犬は刺激に弱いんです。

文と写真:三井 惇

どんなときも平常心で、自分を保てる人ってうらやましくないですか?

私は緊張する方で、競技会などに出始めた頃は、リングに入った瞬間に課目の順番を忘れてしまったり、ドッグダンスの振付を忘れたりと、大汗をかいたことがあります。

今でもデモンストレーションで大勢の人の前で話しをするときや、初めての場所では緊張して用意してきたことの半分も話せなかったりなんてこともあります。

それでも、さすがに年齢も重ねているので、多少は馴れる力が備わってきました。

実は犬も同じなんです。

ウチの子、いつもはちゃんと出来るんです

レッスンで良く耳にするのが、

「いつもは出来るんです。」という言葉。

きっとおうちではきちんと出来ているのでしょう。

でも、外だったり、レッスン場だったり、あるいは競技会場だったり、場所が変わって、周囲の状況が変わると出来なくなってしまう。

いつもと違う環境が様々な刺激となって犬の気を散らしてしまい、飼い主さんの言葉が聞こえなくなるという状況に陥ってしまうのです。

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例えば「オスワリ」ひとつをとっても、日常的に慣れた家の中で、飼い主さんと目を合わせ、「オスワリ」と言われればちゃんと腰が下ろせるのに、ドッグランで走り回っているときに、リードを付けて帰ろうと思い、「オスワリ」と言っても聞いてくれない。

そんな時はついつい何度も「オスワリ!」と叫んでしまいがちですが、犬にとっては、楽しい遊びに興じているとき何か言われても聴こえないのはよくあることです。

なぜなら、普段いろいろな環境で飼い主さんの話を聴く練習をしていないからです。

どんな場所でも同じように出来るようになるには?

すぐれたスポーツ選手であっても、練習で出来たことを本番で出すためには、本番に近い環境での練習が必要になります。

精神力が強く、アウェイだって関係ないという人は技術があれば鬼に金棒ですが、どちらが欠けても勝てません。

ドッグダンスも同じです。本番でハンドラーが緊張しているのを犬が感じ取っていたり、あるいはパートナー(犬)自体が馴れない環境で集中出来なかったりするといつもの演技は出来ません。

出来る限りいつもどおりにやるには、日々いろいろな場所での練習が欠かせないのです。

つまり、日ごろの練習の成果がちゃんと出るかどうか、おうちの中で出来ていることが外でもちゃんと出来るかどうかという点においては、ドッグスポーツをしていない犬たちも同じです。

家の中ではちゃんと座れるのに、外でよその人に飛びついてしまう。

いくら「オスワリ」と言っても聞いてくれない。

それなら外で「オスワリ」の練習をすればいいんです。

家の玄関の前や、人通りの少ない所で、「オスワリ」と言ってみます。

そこで出来るようになれば、今度は少し刺激のある場所で試してみます。

刺激に負けてしまったら、また少し刺激の少ない場所で練習してみる。

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そんなことを繰り返すことで、刺激への免疫力が高まり、どんな場所でも飼い主さんの話を聴くことが少しずつ習慣化していきます。

特に難しいことは何もありません。

練習あるのみです。

若い犬の場合

先日ドッグダンスの発表会があったので、我が家の生後9か月の若犬と参加してきました。

生後9か月と言えば、人間でいう思春期、反抗期に入るころで、日常的にも人の話が聞こえなくなるお年頃。しかもオス犬。

家の中ではこれくらい集中出来るのに、

 

本番になったら、こんなになっちゃいました(笑)。

 

でも、いいんです。

なにごとも経験です。

もちろん、家の中からいきなりこういう場所に出たのではありません。

日々近所の公園で練習してみたり、練習場を借りて音楽をかけて動いてみたりと、様々なシチュエーションで練習しています。

それでも本番となると、今の若犬が出来るレベルはこんな感じです。

新しい環境で愛犬がどんな反応を見せるのか。

発表会は競技会と違ってそんなことが学べるいいチャンスでもあります。

犬の気持ちになってみよう

愛犬がこちらの指示の通りに動けなかったとすれば、周囲の刺激に負けて指示を聴く姿勢が出来ていなかったからかもしれなません。

「環境が変われば、犬は刺激に負けやすい。」

それさえわかっていればいいんです。

刺激が多い場所で、出来ないことを無理やりやらせないで、出来る場所で、出来る経験を少しずつ積んでいくことから始めましょう。

特に若い犬はまだまだ経験が足りません。

そこは長年一緒にやってきたパートナーとは違うところでもあります。

散歩の途中、飼い主さんが立ち話をしはじめても、「オスワリ」と言ったら隣に座って待っていられるように、ちょっと練習してみませんか?

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ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。