ピースワンコついに東京進出! 12月20日オープンの世田谷譲渡センターに行ってきました。

文と写真:白石花絵(しらいし・かえ)

世界各地で人道支援活動を行っている特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)。とてもグローバルな活動をしていますが、本部は、のどかな広島県の郊外、山なみが美しい自然豊かな神石高原町にあります。

PWJでは災害救助の重要なパートナーである災害救助犬の育成活動をきっかけに、殺処分ゼロに向けた「ピースワンコ・ジャパン」プロジェクトを行っています。「24時間テレビ 愛は地球を救う」(日本テレビ)や「志村どうぶつ園」(日本テレビ)で<ぺこ&りゅうちぇる 捨て犬ゼロ部>でも最近登場したので、知っている人も多いかもしれません。殺処分問題を社会に啓発することにも一役買っています。

世田谷譲渡センターに今回やってきた7頭のうちの2頭。黒い、メガネをかけているようなのが健(たける)、オス、推定9か月。奥の茶色の犬はおとなしいチェリー、メス、推定5歳

広島県の殺処分0を維持しているピースワンコ

2010年にスタートした「ピースワンコ・ジャパン」プロジェクトですが、2011年度に犬・猫の殺処分数で全国ワースト(計8340頭)を記録した広島県の、「犬の殺処分ゼロを目指す1000日計画」を2013年9月に宣言しました。1000日以内に広島県の犬の殺処分を0頭にするという計画です。当時はかなり無謀な計画に見えました。でも、もしも本当に全国でいちばん殺処分数が多い広島県で0を達成できたら、ほかの県でもできるのでは!? そんな希望を感じるチャレンジでした。そんななか、本当に今年2016年4月、約2か月半前倒しで1000日計画を達成してしまったのです。4月から動物愛護センターの殺処分対象犬の全頭引取りを開始し、それ以降いまも県内の犬の殺処分ゼロを継続しています。現在、約700頭の犬が神石高原町のシェルターにいます。そのため犬舎の増設、スタッフの増員なども行いました。トレーナーだけでなく、獣医師、トリマーもいます。これだけの頭数を、アニマル・ウェルフェアに適った飼養管理をするというのはとても大変で、組織的に行わないと達成はできないでしょう。

しかし、ただセンターから犬を引き出し、命さえ助ければいい、シェルターで死ぬまで飼っていればいいというものではありません。やっぱり犬の幸せは、自分の信頼のおける群れ(家族)に属し、飼い主と絆をつくり、一緒に暮らすこと。「うちの納屋で勝手に野良犬が赤ちゃんを産んだ」(それも本当かどうかはわかりません。庭につないで飼っていた自分の家のメス犬が産んだのかもしれません)などと言ってセンターに持ち込まれる子犬たち、明らかに今まで飼い犬で人の手によく慣れている迷子なのか捨てられたのかわからない犬たちなど、いい子たちはたくさんいます。また、臆病だったり心を閉ざしていたりで人に慣れていない子であれば、ピースワンコのスタッフはみな犬の専門知識を学んだトレーナーばかりなので、家庭犬になれるようにトレーニングを行います。そうすれば家庭犬になれる子がほとんどなのです。シェルターに溜め込むのではなく、家庭犬候補の犬たちをどんどん譲渡して、幸せな第2の犬生(人生)をスタートしてほしい。ピースワンコでは、そのためには出会いの場を多く設けることが不可欠だと考えています。

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この夏に生後1週間ほどで愛護センターに持ち込まれ、すぐにピースワンコが引き取った兄弟犬。左が新太(しんた)、オス、生後4か月。右が若大将(わかだいしょう)、オス、生後4か月。子犬のときからスタッフが育てているため、とても人なつこい

保護犬と新しい飼い主の出会いの場・世田谷譲渡センター

そこで単発の譲渡会もたびたび開いていますが、「ここに行けば、いつでも保護犬に会える。保護犬を迎えるかどうかを検討できる」という常設の店舗のようなものがあれば、“ペットショップで犬を買う”、“ブリーダーから犬を譲り受ける”、のと同じように、“保護犬を迎える”という選択がぐっと身近になります。そのためまずピースワンコでは、広島市西区に広島譲渡センターを開設(2014年4月)。画期的なことでした。ただ、やはり地方都市では、次から次へと愛護センターに収容される犬をもらってくれる人の数がどうしても足りません。そこで人口が多く、また保護犬への理解がより深い関東圏への進出を考え、神奈川県藤沢市に湘南譲渡センターを開きました(2014年12月)。

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そしてこの2016年12月20日、ピースワンコの3か所目の譲渡センターが東京都世田谷にオープン。ついに東京初お目見えです。馬事公苑や東京農業大学のすぐ近く。世田谷通りの脇道を曲がって、すぐ1ブロック目のビルの1階です。最寄り駅は小田急線千歳船橋駅(徒歩12分くらい)、世田谷通りを通る渋谷行きの「桜丘三丁目」バス停がすぐ近くです。また近くにコインパーキングもあります。

さっそくオープン当日、行ってきました。できたてホヤホヤ、南向きの日当たりのいい犬たちのリビングスペースの、木枠の木の香りがかすかにします。

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開放感たっぷりの南向きのリビングスペースで、スタッフとじゃれる犬たち

プロジェクトリーダーの大西純子さんに、なぜ世田谷の地を選んだのかを尋ねてきました。「大きな公園があったり、自然がまだ残っていたり。他の区に比べると戸建てのおうちも多くて、犬を飼っている人が多いというイメージが世田谷区にはありますよね」

