都会でも自分ちの犬に十分な幸せを与える。 それが飼い主の責務であり、悦びであるべき♪

文と写真:白石花絵(しらいし・かえ)

はじめまして。「雑文家」と名刺に書いてあるけれど、犬ライター歴17年(やだー、年がばれるー)、ようは犬の雑学ライター、ときに社会派のドッグ・ジャーナリストや犬医療ジャーナリスト(ライターとジャーナリストの違いはなんだろう)、犬種図鑑を書き出すと止まらなくなる犬オタク作家、ついでに犬の雑誌以外の媒体でも犬と私の悲喜こもごもを綴る犬エッセイスト……たまに野生動物や猫のお話しも書くけれど、ほぼ毎日犬の原稿ばっかり書いている、そして毎日犬の散歩のことばっかり考えている、いち犬好きのクーパーん家の白石花絵と申します。

世界でいちばん面倒で、いちばん可愛い犬

クーパーとは、私がいま世界でいちばん好きな生物(残念ながら、夫より順位が高く、私が犬と暮らすかぎり彼は一生1番にはなることはない)。ジャーマン・ショートヘアード・ポインター(以下、ジャーポに略す)のクーパーは、7歳のオス。クーパーの先代は、ワイマラナーのバド(16歳8か月まで長生きしたんですよ。大往生でしょ)。犬種図鑑を好きな人なら気づくと思いますが、ジャーポもワイマラナーも、垂れ耳でツルツルスムースヘアのドイツのポインターです。私は、剛胆なくせに繊細、執着質なのに気は優しく甘ったれ、一癖も二癖もあって面倒くさいけど飼い主ひと筋で忠実なドイツのポインターが大好きなのです。

ついでに言うとですね、このドイツのポインターの気質は、私、こっそり、日本犬の気質と似ていると常々思っております。日本犬の柴でも秋田でも、芯は強いんだけど神経細やかで、ワン・オーナータイプ(飼い主以外には興味がなく、ほかの人には愛想がない)。ジャーポやワイマラナーも基本そうなんです。そして鳥でも獣でも狩るオールマイティーな猟犬であり、いざとなったらイノシシやクマにも怯まない強い精神力、闘争心がある。アジアの端っこの島国ニッポンと、ヨーロッパのど真ん中あたりのドイツと、こんなにも離れていて血の交流があるとは思えないから、もし似ているとすれば、長く一緒に暮らしてきたその国の民族(つまり日本人とドイツ人)のお人柄や価値観、犬に対して求めてきたものが似ていたのかしら?と想像したりします。たしかにクルマでも壊れないのは日本車かドイツ車だし!? そんな風に犬種の歴史やその国の文化や伝統を合わせて考えると、犬種学というのはすごく深くて、面白いのです。だから私、犬オタク化しちゃっているんですけどねー。

小型犬でも愛玩犬でも「犬は犬」

犬の見た目だけじゃなくて、中身も合わせて、どうしてこういう姿になったのか、なんでこんな性格をしているのか、犬種の成り立ちや今までの仕事を調べると、愛犬を理解するヒントが隠されていると思います。日本で多いプードル、パピヨン、テリアだって、もともとは猟犬種ですし、ミニチュア・ダックスフントはドイツではいまもバリバリ現役の獣猟犬。そりゃー体力あるに決まってる。人間と短時間歩く散歩くらいじゃストレスも運動量も発散されるわけがない。小型犬でも、犬は犬なのです。

まあ、未だに犬をぬいぐるみ感覚で買う人はもういないと思いますが(そう、信じたい)、犬は、赤ちゃんの代わりでもないし、恋人の代わりでもないし、着せ替え人形でもない。彼らは、バッタやネズミやキツネを追いかけ、穴掘りをし、噛み殺すとワクワクしちゃう、れっきとした肉食獣(猫よりは雑食性が強いけど。ちなみにクマだって雑食性)なのです。それは猟犬由来ではないシー・ズーや狆やマルチーズでも同じです。泥んこまみれのところに寝転んでみたり、落ち葉の中を走り回ったり、飼い主とかくれんぼしたり(=頭を使うゲームになります)、そういう心身の刺激となる体験をさせることが、犬の心身の健全性を維持することに欠かせません。

1日2時間がとりあえず目標だっ!

日本で暮らしていても、ヨーロッパで暮らしていても、どこの国で飼われていても、犬の幸せ(とくにその犬種ごとの幸せ)は同じ。日本に住んでいるから、アスファルトの道路ばかりの都市部に住んでいるからって、犬に我慢をさせるのではなくて、どうやったら自分の犬をハッピーにできるのか考えねばなりません。

ちなみにドイツでは、大型犬でも小型犬でも、大きさに関係なく、毎日最低2時間は、屋外を散歩させるのが当たり前なんだそうです。それ以下の短い散歩では、無駄吠えするとかの問題行動や自傷行動などがでてしまう、ということを経験値で知っているらしい。さらに「どうもあのおうちは犬がいるのに、散歩に行っているところを見たことがない」とか「散歩が短すぎる」などがあると、近所の人が通報しちゃう。するとちゃんと行政の獣医局(獣医師)が見に来て、適切な指導をするそうです。

