北欧メガセミナーの楽しみ方。理路整然、でもどこか優しく… スウェーデンの文化を犬のトレーニングを通じて学ぶ

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文と写真:藤田りか子

10月7日から13日にかけて北欧スウェーデンのカリスマ的存在であるエヴァ・ボッドフェルトさん、イェシカ・オーベリーさん、バルブロ・リーデンさん3人のトレーナーによる「北欧メガセミナー」をプレイボゥ主催、ボルボ協賛で開催するのは、先日告知した通り。

今回はセミナーの楽しみ方をお伝えしたい。

スウェーデンの犬観をシェアしたく…

スウェーデンに住んでもう20年ぐらいになるのだが、スウェーデン独特の犬への考え方があるということには、かなり早い時点で気が付いていた。スウェーデンで犬に携わる人の間では、とにかく「犬という動物が持つ特性」を大切にしようという気風がどこにでも満ち溢れていた。生態学を大学で専攻していた私には、「なんとバイオロジカルに犬のことを考えるのだろう!」と、スンナリと馴染むことができた。と同時にそれは日本にいた時にはあまり経験をすることができなかった一つの感動でもあった。この観点はトレーニング、しつけ、接し方につけ、全てのスタート地点であった。今回 スウェーデンからトレーナーを迎えることで自分のこの経験を日本の皆さんとシェアできるのは、とても嬉しい限りだ。

犬の持つ特性を重んじるだけに、スウェーデン人はトレーニングをしながらも犬の感情を非常につぶさに読もうとする。実際、優秀なトレーナー・レベルにあれば国に関わらずどの人もこの点を把握しているのだが、スウェーデンの場合、優秀なトレーナーとは限らず、「フツウの飼い主」が割合全般的にそれを行っていることがユニークだと思うのだ。そして実はこの辺りにも、スウェーデンが他の国に比べて動物福祉のレベルが高い理由が隠されているようだ。感情を読むからこそ、その接し方を上手に調節できる術も得る。すると自然と犬とのコミュニケーションがうまくいき、上手い具合に共存ができる。容易に犬を飼ったり捨てたりする、という風潮ができにくくなるのだ。

感情に踏み込むこと

犬の感情に頼るがゆえに、あまり器具に頼らないのも、スウェーデン流だろう。この点はアメリカ式の思考とはやや異なるかもしれない(ステレオタイプの「アメリカ式」という意味で論じているので、すべてのアメリカ人と思わないでほしい!)。カチリと鳴るクリッカーを使うクリッカー・トレーニングなるものが流行り始めたのはスウェーデンでは90年代後半だが、実はその前からも(80年代)ポジティブ・トレーニングについて犬心理コンサルタントの伝説とも言われているアンデシュ・ハルグレン氏が広めていた。現在スウェーデンのトップトレーナーと言われる人は、皆一度アンデシュ・ハルグレン氏の門戸を叩いて、現在のトレーニング・テクニックの基礎を築き上げてきた。エヴァ・ボッドフェルトさんもその例外ではない。エヴァさんは、

「私はクリッカー・トレーニングのいいところは認めますが、でも犬との関係作りにおいては、クリッカーは使いたくありません。やはり犬の感情のあり方を《利用》して、築き上げるのが私のやり方でもあります」

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犬と歩調を合わせて歩く、というトレーニングについても、スウェーデンでは早くからポジティブトレーニングが行われていた

犬の感情に焦点を置くからこそ、犬が持つ「遊び」をもっと利用しよう 、という発想も生まれる。遊びの大切さをスウェーデン中に広めて話題のトレーナーになったのがイェシカ・オーベリーさん。もちろん、スウェーデンで遊びを取り入れたトレーナーは、イェシカさんが初めてではない。エヴァさん、バルブロさんを含め、どのトレーナーも皆同様に遊びを使って(つまり狩猟欲、社会欲を使って)トレーニングをしている。しかしあまりにも当たり前すぎて誰も口にしなかったことを改めてイェシカさんが指摘したことで、トレーナーはもとより、「フツウの飼い主」も遊びの大事さ、有効さを改め見直し、それを日常生活に取り入れ犬との絆作りに活用するようになったのだ。

異なるトレーナーの同じ観点

さらに面白いのは、エヴァさんもイェシカさんも(そしてバルブロさんも)、犬のアクティビティ・レベルを調節して犬をトレーニングするという点で共通していること。ただし二人のやり方は微妙に違う。エヴァさんはリュックサックという方法を使って犬の感情の高まりとか静まりをコントロールする。そしてイェシカさんは遊びを使って(遊ぶ時、遊ばない時というコントラストをつけて)コントロールする。ここでも注目されたいのは、犬の感情を理解したり読んだりすることで、協調関係を作ろうとする技である。

左はエヴァさんの提唱するリュックサック方法。右はイェシカさんが提唱するアクティビティレベルのコントロール方法。どちらの方法も目指しているところは同じ。犬のアクティビティ・レベルを一度落とすことにある。

犬の行動をコントロールするから一見ドライな犬との付き合い方にも見える。だが、実は温かい感情のやり取りがある。センチメンタルに犬を見ることもないのに、優しさは必ずそこにある。北欧メガセミナーでは、この北欧流というべき犬との付き合い方、そしてトレーニングのあり方のニュアンスをぜひ汲み取っていただきたい。

嗅覚を活かす!犬らしさを重んずる

そしてバルブロさんが講義するノーズワーク。アメリカ生まれのスポーツではあるが、現在のスウェーデンでの爆発的な人気ぶりを見ると、これもある意味スウェーデンらしさの表れでもある。犬を犬として過ごさせてあげる。そのために犬のメンタルを満足させることをさせる。そこで嗅覚遊びである。スウェーデンではノーズワークの他に、トラッキングで競うという非常に長い伝統があり、このスポーツも大抵はどの飼い主も一度は試しているものだ。

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スウェーデンの自然の厳しさが、人と動物への優しさを培った…?

今回の北欧メガセミナーへは、スウェーデンを代表する自動車メーカー「ボルボ」が協賛してくれているのだが、スウェーデンにおける人の犬への思いは、まさにボルボの車への思いとよく似ているのだ。

厳しい自然と向き合ったからこそできた人に優しい車…、

そして人の感情とは必ずしも一致しない犬と真正面に向き合うからこそできた犬(と人)に優しいトレーニング哲学…。

というわけで、10月におけるセミナーの一週間をぜひ楽しみにされたいと思う。

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ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者