犬との距離

文と写真:三井 惇

先日クライアントさんに愛犬との理想の生活について伺ったところ、「リードが無くても一緒に歩いてくれるような関係になりたい」と言われました。
もちろん日本での生活においてリードは法的に義務付けられたものですが、旅先などでリードを離してもよい場所に愛犬と一緒に訪れた時、リードを外した途端に、ピューッといなくなってしまっては困りますよね。
つまりリードが付いていなくても、「どこかに行ってしまったきり呼んでも戻ってこない」犬ではなく、あたかもリードが付いているかのように飼い主さんの傍を歩き、たとえ少し離れたとしても、呼べばすぐ戻ってきてくれる。」そんな関係を築きたいという意味です。

ノーリードに出来ないのは?

ドッグランに愛犬と入った時、そこが馴れた場所でも、あるいは初めての場所であったとしても、名前を呼んだ時に愛犬はすぐ戻ってきてくれますか?


『家の中では呼べば来るけど、外だと来ない。だからリードは離せない。』
『ドッグランは囲まれていて逃げられることがないので安心だから放す。』
こんな言葉を良く聞きます。

当然家の中は刺激が少ないので、犬も集中して飼い主の声を聞くことが出来ます。
でも外に出れば、他の犬、人、車などなど、様々な刺激や誘惑があって、呼ばれてすぐ行くべきか、他の犬と遊んだ方がいいか、犬も天秤にかけて選択しています。特に何かを追いかけるDNAを強く持っている犬種などは、動いている物を見た瞬間すでに制御できなくなることもあります。
外でリードがいつも張った状態であれば、リードが緩む、あるいはリードが無い状態を犬が経験していないので、一度リードが離れると、糸の切れた凧のようになって、飼い主の元に戻ってくることは難しいでしょう。
中には、怖がりで飼い主さんの傍から離れられない子もいるでしょうが、馴れてくれば自分であちらこちらを散策するようになり、そちらに気をとられてしまうと戻ってこなくなったりします。

呼び戻しがきかない愛犬を一度放してしまえば、周囲を囲まれたドッグランであっても、山の中であっても、飼い主の元に戻ってくる確率は非常に低いのではないでしょうか。「だからドッグランの中だけで放すんだ。」と言われてしまうと、万が一ドッグラン以外でリードが手元から離れた時に最悪のことを考えなくてはいけなくなってしまいます。

ドッグランやロングリードを効果的に使ってみませんか?

いつも「戻ってこないんじゃないか」とか、「戻ってこないけど、リードは絶対離さないから大丈夫」と思っていらっしゃる方は、ドッグランやロングリードをもっと有効活用してみませんか。
「自由に放して遊ばる」という目的だけでドッグランを利用するのでなく、リードが付いていなくても、一緒に歩く練習をしてみたり、「匂い嗅ぎ」や「少し走らせたい」などの理由のためにロングリードを使うのではなく、リードが張る前に声をかけて呼び戻し、戻ってきたら褒めるという作業を日々繰り返して練習してみませんか?必ず成果は出てきますよ。

「リードの先にはいつも飼い主がいるから、飼い主の方をいつも気にしていなくても、リードが張っていれば安心」と愛犬に思わせるのではなく、愛犬の方から飼い主の位置を気にして距離感を保てるようになってくれると、いつも愛犬のペースでせわしなかったお散歩が、周囲の景色が眺められる、余裕のお散歩になるかもしれませんよ。

ドッグダンスはリードなし

ドッグダンスでは様々な動きがあるので、基本的にリードは付けません。それでも、ハンドラーが前に進んだり後ろに下がったり、あるいは横に動いても、パートナーはハンドラーとの位置関係を維持しながら動きます。それはきちんと犬の立ち位置を教えてあげることで出来るようになります。
始めたばかりのペアの場合は、「リードを外したら逃げちゃうんじゃないかしら。」という不安は必ずあります。発表会の場のように、馴れない、緊張する場面で逃げ出したくなるというのは考えられることです。
しかし、リードが無い状態での練習を重ねていくことで、リードが無くても犬はその場を離れずついて来られるようになります。

リードを外して犬と行動することが特別なことではなく、日常的にしてあげることで、犬はリードが無くても飼い主との距離感をきちんと計れるようになります。
都会の街中でノーリードの練習はもちろん出来ませんが、ドッグランを利用することでそんな練習も可能になります。もちろん、他の犬が沢山いる場所でやろうとするとハードルが高くなりますので、利用者が少ない時などを狙って練習してみるといいと思います。
自由に他の犬たちと走り回っている愛犬を見ているのも楽しいものですが、飼い主が「ちょっと一緒に歩こうか」と声をかけた時はすっとんで戻ってきてくれるような愛犬がいたら、ドッグライフがもっと楽しくなるかもしれませんよ。

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。