それにしても毎日2時間!? けっこう長っ! 1日24時間しかなくて、仕事して、寝て、ごはん食べて……そんな時間あるっ!? 私でもこの話を友人から聞いたとき、内心ヤバい、と思いました。こりゃー大変だ、もっと頑張らなくちゃ! ドイツだったら、私はクーパーを虐待していることになり、没収されちゃう(ダメな飼い主が飼い殺ししているくらいなら、没収し、新しい飼い主を探す。ということが、動物の福祉という考え方なのです。すごいねー、ドイツ)。ああ、「飼い殺し」という言葉。すごい響き。でもね、日本では「飼い殺し」されている犬、正直、多いような気がする。

そういう意味では、私は人選というか「犬選」(いぬせん、って言葉を作ってしまおう)を間違えているダメな飼い主のひとりです。ごめんなさい(誰に謝っているんだ? クーパーか? うちの近所の住民か? ジャーポは世界に誇るガンドッグだと自負しているドイツの国の人にか?)。なにしろクーパーは、野山を1日中走り回ってもくたびれない無尽蔵の体力を持っています。このタフさは、マジで犬種随一なのです。アラスカなどで力持ちのソリ犬(アラスカン・マラミュートやシベリアン・ハスキーなど)に、わざと持久力を加えるためにポインターを交配して、より強く速く、どこまで走っても疲れないミックス犬をつくるというんですから、ポインターのタフさは本物です。

そのジャーポを、こんな大都会の真ん中で、猟銃免許を持っていない私が、それでも一緒に暮らしたい!というのは、はっきりいって私のワガママなのです。

ボクサーは「怖い犬」?

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わが家にはもう1頭、娘の犬であるメスのボクサーのメルちゃん(6歳)もいます。ボクサーは欧米では「子守り犬」とも言われ、家庭のコンパニオン・ドッグとして人気が高く、毎年ベスト5〜10に入っているようなポピュラーな犬です。ボクサーも昔は猟犬の仕事をしていましたが、改良に改良を重ねられ、いまは猟犬の仕事はすっかり忘れて、家庭犬としての新しい道を謳歌しています。だから街で飼うコンパニオンとしてとても向いています。ボクサーとブルドッグの見分けもつかない日本人は、ああいう顔は怖いらしく「狂暴な犬だ!」という先入観がやたら強いのですが(なんの影響かしらねぇ?)、いやいや、いまやボクサーやブルドッグはお調子者なところはあるけれど、とても優しい、人間の乳幼児のそばにおいても大丈夫な(そりゃ個体差がありますから全部のボクサーが大丈夫とは思わないでね)、いい家庭犬になる犬なんです。山で何時間も爆走させる必要もありません(泥んこや草の実だらけになって、満面の笑顔をされることはあるけれど)。ボクサーは、都会で暮らす相棒としてふさわしい犬種です。

出典:https://www.youtube.com/

東京で犬とハッピーに暮らすために

でもね、私はジャーポの性質も姿も好き。クーパーが大好き(そりゃーメルも可愛いですよ!)。よってクーパー(&メル)を少しでもハッピーにさせることが私の責務であり、そしてそれこそが私のいちばん悦びであります。東京でクーパーを飼っちゃいけないのか。都会でジャーポを飼うのは虐待なのか。いいや、そんなことはないっ。頑張る!頑張らせて!

犬種の問題だけでなく、住環境(住宅密集地かなど)、周辺環境(森や河原などの自然が近くにあるか、土の地面が近くにあるか、近所の人は犬に理解があるかなど)、ライフスタイル(1人暮らし、共働きで留守番が長いなど)、一時的な環境の変化(飼い主の入院、赤ちゃんが生まれたなど)、犬と暮らすということは、けっこういろいろな条件が整わないと苦労します。では、東京のような都会で、犬にハッピーな生活を与えるためには、どうすればいいのでしょう。

この連載では、都会でだって犬を幸せにしてやれるんだいっ! ということを模索しつつ、東京ならではの犬暮らしを紹介していきます。さらには、都会でだって田舎でだって、純血種だってミックスだって、ニッポンにすむ犬をもっともっと幸せにしていくためにできることを、みんなで考えていく場にしていけたらいいなと願っております。お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。


文と写真:白石花絵(しらいし・かえ)

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雑文家、ドッグ・ジャーナリスト。夫1、子ども1、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃんと東京都庁の見える街で暮らす。広島修道大学法学部法律学科卒業、その後広告制作会社でコピーライターを経験したのち、公益財団法人世界自然保護基金WWFジャパンの広報室に勤務。それからフリー。「日本にすむ犬が1頭でも多くハッピーになること。日本の犬がもっと社会から理解され、市民権を得られるようになること」、そのための記事を書くことがライフワーク。著作に『東京犬散歩ガイド』『うちの犬―あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、構成・文として『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』等。

ABOUTこの記事をかいた人

白石 花絵(しらいし・かえ)

雑文家、ドッグ・ジャーナリスト。夫1、子ども1、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃんと東京都庁の見える街で暮らす。広島修道大学法学部法律学科卒業、その後広告制作会社でコピーライターを経験したのち、公益財団法人世界自然保護基金WWFジャパンの広報室に勤務。それからフリー。「日本にすむ犬が1頭でも多くハッピーになること。日本の犬がもっと社会から理解され、市民権を得られるようになること」、そのための記事を書くことがライフワーク。著作に『東京犬散歩ガイド』『うちの犬―あるいは、あなたが犬との新生活で幸せになるか不幸になるかが分かる本』、構成・文として『ジャパンケネルクラブ最新犬種図鑑』等。