熊本地震から1年。高校生が見た被災犬のいま 〜 熊本地震ペット救援センター、ボランティア体験 〜

文:白石花絵(しらいし・かえ)

熊本地震から4月で1年。東京に住んでいると、もう1年、まだ1年という曖昧な気持ちになりがちですが、現地の方の被災生活はいまなお現在進行形です。2016年4月14日夜の前震と16日未明の本震で、立て続けに最大震度7を観測した熊本地震。「家屋を解体しなければならない」「仮設住宅に今まで屋外飼育だった中・大型犬を室内に入れづらい」「昼間留守にしたときに吠えてしまって迷惑がかかるかも」「仮住まいの賃貸住宅はペット不可」など、さまざまな理由で飼い主家族と住めない状態にいる犬猫が、いまなおたくさんいるという現実があります。

阿蘇くじゅう国立公園内にある、人里離れた自然豊かな広大な土地にあるセンター

オープン予定より1年前に熊本地震は発生

そうした犬猫たちが収容されているセンターが、熊本県境を超えた大分県側の九重町(ここのえまち)にあります。九州中央部に位置する、熊本県と大分県にまたがる阿蘇くじゅう国立公園内に設置されたセンターで、いまは「熊本地震ペット救援センター」として機能しています。なぜ「いまは」と言うかといいますと、実はこのセンターは、熊本地震が起きる前から計画されており、本当の名前は「九州災害時動物救援センター」といいます。本来ならば有事に備えて、今年2017年4月にオープンするはずでした。しかし完成する前に熊本地震が起きてしまったのです。

そこで急ピッチで整備し、2016年6月5日に「熊本地震ペット救援センター」として開所。運営主体は、一般社団法人九州動物福祉協会(福岡県福岡市)、そして九州各県と山口県の獣医師会が協力しています。センターには毎週、福岡県獣医師会に所属する船津敏弘獣医師が1泊2日でやってきて、動物たちの健康状況をチェック(たまに船津先生以外の獣医さんも来ます)。3月29日現在、犬21頭、猫6頭がこのセンターで生活していて、飼い主さんの住宅や生活環境などが整い次第、お迎えに来てくれるのを待っているのです。

豊かな自然環境で散歩する場所はいっぱい!

しかし、このセンターは、町から離れた標高の高い山の中にあります。何十頭もの犬猫の世話をする人が必要なのですが、熊本の人は自分が被災して犬猫のボランティアまで手が回りにくいですし、そもそもどの町からも遠いせいか、昨秋、ボランティアが不足していました。「誰か犬猫を扱える人で、泊まり込みで長くボランティアしてくれる人はいない?」。たまたま何かのセミナーの帰りに、知り合いから私に声がかかりました。そこで、大学進学が内定し、3学期はほぼ登校しない私立高校に通っているうちの娘に「熊本地震で被災している犬猫の世話をする人が足りなくて困っているそうよ」と声をかけてみました。うちの娘は、小学生のときからボーイスカウト活動に参加しており、知り合いが誰もいない現場にひとりで放り込まれても、全然平気なタイプ(その強さはどこから来たのか親にも不明)。「じゃあ、行ってくる〜」と、あっさり彼女は九州入りを決めました(親、ちょっと焦ったけど、まあ、とにかく犬猫のために役に立ってこーい!と送り出しました)。

シェルターの動物を世話できる体験ができるなら喜んで

振り返ってなぜボランティアを引き受けることにしたの?と今回聞くと「(3学期がヒマだから、それならば)自分の将来のためになることに使いたいなと、ちょうど思っていたところだったから」とのこと。「それに中学生のとき動物病院には1週間職業体験に行ったり、ママ(=私)の仕事上いろいろな動物の話は聞くけれど、体が悪くて入院しているわけでないのに施設に仕方なく入っている犬たちの生活というのを自分は全く知らないから(自分の目で確かめたい)」。う! なかなかいいこと言うじゃないか! 子どもだとばっかり思っていたのにっ。彼女は、大学で動物関係のことを学ぶ学部に入学しますが、たしかに、シェルターにいる犬猫たちというのは、特殊な環境下に置かれている動物たちです。家庭にいる犬猫や、動物病院に入院している犬猫とは状況が違います。動物の精神状態も特殊な状態に違いありません。

このシェルターは、遺棄されたり迷子だったりと所有者がいないケースではなく、飼い主さんがいる動物たちではありますが、犬たちが飼い主と仕方なく離されて集団生活を余儀なくされているという点ではやはり普通の状態ではありません。それを泊まり込みで世話をするというのは、とても勉強になるはずです。けれども、うちには小型犬がいたことがないし、他人様の動物を預かるということはとても責任が重いもの(脱走させたら大変だし!)。出発前に、私はいろいろ注意事項を伝えました。犬ライターの娘、失敗は許されないぞっ!

