愛犬にとってのご褒美は?

文と写真:三井 惇

最近のドッグトレーニングは「陽性強化」と言われる手法で、犬にとってモチベーションがあがるものを使って行われるようになってきています。そのモチベーターの代表がトリーツ(食べ物)です。
しかし、ただトリーツを使えばいいというものではありません。
トリーツがなぜトレーニングに使われているのか、そんなところから考えてみないと、トリーツの効果は期待できません。

トリーツは万能じゃない?

犬に行動を教える」の回でも少しお話しましたが、やってほしい行動を引き出すために「トリーツ」を「ルアー(釣り餌)」として使うことがあります。
例えば、「オスワリ」を教えたいときは、犬の鼻先にトリーツを見せて、トリーツを持っている手を少し犬の頭の上の方に動かすことで犬の顔が上に向くと、お尻が下がって座る姿勢が取りやすくなるので、犬が自発的に座る行動をとらえて褒めていくと「オスワリ」という行動が繰り返されて習慣になっていきます。

また、好ましい行動をとったときや、飼い主に言われたことをきちんと理解して行動できた時のご褒美としてトリーツをあげることで、犬は叱られるより、ご褒美をもらえる方の行動をとりやすくなるわけです。

しかし、もし愛犬が食べることに興味がなかったらこの方法は効果があるでしょうか。
答えは当然ノーです。
いくら愛犬の目の前に美味しそうなトリーツを見せたところで、彼らはなんの興味も見せないでしょう。そうなると、ルアーのように誘導するなどということは到底できなくなります。
「犬は食い意地が張っているから何でも食べるだろう。」というのは神話になりつつありますので、食べ物で釣れると思ったら大間違いということもあり得るわけです。

人間だってそれぞれ価値観が違うわけですから、Aさんに「美味しいものをご馳走するから、これ手伝って。」と頼んだ時、Aさんが食道楽なら問題ありませんが、もし食べることにあまり興味が無い場合、食事の誘いはモチベーターにはならないでしょう。

愛犬の好きなものを知っていますか?

愛犬はいったい何が好きなんだろう。
そんなことを考えてみると、お互い無駄な時間を費やすことなく、コミュニケーションが上手にとれるようになるかもしれません。

また、食べることが好きと言っても、それぞれ嗜好があるので、「Aちゃんはお肉が好きだけど、Bちゃんはお芋の方が好き。」とか、「Aちゃんは鶏肉が一番好きだけど、馬のジャーキーも嫌いじゃないし、お腹が空いていればレタスも食べてくれる。」なんてこともあります。
実は食べ物を使ったトレーニングの場合、この「好き」の度合いがとても重要になってきます。

ドッグダンスの練習でも、パーツごとの練習ではいつものトリーツ、パーツを組み合わせて、集中力の持続が必要な練習の時はちょっとランクが上のトリーツをご褒美に使ったりします。
こんなランク付けをしてみると、犬たちにとってもやる気の度合いが変わってくるかもしれません。
トリーツの好き度チェックしてみませんか?

食べ物以外でも愛犬の喜ぶことを探してみよう。

では、先ほど言ったように食べる物に興味がない場合はどうすればいいのでしょう。

私が20年前犬のトレーニングについて学び始めた時の愛犬へのご褒美はボール遊びでした。
ボーダーコリーと言うアクティブな犬種の特性もありますが、子犬の頃からボール遊びをしていたので、ボールは彼女にとってとても素晴らしいご褒美となりました。
ボールをモチベーターに意欲を引き出し、上手に出来たらボールを投げる。
そのボールを取に行くこと自体が彼女にとってのご褒美だったので、取に行けば必ず咥えて戻り、また投げてくれと催促するので、日々のトレーニングも楽しく進んでいきました。

食べ物にこだわる必要はありませんし、どうしても食べることに興味の無い場合は、ボールなどのおもちゃを使うこともとても有効です。
ボールが普通のおもちゃと違うところは、ひとりでコロコロ転がるところです。
投げたおもちゃが動かないと、興味があまりわかない子もいます。
でも、ボールは落ちた後も転がり続けるので、犬は狩猟本能をくすぐられるわけです。
おもちゃひとつとっても、ランク付けが出来そうですね。

また、「うちの子はおやつにもおもちゃにも興味が無いです。」と言う場合、スキンシップはどうでしょうか。
撫でてもらうのが好きな子はそれもご褒美となります。

ただ、中には「お利口だね~!」と頭を撫でようとすると、すっと避けられたりすることがあります。
もともと上から手を出されるのが苦手な犬たちにとって、頭を撫でられるのはちょっと・・というタイプもいます。
トリーツと同じで、こちらがご褒美のつもりでやっていることが、実はそうでない場合もあるので、この辺りも注意したいところですね。
うちの子は何が一番好きなんだろう。
「あなたと一緒にいるだけで幸せなんだよ。」と愛犬がこちらを見つめてくれれば、こんなに嬉しいことはありませんが、もっと愛犬の喜ぶ顔が見たいからこそ、美味しいものを食べさせてやりたいとか、一緒にお出かしたいとか、ドッグスポーツを一緒にやりたい。といったことを考えるのが飼い主です。

周りにもっと楽しいものがあるときでも、愛犬が飼い主とのコミュニケーションを選んでくれるような、そんな関係になれると嬉しいですね。

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。