北欧風ゴム長靴活用法

文と写真:藤田りか子

スウェーデンは森と湖の国として有名だが、湿地帯も非常に多い。 数々の湖と同様に湿地帯は氷河期の名残でもある。 特に私の住んでいるあたりでは森中のあちこちに存在する。苔にモッサリと覆われ、歩くと桟橋を歩いているみたいにグラグラする。こんなユニークな自然に溢れた場所、日本だったら全国的な観光名所になっていただろう。夏はこのような場所で子育てをするツルやヘラジカによく出会う。

さて、森があり湿地がありという地理的状況、それに加えシトシト(日本のようにドシャ降りではなく)と雨の降る日々が多い気候状況ゆえ、ゴム長靴の使用頻度はスウェーデンにおいてとても高い。この状況は自然がよく似た隣国フィンランドにおいても同様だ。そして散歩はできるなら森でするという北欧の愛犬家の多くは長靴愛用者である。事実私自身も犬を飼うようになってから、長靴の重宝さに気がついた。そしてゴム長靴が、スウェーデンでは決してダサい履物ではない、ということも学んだ。

日本でゴム長靴というと、どうしても黒くてテカテカ光った30cmぐらいの高さのブカブカとした履物を思い浮かべてしまう。少なくとも私が子供の頃過ごしていた日本ではそうであった。しかし、ヨーロッパでは狩猟家のファッション・スタイルの影響もあり、ゴム長靴というとほとんどロングブーツのよう、色は大抵オリーブ色。そして北欧では、

「ハイキング・ゴム長靴(Vandringsstövlar)」

として売られていることが多い。

典型的なスウェーデンの森の風景。苔に覆われており、半分湿地のようなところもある。長靴が「レインブーツ」というよりも「ハイキング/ウォーキング」の靴 として売られている理由がわかるだろう。

さて、スウェーデンの長靴文化は実は既に日本にも輸出されている。スニーカーで有名なトレトンというメーカーがそれだ。私がスウェーデンに移り住んだ時に一番初めに目についた長靴がトレトンのものだった。スウェーデンではむしろスニーカよりもゴム長靴の老舗として有名。ちなみにスウェーデンの隣国フィンランドのNOKIA(携帯電話でおなじみ)も一時はゴム製品を扱っていた会社で、今はゴム製品部門は独立し、「NOKIANという名で長靴は売られている。いずれもスポーツ店のみならずショッピングモールのホームセンターにもあるぐらい国民的なブランドだ。ただし日本では

「レインブーツ」

として売られているのが面白いと思った。確かにレインブーツなのだが、決して北欧でレインブーツとは言わないからだ。トレトンの本国のサイトを見ると、単なる「長靴」というカテゴリーとして記されているに過ぎない。さらにその他ウォーキングとハンティング(ハンティングの時に履く長靴。ほとんどウォーキングのものと同様)のカテゴリーもある。トレトンの他にも、イギリスのブランド、ハンターの長靴も日本では売り出されているが、やはり同様に「レインブーツ」としてのキャッチがつけられていた。もったいない、アクティブな犬飼い主に向けて、もっとアウトドア志向の色も出せばいいのに、と思ってしまう。

スウェーデンにいると犬と森道を歩くことが多い。ぬかっているところが多いため、やはり長靴は季節、天候を問わず重宝なのだ。

話を戻すが、特にトレーニングが好きな飼い主なら、嗅覚作業やフィールド競技(ダミーを投げたり隠したりして、探させるなど)の練習を森で頻繁に行う。だから天候に関係なく、長靴を履く、というのがほとんど習慣になる。そういうわけで犬飼い主の「長靴」は単なるゴム長靴とはいえ、ウォーキングに適しており、ソールのクッション効果も抜群のもの。履き心地がとても良い(それ故にゴム長靴なのに値段もそれなりに…)。もちろん、夏の快晴の時に履く人はあまりいないが、 森にはぬかるみもあるし、湿地をある。と、やはり長靴のお世話になることに。私に関すれば秋から春にかけて犬散歩の時はほとんどゴム長靴だ。 アスファルトを歩くつもりでも、散歩をしながら、

「今日はなんかやけに犬と息が合っている!」

と思えば、

「じゃぁ、森にちょっと入ってサーチの練習でもしようか!」

と計画外で遊んでしまうことがある。 だから、 最初から長靴を履いている方がいいのだ。

犬の飼い主として私が長靴を重宝におもう一つの理由は特にキャンピングでテントに泊まっている時など。犬が朝一番に「しっこがしたい!」と用足しの催促をしてくることがある。慣れない場所で寝ていると、こういうイレギュラーな行動を犬は見せるものだ。と、 長靴にシュポっと足をいれて外に出るのは、眠い目をこすりながらスニーカーの紐を結ぶよりも楽チン。さらにテントの周りは草むらというパターンが多い。つまり朝露で足を濡らさないようにするためにも長靴は便利だ。

キャンプの際、ちょっとテントから出て犬と散歩、という時も、長靴を履いていれば、草むらの朝露に濡れないで済む。何と言ってもスニーカーと異なり、履く、脱ぐ、が簡単。狭いテント生活にはこの簡易さ、必須!

日本の都市部に住んでいても、犬の飼い主にはやっぱりウォーキング用の長靴は重宝すると思う。それこそ、雨が降っても 散歩に出なければならない。それから日本なら海岸、川や渓流に犬とやってくることもあるだろう。浅瀬なら、犬と一緒にザブザブと入っていくこともできる。犬の飼い主の皆さん、長靴の再発見をしてみるのはいかがだろう。とても便利です!

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者