犬の集団散歩、地域とつながりながら

文と写真:藤田りか子

スウェーデンでの犬暮らしは確かに日本より恵まれていると思う 。一つは社会が犬に寛容であるから。そしてもう一つは飼い主同士の連帯感が取れやすいというところにもある。これ、かなり重要なポイントだ。そこでは同じ趣味をもった人が集まるから、情報交換が起こる。すると飼い主は知識を得るからより賢くなってゆく。全体的に飼い主のレベルが高いのも、飼い主は決して一人無知のまま取り残されることがないからだろう。

みんなで散歩すれば退屈にならない!

スウェーデンの個人主義は確かに強いはずなのだが、しかし共通の目的を見つけると、何かと人々は一致団結しようとする。それは犬の世界でも同様で、ケネルクラブという中央の団体しかり、そして自治体内の飼い主同士の間にすら何かしら「共同組合」のような集まりは存在する。私の地域からの例を紹介しよう。私はグルムスというコミューン(自治体)に属しているのだが、ここには集団散歩を行うグループが存在する。週に一度集まり皆で2時間ぐらいかけて歩くのだ。犬との散歩は、飼い主が新しいルートを開拓しない限り、マンネリになりがちだ。 ちょっとでも体調がのらなかったりすると、散歩への意気込みは一気に崩れる。でも、他の犬飼い主たちが集まり一緒に行えば、誰かが新しい散歩コースを教えてくれるかもしれないし、たとえいつもの同じ道でも 時間はあっという間に過ぎる。それだけにより長く歩くこともできる。家に帰れば、犬も人も心地よい疲労で、体も気持ちも 満たされる。我が家の界隈では、毎週水曜日に散歩が行われるのだが、雨が降っていようと、外の気温がマイナス10度であろうとも、必ず何人かは出揃う。私の場合、逆に天気の悪い日ほど、集団散歩のモチベーションは上がる。天候に関係なく犬には散歩が必要だし….。

寒くても動いている限りたいていの犬は震えることはない。毛衣がツルツルとしたスタフォードシャーテリアを除いて全ての犬たちは服も着せられず皆「ハダカ」で散歩道を行進する。

散歩に限らず、スウェーデンにはドッグスクールなど特定の機関に頼らずとも、こんな風に飼い主同士が集まれるような機会があちこちにある。一緒にアジリティ、オビディエンスをトレーニングをするグループもあれば、ドッグショーのハンドリングの練習をするグループもある。最近はFacebookの普及によってグループが作りやすくなり、コミュニティ内で一緒にアクティビティを、というグループ活動は以前より一層増えた 。我々の散歩グループは、もともと知り合いの犬仲間同士が集まったものに過ぎないのだが、Facebookを通じて呼びかけたら、みるみるうちに参加したい人が増えた。

「ここにもこんな犬仲間がいたんだ!」

と地元の飼い主たちを互いに発掘する機会ともなった。

環境トレーニングというメリットも!

スウェーデンもだんだん春に近づいて来た。でも森には雪。散歩の合間に「マテ!」を入れる。前を歩いている犬が、他の犬に非常に敏感なので、こうして時々止まっては距離を取ってあげようとしているのだ。これも犬たちにとっては素晴らしいトレーニング!

集団散歩は成犬にとっても最初はなかなか容易ではない。気が散り、なかなか飼い主の意思通りには動いてくれないことも。あっちを匂い、こっちを匂い。グループの中で自分の位置付けをしようと、頻繁におしっこをしようとする犬もいる。ただし、しばらくすると、一時的な群ではあっても「仲間同士のフィーリング」のようなものが心に沸くらしく、最初のテンションは落ちて、散歩の中盤頃にはすでに犬たちは皆かなりリラックスする。飼い主に関しても同様だ。そしてこれら経験は、犬たちの環境トレーニングとしても非常に大事だ。ドッグランで他の犬たちと気ままに走らせるのも楽しそうに見える。が、集団の中で飼い主とコンタクトを取りながら一緒に歩くことを幾度も経験することで、犬はより飼い主とのチームワークを強めてくれる。さらに、集団で行動すると、他の犬に対してもそれほど敏感にならならないようになる。このトレーニングは特に若い犬で大事なことだろう。他の犬にあまり出会わずに育ってしまうと、道端でガウガウする犬に育ってしまう。

というわけで、たとえ競技会や大きな犬のイベントといった第一線に立たなくても、地元でこんな風に色々な犬アクティビティをする機会に恵まれる。万人が等しく、犬を飼うために必要な知識を得ることができる。欧米での犬飼いについては、よく「自由だから羨ましい」と日本の愛犬家から聞くことではある。が、私にとってみると、むしろこのような人々のつながりが簡単に保てるところに、スウェーデンの犬暮らしのよさがあると思うのだ。

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者