先端にある鼻が上を向けば、自然と顔もあがります。
ということで、犬の鼻が一番気になるものと言えば食べ物ですよね。
そこで、犬の鼻先におやつなどを見せて、鼻が自然と上に向くように誘導してあげればいいのです。

もちろん、美味しいものがあれば跳びつきそうになったり、興奮しすぎたりと、いろいろ飼い主の思惑と違う行動を見せてくれるのが犬ですが、何度かやっているうちにちょうどいいポイントが見つかるので、愛犬の動きをよく見ながら誘導してあげるとお尻が下がって座ってくれます。
つまり自分から「オスワリ」という行動をとるので、犬にとってもわかりやすいわけです。

このように、何かで愛犬の注意を引きながら行動を引き出す方法を「ルアー(釣り餌)」などと言いますが、食べ物の代わりに、愛犬の大好きなおもちゃを見せてあげてもいいんですよ。
上手に座れたら、しっかり褒めて持っていたおやつをあげたり、そのおもちゃで遊んであげます。

言葉もしっかり教えてあげましょう

手に握ったおやつやおもちゃを見て愛犬がすかさず座るようになってきたら、「オスワリ」などの言葉と「座る」という行動を紐付けしていきます。
「オスワリ」と言ってから、おやつを持った手を鼻先に近づけ、愛犬が座るのを待つ。そうすることで、愛犬は「オスワリ」と言われれば、「腰を下ろすことなんだよね。」と理解していくわけです。
どうですか?とっても簡単ですし、愛犬にとっても楽しいこととお勉強が一緒に出来て、ストレスが少ないと思いませんか?

「ルアー」で動きを教えるというのは、トレーナーに教わっていない人でも、日常的に犬の様子を見ていると、どこかでやっていると思います。
例えば、犬とおもちゃで遊ぼうと思ったら、おもちゃを持って動かしてみたりしたことはありませんか?
「おもちゃだよ~。遊ぼう♪」と言って目の前に置いても愛犬が興味をあまり示さなかったとき、おもちゃを持って振ってみたりしていませんか?
すると愛犬がそれに釣られて一緒に動く。これが「ルアー」と同じ原理です。
これは犬の「追いかけたい」本能だけでなく、欲しいものに付いて動くという行動を利用した学習方法です。
なんか、いろんなことが教えられそうな気分になってきませんか?

 

犬の学習方法

連載コラムの初回『ドッグダンスで新発見!愛犬の隠れた能力』で犬の自発的な動きをトリックにしてしまう「おじぎ(バウ)」の教え方をお話ししましたが、これも行動に名前を付けることで、「おじぎと言う行動」を犬に覚えさせる方法のひとつですし、『「お手・おかわり」って必要かしら?』では、日常生活の中でやっている行動に名前を付けていくことで、行動を理解させられることをお話ししました。

いずれの教え方も、日々繰り返してあげることできちんと確立されていくものなので、思い出したときにちょこっとやるぐらいだとなかなか犬も理解出来ません。

人間もスポーツや演奏など、身体を動かす習い事の場合、月に一回だと、次回行ったときは体に思い出させるだけで前半を費やしてしまい、なかなか次のステップに上がれないなんてことがあります。
コンスタントに週何回か続けて通うと、筋肉などの体のパーツが早く思い出してくれますが、たまにやる程度だとなかなか身につきませんよね。もちろん自宅で自主練できるものならいいのですが、水泳だったり、乗馬だったりと、その場に行かないと出来ないようなものは、身体が思い出すのに時間がかかってしまいます。

犬の学習も同じです。
続けることが肝心ですので、ある程度身につくまではコンスタントに続け、その後は忘れないように、時々リマインドさせてあげることが肝心です。

犬とのトレーニングは、犬だけでなく人も頭を使うので刺激的です。
うまくいかない時は、犬にちゃんと伝わっていないかもしれません。プランを立てて、愛犬と一緒に学習してみませんか?たいくつしている愛犬が目を輝かせてくれるかもしれません。

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。