また大西さんは、センターのオープン準備をしているときから、近所の方によく声をかけられたそうです。「東京で保護犬がまだいるの?」と驚く人もいたそう。やはり世田谷、飼い主さんの意識が高いというのは本当のようです。オープン当日、近所のトイ・プードルを飼っている人や、与論島からの保護犬を迎えている人もぞくぞく入店してきました。

「犬種にこだわるのではなく、犬を迎えたいなぁという人であれば、ぜひピースワンコの犬も選択肢のひとつに入れてほしい」と、大西さんは言います。

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保護犬やピースワンコに関心があり、クルマで20分ほどの調布市からやってきた母子も犬たちと触れあう
来店者からの保護犬に関する質問に丁寧に答えているピースワンコ・プロジェクトリーダーの大西純子さん(左)

マッチングが大事! そのあと家庭訪問、そして譲渡へ

さて世田谷譲渡センターには、オープン時、7頭の犬が神石高原町からやってきていました。生後4か月の兄弟犬から推定5歳の犬たちです。でも、ペットショップのように「この犬が欲しいわーー。すぐちょうだい」というわけにはいきません。会ったその日に連れて帰れません。まず犬と飼い主さんのマッチングを見極めます。リビングスペースで触れあってみたり、ごはんをあげてみたり、散歩してみたり。そうしたお世話をしてもらいながら犬との接し方をみて、飼い主さんの犬の扱い方のスキルを確認します。犬を飼うのが初めての人なら、いろいろレクチャーもしてくれます。そして犬との相性がよさそうだったら、家族構成などのアンケート(調査票)を書き、そのあと家庭訪問があります。そこで生活環境のアドバイスやその家族に合わせたしつけの相談などをしてくれます。

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ちょっとシャイでおとなしい友美(ともみ)、メス、推定2〜3歳

そして訪問結果に問題がなく、ついに譲渡決定!となると、契約書を交わします。万が一、譲渡後に不適切な飼い方をしていたり、ましてや虐待しているとの通報があったり、しつけができなくて噛み犬になっているなど飼いきれていないなどがわかった場合は、犬を返還してもらうという文言も入っています。

譲渡にかかる費用は、サイズや年齢に関係なく、一律17,500円。混合ワクチン、今年度の狂犬病ワクチン、フィラリア予防薬、マイクロチップ、畜犬登録(いまは神石高原町の犬として登録してあるので、たとえば世田谷の犬になるのなら所有者変更届が必要です。ただすでに畜犬登録は済んでいるので費用はかかりません)をしています。ほかの獣医療費がかかっている場合もありますし、今までの食費などを考えれば、この譲渡費用はほんの一部分といえます。

年中無休。元旦も営業していて、個性あふれる犬たちが待ってます

この譲渡センターはペットショップではありません。犬と飼い主さんのマッチングなどを見極めるため、おうちに迎えるまで最短でも約2週間以上かかります。それだけ丁寧に手間と時間をかけるのは、犬のためにも、里親さんのためにも、相性のよい、いい出会いをしてほしいからです。そして犬を、ずっと幸せにしてくれるおうちの子になってほしいとスタッフみんなが心から願っているからです。(だから、決してスタッフは強引に勧めたりもしないから安心して遊びにいってください。ちょっと見に来ただけ〜でも気持ちよく歓待してくれます)

冬休みを前に、犬との新しい暮らしを検討している人がいたら、ペットショップに行く前に、ぜひ性格も容姿も個性的なピースワンコの犬たちのことも思い出してください。人なつこい元気な子、ちょっと人見知りさんの奥ゆかしい子、どの子も個性豊かで可愛いです。リビングスペースでちょろちょろしている犬たちをずっと見ていても飽きません。また、先住犬がいる場合は一緒に遊びに行くこともOKです。人間だけでなく、先住犬との相性というのも重大な案件ですからね。心ゆくまでじっくり検討してください。

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ご近所のトイ・プードルさんちもご来店。犬同士の相性を確認することも大事

しかも当たり前といえば当たり前ですが、犬の世話があるので譲渡センターは年中無休です。元旦も三が日も毎日オープン。2017年のお正月は、世田谷譲渡センターに遊びにいくというのもありですね。また犬のお散歩や犬舎の掃除などを手伝ってくれるボランティアも大募集中。ご近所の犬好きなみなさま、ぜひご検討くださいませ。

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毎日の散歩は最低4回、朝・昼・夕・晩。お散歩や犬舎の掃除を手伝ってくれるボランティアも大募集!

 

ピースワンコ・ジャパン世田谷譲渡センターの基本情報

  • 住所:東京都世田谷区桜丘3丁目23-2馬事公苑アーバンフラット1-A号室
  • 営業時間:午前10時~午後7時(無休)
  • 問い合わせ先:TEL:03-6413-7095、FAX:03-6413-7096
  • ホームページ:http://peace-wanko.jp/
  • Facebookページはコチラ

 

ABOUTこの記事をかいた人

白石 花絵(しらいし・かえ)

雑文家、ドッグ・ジャーナリスト。夫1、子ども1、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃんと東京都庁の見える街で暮らす。広島修道大学法学部法律学科卒業、その後広告制作会社でコピーライターを経験したのち、公益財団法人世界自然保護基金WWFジャパンの広報室に勤務。それからフリー。「日本にすむ犬が1頭でも多くハッピーになること。日本の犬がもっと社会から理解され、市民権を得られるようになること」、そのための記事を書くことがライフワーク。著作に『東京犬散歩ガイド』『うちの犬―あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、構成・文として『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』等。