文と写真:三井 惇
子犬を迎えた時は、寝床やトイレスペースを備えたサークルやケージを利用しますが、ある程度大きくなってトイレを覚えてしまうと、それらは使わなくなってしまうことが多いようです。
すると、愛犬の居場所はソファの上だったり、ドッグベッドだったりと、お家の中では完全にフリーの生活を送る犬たちがほとんどではないでしょうか。我が家も日常的にはまったくフリーです。
ところが、最近は災害などの非常事態に備えて、クレートやメッシュケージにも入れるようにしましょうという啓蒙活動があちらこちらで見られるようになりました。しかし、非常事態でなくても、クレートなどに入れるようにしておくととても便利なので、是非トライしてみませんか。
どんな時に便利なの?
犬が苦手な来客だったり、修繕などの作業で人が出入りするような場合、どうしても犬を隔離しておきたいときがあります。リードを持って家の中を移動するより、物理的に遮断した方が犬も落ち着きますし簡単です。別の部屋に入れておけばいいという考え方もありますが、別に部屋が無い場合や、別の部屋で吠えながら走り回っているという状況を想像すると、クレートに入れて、場合によってはカバーをかけておくと犬たちは意外と静かにしていてくれます。
車で移動する場合、基本的にはクレートに入っている方が安全と言われています。もちろんクレート自体の固定は必要です。
人間でさえ、衝突の衝撃で窓から飛び出してしまうくらいですから、フリーの犬たちの危険度は高いといっていいでしょう。
旅先で、宿泊施設によってはダイニングに犬を連れて入れないことがあります。そんなときは部屋に残して行かなければなりませんが、部屋でフリーにしておくのは少々心配と言う場合は、クレートに入れておけば犬にとっては安全ですし、人にとっても安心です。ちょっと目を離したすきに、備品を破壊してしまったり、粗相してしまうということも避けられます。
飛行機で移動する場合は当然クレートに入れないと機内には持ち込めません。航空会社によっては貸し出しクレートも用意してありますが、愛犬が初めて見るクレートに喜んで入るとは限りません。
ドッグダンスなど様々な競技に参加する場合、他の競技犬の邪魔にならないようにクレート待機させるというのは一般的ですし、順番を待っている間、自分の犬を多くの刺激にさらして疲れさせてしまうこともありません。
クレートに入れるのはかわいそう?
愛犬と室内で暮らしていると、クレートやケージに入れてしまうと隔離しているように感じてしまい、人間が傍にいないと愛犬が寂しがると思う人もいるようですが、実はそうでもないんです。
我が家で初めて犬を迎えた頃、かれこれ30年ほど前になりますが、外飼いの場合庭に犬小屋はあっても、家の中に犬のためのクレートを置くという概念を私は持っていませんでしたので、最初に大型犬(シベリアン・ハスキー)を迎えた時は、家の中はキッチン以外どこにでも入れるフリーの状態にしていました。しかし、日中は私と一緒に居間の床やソファでごろごろしているのに、夜二階の寝室に連れてあがろうとすると、彼はついて来ようとせず、一人で玄関のマットの上で寝ることを選んだのです。
その後迎えたボーダーコリーも、家の中で暮らしていましたが、サークルに入っていたのは子犬時代だけで、その後はフリーの生活をさせていました。
しかし、母子3頭になった頃、部屋に一台だけクレートを置いてみたら、みんなでクレートの取り合いが始まったのです。
クレートの中にいた犬が水を飲みにクレートから出てくると、それを待っていたかのように、別の犬がクレートに飛び込んで寝ています。いつも必ず誰かが入っています。余った場所だからではなく、好んで入っているのです。一体なぜでしょう。ソファだって、ドッグベッドだって置いてあるのに。
つまり、周りを囲われた一人用クレートが誰にも邪魔されることなく、一番落ち着ける場所だとわかっているのです。犬だって一人になりたい時間があるんですね。
我が家は留守中でも犬たちの様子がわかるようにIPカメラを付けていますが、1頭飼いになったときでも、留守中はほとんどクレートに入っていて、水を飲むときだけクレートから出てきていました。たまにソファでのびのび寝ているところも目撃していますが、ほとんどはクレートに入っていました。
多頭飼いで、他の犬の煩わしさからクレートに入る場合だけでなく、一人で留守番しているとき、外部の音や来客のインターホンなどで煩わされる環境下では、巣穴のようなクレートに入っていると安心できると感じる犬は多いのではないでしょうか。広い家全体を警戒しなくてはならない状況に置くのは逆に犬を不安にさせてしまいます。
現在5歳のボーダーコリーは地震が苦手で、ぐらっとくると一目散にクレートに飛び込みます。本能的に、狭くて暗い場所が安全だと理解しているのかもしれません。
クレートトレーニングはどうやるの?
子犬を迎えた時に「ハウストレーニング」をしていれば、同様の方法で教えます。
おうちによっては、「ハウス」はサークルのように広く、トイレスペースなどを完備した場所だったかもしれませんが、クレートは犬が中に入って丸くなれるくらいの広さですから、最初は違和感を感じてなかなか入ってくれないものです。
中には、さっさと入る犬もいます。昨年15歳で旅立った我が家の三男坊は、ドッグショーの会場でたまたま見つけた当日限りの格安クレートを初めて買おうとしたとき、大きさを確認するために「ちょっとはいってくれない?」と言ったら、さっさと中に入って伏せておりました。めずらしいタイプかも知れません。
いずれにしても、最初にクレートにいざなうときは、強制的に押し込むのではなく、中におやつやおもちゃを入れて、クレートの中が楽しい場所だと認識させるところから始めます。
扉もすぐに閉めるのではなく、出入りは自由だということを教えてから、クレートの中で落ち着いているときに扉を閉めて、すぐ開けて出してあげるという工程を何度か繰り返します。
言葉のキューは、ある程度犬がすんなりクレートに入れるようになってきたら、おやつなどを入れたあとに、「ハウス」や「クレート」などで犬を中に誘導しながら教えていきます。
「ハウス」のキューで喜んで飛び込んでくれるようになったら、入った後におやつをあげます。
その後扉を閉めたあとにおやつをあげたり、クレートの中で静かにしていられたらまたおやつをあげます。クレートに入っている状態を褒めてあげることで、クレートに入りやすくなっていきます。
どうしても上手くいかない時は、プロに相談してくださいね。
手がふさがっている時や、犬の安全を考えて隔離したい時にはとても便利なツールですので、是非トライしてみてください。