パターンになっていませんか?

文と写真:三井 惇

今までドッグダンスのことをいろいろい書かせて頂いていますので、「今さら」という気もしますが、改めてドッグダンスについて誤解があってはいけないのでちょっと書きますね。
ハンドラー(人)とパートナー(犬)が一緒に音楽に合わせてステップを踏むドッグダンスは、犬が音楽を聴きながら振付どおりに動いているのではありません。
ハンドラーがひとつひとつの動きをその都度犬に伝えているのです。

つまり、回って欲しいところで「スピン」と言ったり、バックステップをして欲しいところで「バック」と言うことで、パートナーはその言葉のキューを理解して動くと言うわけです。
「そんなの当たり前でしょ」とおっしゃる方は今までの私のコラムを読んで下さって、ドッグダンスを理解して下さっている方に違いありません。
なぜわざわざ書いたかと言うと、以前とある動画サイトで、犬の自発的な動き、例えば二足歩行や身体を揺らしているような動きに音楽を合わせて、あたかも犬が踊っているように見えるものを「Dancing Dog」としているものがあったので、それとは違うものだと説明させていただいたのです。

犬は順番を覚えているの?

では、もしハンドラーが何もキューを出さなかったらパートナーはどうするでしょう。
パートナーはハンドラーの顔を見上げながら、「何をすればいいの?」と聞いてくれるかもしれませんし、「多分これじゃない?」と自分が知っている動きを勝手に披露してくれるかもしれません。あるいは、早く何か言ってよ!と催促するかもしれません。

ということは、的確な指示のキューが無ければ犬は動かないのでしょうか。

実はそんなわけでもありません。
何度も何度も練習を重ねると、犬も流れを覚えて、「次はこれでしょ?」と自分から動く場合があります。
何のヒントが無い場合でもそのような行動を取ることがありますし、ドッグダンスの中では、ハンドラーのちょっとした体の動きを見て反応する場合もあるので、ハンドラーが間違ったキューを出してしまったにもかかわらず、パートナーが正しく動いているということも起こりえます。
つまりパターンとして覚えているので、Aの動きの次はB、その次はCだと犬が判断しているわけですね。

こういう例は日常生活の中でもよくあります。
ごはんを目の前にした愛犬に、「お座り」、「お手」「お変わり」、「伏せ」と言ってから「よし!」と言ってごはんを食べさせていると、ごはんが用意された犬は勝手に座り、言われもしないのに手を上げてから伏せるという一連の動作をこなします。
ここでもし「お座り」の代わりに「伏せ」と言ってもなかなか伏せてくれなかったり、伏せたあとに勝手に座りなおしてお手やお変わりを見せてくれることもあります。

つまりドッグダンスの振付のように、順番(パターン)で覚えてしまっているわけです。
パターンと言うと、ちょっと無機質な気がしますが、わかりやすく言えば「習慣」になっているということです。

「習慣」であれば人間と同じで、特に言われなくても自然に動いていることって意外と多いのではないでしょうか。
飼い主が散歩用のコートを着たら玄関で待っていたり、引き出しをゴソゴソしているとレインコートを着せられると思って犬舎に逃げ込んでみたり。気づかないうちに犬たちはちゃんと次を予測して動いているものです。

パターンにすると困る?

いい意味で先回りをしてくれるのは、いちいち声をかけなくてもちゃんとこちらの意図を汲んでくれて、まるで阿吽の呼吸が愛犬との間に生まれているように見えて嬉しいものですが、あまり先読みされてしまうと困ることもあります。

例えばお散歩のコース。いつもと違うコースを歩こうとしたら犬が止まって動かなくなったとか、ごはんの時間が遅れたら催促されたとか。そんなことはありませんか?

ドッグダンスでも、ずっと練習していたルーティン(演目)から新しいルーティンに変えた時、犬が以前のルーティンの流れを覚えていて、こちらのキューに反応してくれないとか、なかなか新しいルーティンの流れが覚えられないと言うことがよくあります。
まぁ、それだけ練習を積んだのですから、それはそれで頑張った証拠とも言えますが、新しいルーティンも覚えてもらわないと困ってしまいます。

切り株に乗ることを教えたら、切り株を見ると言われなくても乗って見せてくれる犬

パターン化させないためには?

そこでドッグダンスでは、Aの次はBでその次はCとパターンで教えるのと同時に、Aだけ、Bだけ、Cだけのパーツ練習も何度も行います。

普段の生活の中でも、毎日同じ時間にごはんやお散歩をするのではなく、たまにはコースを変えたりしながら、ランダムにしてあげるといいかもしれません。
犬にも個体差があるので、全然気にしないタイプもいれば、「いつもと同じでないと。」と頑固なタイプもいます。
そんな子たちには、少し時間をずらしてみたり、ちょっと違うコースを組み入れてみたりとバリエーションを付けてみてはいかがでしょう。
ごはんの時も、いつもと同じトリックをさせてから「よし!」とい言うのではなく、違うものもメニューに組み込んでみてはいかがですか?
ただ、ご飯を前にいろんなことをさせていると、ご飯が目の前に無いとやらなくなってしまうこともあるので気をつけて下さいね。

犬もいつもと同じでは意外と飽きてしまうので、ちょっと変えてみることで新鮮に見えてくるかも知れません。
家の生活リズムを毎日変えるのでは犬も落ち着きませんが、そういうことがたまにあるんだとよと犬に伝えておいてあげると、愛犬のストレスを軽減させてあげられるかもしれませんよ。

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。