スウェーデンの狩猟文化と狩猟犬

文と写真:藤田りか子

スウェーデンの森は狩猟真っ盛り。狩猟をやらない人にとっては、日照が短くなるし、曇りがちな季節でもあるので、暗さ、寒さ、鈍よりさ以外は何ものでもない。この鬱陶しさから脱出するために、地中海の島へ太陽を拝みに旅行する人も少なくない。

が、狩猟家にとっては、めっそうもない、こんな素敵な時期逃してたまるものか!彼らにとって8月中旬から2月ぐらいまでの時期は一年のハイライト。そしてスウェーデンと狩猟とくれば、狩猟犬なしには語れない。現役の猟犬たちが今でも生き生きと活躍している。そのような犬たちは地方のみならず都市にも存在する。森を含めた自然がそこら中にある故、猟犬の存在は誰にとっても身近だ。統計によると、スウェーデンの犬人口の約25%が実猟犬(スウェーデン狩猟協会統計より)。ちなみに狩猟をする人は人口のおよそ3%に登る。これはヨーロッパでも3番目に高い割合だ。

そしてスウェーデンの犬文化の高さというのは、これら狩猟犬の存在も大いに貢献している。狩猟犬を作るには、丁寧なブリーディングが必要だ。何しろ、技があっての狩猟犬、才能を持った両親を掛け合わせて、次世代の犬を作ってゆくという努力と知識が要求される。猟の種類によってはドッグスポーツのオビディエンスやアジリティを教える時と同様なレベルの高いドッグ・トレーニングも必要だ。これら犬に対する基本的な考え、そして意気込みが、猟犬の愛好家から延いては一般の犬愛好家にも及び、スウェーデンの犬文化を作り上げたと言ってもいいだろう。よって犬といえば、人々は単にその可愛さとか癒しの効果を求めるだけのものではなく、その能力を純粋に楽しもうとする。いわば趣味の対象としての犬なのだ。それゆえに、犬を犬として見なそうとうするポジティブな態度もスウェーデン中にかなり浸透している。

さて、ここに示すのは、ついこの間友人について行った狩猟の様子だ。我が家から車で10分も行けばそこは猟場。今回お供したのはノロジカという鹿の猟。スウェーデンの狩猟といえば、ヘラジカ猟(ムース)が有名だが、それにも増してノロジカ猟も盛んだ。ニホンジカよりもやや小柄、ヨーロッパにもっとも多い鹿の一種でもある。もちろん獲った鹿は食卓に。一番美味しい部分は背ロースから内ロースの部分。腿や心臓は燻製にするとこれまた最高のデリカテッセン。蹄のついた脚の部位は犬のトレーニングに。紐をつけて地面に引きずり、においのトラッキング(足跡)を作る。そしてそれを後で犬に嗅がせて追わせるのだ。こうして手負になった鹿を探す犬をトレーニングすることもできる。この詳細についてはいずれの機会にお話ししたい。

森の恵みを得るために犬が活躍する。スウェーデンでは犬はその意味でも社会に欠かせない私たちの大事なメンバーだ。

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朝、招かれた狩猟家たちが集まり、リーダーが今日の狩猟の計画をお知らせする。ノロジカ猟には猟場によって色々な猟の仕方があるが、今回は、ドレーベルという足の短いハウンドを使って鹿を追い出す。各ハンターたちは所定の位置に潜み、鹿が射程距離に来るまで待つ。その配置場所というのも、この朝のミーティングで言い渡される。
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こうして森の一角でひたすら待つ。犬は鹿の足跡を見つけたら吠え始める。その吠え声を手がかりにどの辺りに鹿が出て来るか予測ができる。小1時間ほど待っていると、放たれた猟犬の一匹が通り過ぎた。この狩猟では計4匹の犬が森に放たれた。犬の声が迫って来ると、いよいよ鹿が近くに現れるのではないかと、期待が膨らむ。じっと待っているだけなのだが、 犬の吠え声を聴くという意味でも狩猟はとても楽しいイベントだ。
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狐が出て来た!しかし、これは今回の狩猟の獲物メニューには入っておらず。なので撃たない。今回の猟はノロジカのみ。このようにスウェーデンでは狩猟のルールは毎回きっちりと守られている。
お昼までにハンターは2頭のノロジカを仕留めた。
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昼になると、皆で待機場所から出て来て、集合場所へ集まる。焚き火を囲んで、ランチ。これも狩猟の中でとても大事なパート! 暖かいスープとパンというシンプルなメニューだが寒い中をじっと待ち冷えた体には、何よりもありがたく、そして美味しく感じられる!

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者