アイコンタクトは通過点

文と写真:三井 惇

愛犬とトレーニングを始めると、こちらの言うことをちゃんと聞いていてくれるかどうかが気になります。
人間同士でも、こちらが話しているのに相手が違う方を向いていると、『ちゃんと聞いているのかしら。』と心配になってしまいますよね。

犬も、そっぽを向いているときに「オスワリ」や「マテ」などのキューを出すと、ちゃんとやってくれないことが多いものです。つまり、心ここに非ずということなので、まずはこちらに意識を向けさせるということから、「アイコンタクト」を取る練習をはじめるわけです。
こちらを向いているときに合図のキューを送って、必ずやってもらうようにすることがコミュニケーションの初めの一歩と言えるでしょう。

アイコンタクトはどうやって取るの?

犬と暮らし始めると、おそらく一番初めにすることは、愛犬に名前を付けることではないでしょうか。
名前は人間が勝手に付けるわけですから、当の犬の方はもちろんそれが自分の名前だとは思わないでしょう。
そこで、名前を呼んだときに、「なんか言った?」と犬が振り向けば、褒めたりおやつをあげ続けることで、その言葉を聞くといいことがあるに違いないと犬たちは思うようになるわけです。
もちろん、楽しそうに名前を呼んであげることが大切です。
いつも怖い声で怒鳴っていると、愛犬はその声を聞くといなくなってしまうかもしれません。

呼ばれた愛犬が飼い主に向かって跳んでくるようになってくると、名前を呼ばれただけでも飼い主の顔を見るようになります。
次は、飼い主の顔を見上げてくれただけでも褒めてあげるようにします。
場合によっては、おやつをあげることで、『見ること』=『美味しいものがもらえる』という図式が出来ます。
もちろん、愛犬が飼い主の顔を見るたびに、死ぬまでおやつを上げ続けることはありません。
愛犬にとってのご褒美はおやつだけではなく、飼い主さんの優しいスキンシップや声掛けだっていいのですから。
こうしていると「アイコンタクト」は自然に身についてくるわけです。

アイコンタクトが取れないと言うことを聞いてくれないの?

先ほど、愛犬が飼い主さんの方を向いていないと、言ったことをきちんとやってくれない。と書きましたが、正確に言えば、「愛犬が飼い主さんの方を向いている時は、飼い主さんの声に集中して耳を傾ける確率が高い。」ということです。

会社でPCに向かって仕事をしている人に声をかけて何かを依頼する場合、相手がこちらに顔を向けずに「了解」と返してきただけでも、きちんと依頼したことをやってくれますが、テレビゲームに夢中になっている子供に、「歯を磨きなさい。」と言っても、聞いていない可能性の方が高いと言うことと同じ原理です。

机に向かっている同僚はいわば職人なので、いちいち顔を向けて声をかけてきた人に集中しなくても、相手の言っていることを聞きとり理解することが出来ますが、訓練されていない若犬や子供は別のことに集中していると、一度に二つのことは出来ない可能性があるということです。

アイコンタクトは通過点

ドッグダンスでは様々なキューを立て続けに出していくので、アイコンタクトが取れている方がハンドラーとしては安心ですが、様々な動きの中には遠隔作業や、ハンドラーとパートナーの顔が合わないポジショニングもあります。
そんな時は、愛犬がアイコンタクトを取っていなくてもこちらのキューを聴いていてくれなければ一緒にステップを踏むことは出来ません。
レベルが上がって職人(犬?)のようになってくると、耳だけこちらに向けて、顔は向けずに動くことができるようになってきます。もちろんそのためには練習の積み重ねは欠かせません。

また、顔を向けることでポジションがずれてしまったりするために、敢えて顔は「前を見る」というキューを付けている人もいます。
当然すぎることを言うときに、「犬が西むきゃ尾は東」ということわざがあるくらい、顔を向けた方と反対の方にお尻が向いてしまうので、曲がって欲しくない時は顔もまっすぐ前を向いていてくれないと困るわけです。

つまり、何かを始める第一歩として「アイコンタクト」はとても大切なのですが、トレーニングもレベルがあがってくれば、目を合わせていなくてもきちんとキューを確認できる「職人(犬)レベル」が要求されるというわけです。
もちろん一般の家庭犬に「職人レベルの犬」は必要ないかもしれませんが、せめて自分から「アイコンタクト」を取ってくれる愛犬がいると、話がしやすくなります。

犬種や個体によっては、こちらが求めていなくてもじ~っと飼い主さんの一挙手一投足を見つめるストーカータイプもいますが、そう言う犬たちでさえ、周りの環境が変わったり、刺激が多い場所だったりするとなかなか飼い主さんに意識を向けるのは難しいもの。
普段から、声をかけたら振り向いてくれるくらいの関係が出来ているといいですね。

ABOUTこの記事をかいた人

三井 惇

ドッグトレーナー(CPDT-KA) ボーダーコリーと出会ってから生活が一変し、現在4頭目と5頭目のボーダーコリーとドッグダンスやオビディエンス(服従訓練)を楽しむ一競技者。