出発の日。朝6時に家(渋谷区)を出発して、羽田から福岡へ飛行機でひとっ飛び。そこから高速バス・ゆふいん号に乗って「ここのえIC」バス停で下りる。そこにセンターのスタッフの方がクルマでお迎えに来てくれて、それから山道をぐんぐん上ること約20分。午後3時頃にセンターに到着しました。なかなかの長旅です。

ペキニーズのペッキー。雪の中をもふもふ走り、もふもふ食べる

センターを見たときの第一印象は「とにかく広っ!犬舎どこ!?」という感じだったそう。想像していた犬舎とは違っていたらしい。犬舎、猫舎の下には、温泉を使った床暖房が完備してあり、暖かい。広い原っぱとドッグラン。抜群の自然環境の中にセンターはありました。

そして人員は、泊まり込みで常駐しているスタッフが4〜5人(内2人は事務や総務的なお仕事をする方)。プラスうちの娘。そのほか日帰りや単発でお手伝いに来てくれるボランティアさんがいたそうです。

娘が行った1月中旬〜2月中旬は大雪でした
愛犬のボクサーと離ればなれになったため、センターのランディが心の支えに

実録!【ボランティアの日課】

では、うちの娘の実際の【ボランティアの日課】を紹介しましょう。彼女は人手不足を補填する係りだったので、猫担当の日もあれば、犬担当の日もあったそう。どちらかというと猫担当の日が多かったかもとのこと。彼女は産まれたときから犬猫と暮らしていたので、どちらの世話もできます。意外と使える高校生でした(笑)。

犬舎は温泉を利用した床暖房完備。24時間暖かい

7:00〜8:00 起床。朝ごはん。キッチンに置いてあるシリアルやスープなどを食べる。

8:00〜10:00 朝の作業。

<犬担当の日の場合>

  • まずちょっとだけトイレだし。散歩して排泄をさせる。
  • ごはん。投薬がある子にはお薬も。
  • 改めてそれぞれの犬を1頭ずつリードをつけて散歩させる。
  • 犬舎掃除。中・大型犬は、泥汚れをモップで掃除(基本、犬舎では排泄をしない子たちが多かった)
  • 小型犬は毎回ウンチやオシッコがついているので、仮ケージに犬を入れて、ケージを洗う。そしてトイレシーツやタオルを代える。
  • 犬の茶碗を洗う。
  • 次のごはんのために、各個体のフードを計量し、1食ごとにポリ袋に分ける。そうしておけば、間違いなく、すばやくごはんを犬たちに与えることができる。
それぞれの個体のフード量をきっちり計り、栄養管理をする

<猫担当の日の場合>

  • 散歩以外はほぼ同じ。投薬は粉状のことが多いので、ウェットフードにこねて(ばれないように)与える。

10:00〜10:30 ミーティング。「◎◎ちゃんが下痢をしている」とか「△△ちゃんちのお迎えが◆日に来ます」「新しく犬(猫)が入所します」「水道管が凍った」などの連絡事項をする。

10:30〜12:00 自由時間。もう一度長めに犬の散歩に行ったり、猫と遊んだりする。フードの計量の続きをする。

12:00〜13:00 昼ごはん。スパゲティや炒飯など、クルマですぐのお店に取りに行ってもらい、食べる。温かいごはんが嬉しかったそう。

13:00〜15:00 自由時間。フードの計量、猫砂の移動、暖房用灯油運びのお手伝い、加湿器の水運びのお手伝い、犬の散歩、犬と雪遊び。もしくは自分の部屋に戻り、勉強または昼寝。

15:00〜17:00 夕方の作業。ほぼ朝の作業と同じ。

17:00〜22:00頃 17:30くらいから夜ごはん(幕の内弁当のような感じ)。たまに自炊でみんなで鍋なども。スタッフとリビングでテレビを見るなどして談笑タイム。またお風呂タイム。施設内に温泉がある(家庭用お風呂より体積5倍ほどの浴槽。お湯は無色透明だが、金箔のようなものがキラキラしている。お肌ツルツル、髪の毛もしっとりサラサラになったと喜ぶ)。

