文と写真:藤田りか子
スウェーデンにも犬の外飼いは確かに存在する。そしてそれ自体は 違法ではない。
「なんだ、動物福祉の国でその程度か!」
とその意外なドライさに驚かれるかもしれない。スウェーデンの動物保護法は手厚いのは確かなのだが、ただし 犬を極度に擬人化させた上に作られた主観的なものでは決してない。
その代わり 、例えば「犬が外に住むためには何が動物として必要か」その客観的視点が法律の中に盛り込まれている点で犬に親切なのである。
ほとんどは室内暮らしだけど…
犬の室内飼いという風潮が日本でも都市部では当たり前になってきた。
スウェーデンでもほとんどの人が都市・地方関係なく室内飼いを行っている。別に室内飼いにすべし、という保護法があるわけでもない。しかし密接に犬とつながりたい、と思えば、法律の有無にかかわらず、やはり人々は自然に室内飼いを選ぶものだ。
例外はある。たとえばハスキーやアラスカン・ハスキーといったそり犬たち。彼らはスウェーデンですら、年中外住まい。あの厚手の毛衣に覆われていれば、北欧の暖房の効いた屋内は極地を故郷とする犬には少々辛いものがある。
それからたまに狩猟犬も外で飼われていることがある。戦前までは、狩猟犬たちは獲物を捕るための、あくまでも「ツール」としてしか見なされておらず、つなぎ飼いなども当時は決して珍しくなかった。その名残が 狩猟犬を飼う人の間にも多少見られるのだ。しかし大半の狩猟家は室内で一緒に犬と住んでいる。そして今や単なるツールなどではなく、共同で働く相棒として大事にされている。スウェーデンとはいえ、犬を見る目は時代とともに変わっていったのだ。
外で飼うためのルール
外飼いでは柵で犬を飼うことになっている。犬が風雨をしのげる小屋もなければならない。さらに外はコンクリートなどではなく土であるのがほとんど。犬が土を掘るというような環境エンリッチメントも考慮に入っている。この写真に見られる柵はただし一時的な犬の外出し場所としてつかわれている。
さて、外飼いと一概に言っても、そこには必ず動物への保護が考慮されている。
「外飼いをするのなら、以下のルールを守りなさい」
という約束事が動物保護法の中に盛り込まれている。
「繋いだ状態で飼わないこと」
犬を繋いだままにしていいのは最高2時間まで。たとえ敷地を自由に走れるような仕組みになっていても、とにかく「係留」は許されない(室内飼いでもつないだままにして飼うというのは禁じられている。
繋いで飼えないので、犬の外飼いは、必然的に柵(檻)飼いになる。そしてその柵についてもいろいろ大きさとか環境について決まりがある(以下表を参照)。
環境については、まず犬が横になることができる高見の場所が添えられていること。高見台の高さについても最低50cmと定めがある(小型犬の場合、踏み台を登れるように踏み台を設けること、とも!)。さらに、柵には犬が風雨をしのげるような小屋があること。小屋もどんな小屋でもいいのではなく、きちんと断熱されているもの、と定められている。
また、柵内でずっと飼っている場合は、1日に一度は 用足しをするために外に連れ出すことが求められている。さらに、環境エンリッチメントを柵内に作るべき、ということも記されている
外飼いをするために、保護法にはこれだけ犬に対する「思いやり」が盛り込まれているのだ。
スウェーデンの動物保護法で定められている柵の大きさ。犬の体高によって面積が変わる。左列は犬の頭数。つまり25cm以下の体高の犬で一匹で柵内に住んでいたら、少なくとも6m2の(つまりたたみ2畳分!)の大きさが必要。二匹の場合であれば8m2。そして一匹増えるごとに4m2必要と記されている。
社会的なコンタクトも規則に
少し前になるのだが、 ピットブルとアメリカン・スファフォードシャーテリアのミックス犬を飼っている人が、飼い方(外飼いだ)が良くないと近所の人によって警察に通報された。それを受け県の動物検査官が到来。犬の行動を観察した。噛んだり引っ掻いたりする動作を見て
「これは明らかに刺激不足の状態で飼われていますね」
と飼い主にきちんと社会的なコンタクトを与えるようアドバイス。飼い主は明らかに 法に沿ってそれなりのサイズの柵で飼っていたのだが、それだけでは十分ではなかった。社会的なコンタクトなしに犬を飼っているという点で、保護法に反した(要は柵に入れっぱなしで飼っていた)ということになる。さらに、柵内には風雨をしのげる犬小屋もあるにはあるのだが、
「この犬種は短毛です。これでは寒さをしのぐのに十分な小屋ではありません」
とも検察官は指摘をした。小屋には十分な断熱材が備わっていなかった。何しろ冬は厳しい。犬が休む場所については、かなり細かく規定されている。
最後に付け足し。たとえ外で飼われていても規則的に運動を与える必要がある。このことももちろん法律に記されているのは言うまでもないことだが…。