22:00頃 就寝。ちなみにWi-Fiは飛んでいる。各個室にテレビあり。

毎日、犬猫の世話をしても飽きない娘

実際にシェルターでの犬猫の世話を体験してみて

では、1か月間の山ごもりボランティア体験を終えてみて、高校3年生はどのようなことを感じたのでしょうか。本音を教えてもらいましょう。

各ケージの後ろの張り紙に、名前や注意事項が書いてある

《大変だったこと》

  • 触ってはいけない、触れない、気やすく触ってはいけない犬猫がいるんだと実感した。個体によって接し方を変えないといけない。そうしないと咬まれたり、逃げられたりする可能性があるので、自分が気をつける必要がある。とくに首輪にリードをつけるとき、空のお茶碗を下げるときなど〔親註:これがわかっただけでも行った価値がありますね〕。
  • 水道管が凍ったとき。九重町は標高が高く、滞在中に大雪が降り、50センチほど積もった。昼間でもマイナスの気温の日もある。でもいつもはホースから温泉がジャカジャカ掛け流しというか垂れ流し(笑)なので、犬舎掃除や犬のものの洗濯は温かいお湯でできる。しかし水道管が凍ると犬のお茶碗が洗えなくて困った。水道管に温泉のお湯をかけて、溶かした〔なかなか都会ではできない体験をしていたようだ〕。
九州がこんなに寒いとは知りませんでした
  • 炊きたてのごはんが食べたくなった〔さすが育ち盛りの高校生〕。
  • 自分の愛犬を思いだし、ちょっと寂しくなった〔親より犬〕。

《楽しかったこと、嬉しかったこと》

  • 一度、散歩に連れ出し、走ってあげたりすると、次から犬舎に入るたびにキラキラした目で「さんぽ!? さんぽ!? わお!」という顔をしてくれること。可愛いし、求めてくれているのが嬉しかった〔素晴らしい。犬との信頼関係をつくれたのね〕。
雪の中を一緒に走ると大喜び!
  • 雪遊びができ、人生初のスノボをしたこと〔犬に関係ないことまで謳歌〕。

《センターについて感じたこと》

  • センターの認知度を高める必要性がある。ボランティアや寄付を集めるためにもセンターの認知度アップは必要だけど、それは二の次として、まずこういうセンターがあると存在を知ってもらえれば、もし自分の犬が被災した状況になったときに、とりあえず入所させてもらえる場所があるとわかる。詳しく暗記してなくても探せる。これは熊本に限らず、全国の人が、自分のまわりに、このようなセンターがあるかどうか、事前に探しておくべきだと思った。
  • 九州だけでなく、全国にこうしたセンターがあった方がよい。なかったら、もしものときに困る。そして震災が起きる前から、ボランティア登録制度などをつくっておいた方がいい。被災した大変な状況の人の中からボランティアを集めるのは大変なことなので、広いエリアから事前に登録しておくとよいのではないか。
  • 犬猫の世話をするだけがボランティアではないとわかった。できたてのごはんが恋しかったとき、温かいチゲ鍋など人間用のごはんを差し入れてくれる方がいた。すごく美味しくて元気がでた。動物を応援するだけでなく、人間のスタッフを応援することも、結果的に収容されている動物たちのためになる気がした。また、その方がたまに来たとき猫といっぱい遊んでくれた。猫と遊んでもらえたら、その分、自分は違う世話(フードの計量など)に時間を費やすことができる。ボランティアとして参加できることは、いろいろ多方面にあるのだと感じた。
  • 現場の声を本部が聞いてくれない。犬舎の軒先を作ってほしいと要望したのに(犬をつなぐ場所に雨や雪が吹き込まないように。また洗濯干し場としても雨の日に必要)、片側しか作ってくれなかった〔娘よ、それは予算の問題など、大人の事情があるのだよ〕。
  • 土地はいっぱいあるので、もっと大きいドッグランがあれば、もっと犬たちに自由運動をさせてあげられるのにと思った。
  • 短期間のボランティアだったので、与えられたことしかできなかったことが自分で残念。
山をおりて100均に行き、フェルトを買ってきて、四つ編みのオモチャを作ってみた! 犬たち、喜んでくれました

《ボランティア参加の総括と今後の自分の課題》

  • とにかく、ボランティアをやってよかった! いろいろな犬猫を見ることができた。いろいろな個性があった。勉強になった。
  • 今まできっと幸せであったであろう子たちが、被災によって急に飼い主と離されている現実があると身に染みた。ふと「この子にも飼い主がいるんだよなぁ。一緒に住めなくて切ないなぁ、飼い主も犬猫も」と思ったりした〔そういうことを想像できる人間になれることはとても大切だと思います〕。
  • 緊急時にこういうセンターがあることは絶対必要。震災直後よりも、数ヶ月経ってから入所する犬猫が増えたと聞いた。つまり、犬猫と住める家があったとしても、震災後は人間の生活も手一杯。犬猫のケアまでは大変だと思う。こういう施設のような“救いどころ”がないと、捨てられてしまう動物が増えてしまうかもしれない。またフードなどの物資がしばらく届かない、届く予定がわからない場所(自宅など)にいるくらいなら、フードがちゃんと確保されていて、ストレスが少ない(環境変化が少ない、毎日世話をしてくれる人がいる)環境にいた方が犬猫もいい気がする。
  • 今まで運動量が少なくて、ごはんを食べ過ぎでおデブちゃんだった子が、センターでの生活で、いい感じに犬っぽくなってきて(毎日散歩に行き、走り、遊ぶなどして犬らしくなってきた)、健康的になった子もいるそうだ。週1回、獣医さんの診察もある。それにごはんを食べ終わったあとはみな静かに寝るということは、飼い主さんはいないものの、それなりに満足した生活を与えられているということだと思う。
  • もし自分が被災したら、自分の愛犬メル(ボクサー)をこういうセンターに預けたい。あわよくばメルと一緒に、そのセンターで自分もボランティアとして住み込みたい。
  • 今までは保護犬のシェルターしか知らなかった。「こういう災害時の動物救援センターもあるよ」ということを知り合いに教えてあげたい。

人生の糧となった貴重な1か月間

いろいろ生意気なことも申しておりますが、高校生ならではの純粋な気持ちが伝わってきました。感受性が豊かなときに、こうした素晴らしい経験をさせてもらえて、親としてもとても感謝しています。これから動物関連のことを学ぶ大学生活においても、重要な礎になることと思います。センターのスタッフのみなさま、船津先生、1か月間、娘がお世話になりました!

この熊本地震ペット救援センターは、今年の10月末まで継続することが決まっています。ただ、今なおまだ新しく入所する子もいます。近々、新しい猫がやってくるとか。なぜ1年経った今になって!?と思って聞いてみると、解体業者が足りなくて、今から自宅を解体するというケースも少なくないそうです。もちろんそのほかの理由もあるかと思いますが、センターにいる犬猫が、飼い主さんの元で安定した暮らしに早く戻れることを願ってやみません。

11月以降についてはまだはっきりとしてはいませんが、船津先生のお話では、まだそのときまで残っている犬猫がいれば、各自治体のセンターなどに引き取られるなどの可能性も検討されているようです。そしてこの九重のセンターは、本来の目的である「九州災害時動物救援センター」としての機能が始まる予定。災害に備えて、盲導犬や聴導犬のリタイヤ犬に協力してもらい、ヒトをトレーニングする場所にするそうです。今後、博多の高校生が授業の一環として訪れることも計画されています。九州は、災害時に対する意識がとても高いです。こうした動きが全国で広がることを期待します。

熊本地震ペット救援センターでは、今日も飼い主さんのお迎えを待っている犬猫の生活費や医療費のために、寄付も募集していますし、ボランティアも随時募集中。ちょっと自家用車がないと行きにくい場所ですが、ぜひご協力を!

1か月お世話になった優しいセンターのみなさん

ちなみに、うちの娘は「夏休みもおいでね!」と言ってもらったそうなので、またこの夏も大分県九重に行くそうです。若者よ! 頑張ってこい!! その若さで犬猫の役に立ってこい! と、母は強く願っております。

写真協力:船津敏弘さん、白石祭鈴さん

熊本地震ペット救援センター(九州災害時動物救援センター)ホームページ

熊本地震ペット救援センター(九州災害時動物救援センター)Facebookページ

所在地:大分県玖珠郡九重町湯坪 1625(→アクセス詳細

電話:0973-79-2741

 

一般社団法人九州動物福祉協会

所在地: 〒810-0042 福岡県福岡市中央区赤坂1丁目4−29

電話: 092-713-0101

寄付については以下の通りです。

1. 寄付目的
「熊本地震ペット救援センター」の運営費用

2 .振 込 先
西日本シティ銀行 天神支店
普通預金
口座番号 3090486
口座名義 シャ)キュウシュウドウブツフクシキョウカイ リジチョウ ヒナゴ ヤスミチ
一般社団法人 九州動物福祉協会 理事長 日名子泰通
※振込依頼書のフリガナは上記の様に記入をお願いいたします。

3. そ の 他
振込手数料については、西日本シティ銀行の本支店窓口での取扱に限り無料。
残念ながら一般社団法人のため、税制控除はないそうです。

ABOUTこの記事をかいた人

白石 花絵(しらいし・かえ)

雑文家、ドッグ・ジャーナリスト。夫1、子ども1、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃんと東京都庁の見える街で暮らす。広島修道大学法学部法律学科卒業、その後広告制作会社でコピーライターを経験したのち、公益財団法人世界自然保護基金WWFジャパンの広報室に勤務。それからフリー。「日本にすむ犬が1頭でも多くハッピーになること。日本の犬がもっと社会から理解され、市民権を得られるようになること」、そのための記事を書くことがライフワーク。著作に『東京犬散歩ガイド』『うちの犬―あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、構成・文として『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』等。