もう一つ冷凍庫がいる!

 文と写真:藤田りか子

犬と快適に暮らすために愛犬家ならでは、の必要アイテムというものがある。車もその一つだが、日本と北欧では若干異なる部分もある。その中でも今回は特大冷凍庫の話をしよう。

スウェーデンの家庭の台所には、たいてい冷蔵庫と並んで冷凍庫が別に一台備えられている。日本では二つの貯蔵庫がオールインワンで組み立てられているのがほとんどだが、これは北欧であまり見ることがない。冷凍庫と冷蔵庫、ルックスを揃えるためにペアで買うのが一般的だ。高さ180cmほど、庫内容量は250〜350L。貯蔵に困らない。住宅事情が厳しい日本に比べると、これだけでも圧巻なのだが、愛犬家の中には台所の冷凍庫に加えて、ガレージやベースメント(家庭の地下)にさらにもう一台エクストラ冷凍庫を持っている人も珍しくない。

スウェーデンの台所には、大抵冷蔵庫と同じ大きさの冷凍庫が備えられている。これだけ容量があるにもかかわらず…(次の写真へ続く)
さらにもう一つ冷凍庫を所有する人は愛犬家に多い。エクストラの冷凍庫はベースメントや物置、ガラージに置かれている。我が家の場合、馬小屋にある

この中に一体何が入っているのか。愛犬家のタイプによって二パターンに分かれる。一つは、犬にナマ食を与えている家庭だ。スウェーデンではナマ食にこだわる人が最近増えた。なにしろ、毎日の生肉だから一気に買って貯蔵する必要が出てくる。私の経験であるが、安い肉を探すために、スーパーをあちこち回る。キロで五百円ぐらいのセール品を見つければ、大量に買い込む。丸ごとチキンであれば、個数が増えればかなりかさばる。よってエクストラの冷凍庫が本当に重宝する。肉のみならず、狩猟期には仕留めたヘラジカ(北欧の典型的な猟獣。世界一大きなシカ)の脚の骨を大量にハンターからもらうことになる(一本脚をもらってもすでに3リットルのスペースをとる)。だからやはりとても台所の冷凍庫だけでは、やっていけない。

エクストラ冷凍庫が必要なもう一つのグループは、ズバリ、狩猟犬を飼っている人たちだ。仕留めた獲物を貯蔵する冷凍庫でもあるのだが、それはまた別のカテゴリーとして、ここに登場してもらうのは鳥猟犬(ガンドッグ)のトレーニングをしている飼い主たち。北欧では、実猟としてガンドッグをトレーニングする人に加えて、ドッグスポーツとしてガンドッグ・トライアルに熱中する一般飼い主も決して珍しくない。練習には、ダミー(布製の回収物品)を使うのがほとんどであるが、時には本当の鳥やウサギを使って回収のトレーニングを行う (ダミーと本当の獲物ではくわえる感触は全く異なるので、犬も慣れる必要がある)。 毎回練習の度に鳥を撃ち落とすわけにはいかない。なので、練習用として何羽かカモやキジを冷凍庫に入れて保存しておく。

 冷凍の鳥たち。狩猟トレーニングのために色々な種類が勢ぞろい。解凍しては使うのだ。

ちなみに皆、どうやってカモなどを手に入れるのかというと、自分で撃つ人は少数派で、多くは 狩猟家に売ってもらう。レトリーバーを飼う私も後者に属するのだが、なかなか手に入るものではないので、とても貴重だ。使っては冷凍庫に入れ保存そして解凍を繰り返す。3〜4回のリサイクルが限度で、それまでに鳥はボロボロとなる。しかし、命は無駄にされていないのだ。我が家の冷凍庫に眠っているのは、キジ、ハト、カモ、ウサギ、カモメ、カラスなど。 犬は獲物の種類によって回収が得意だったり不得意だったりするので(カラスなどあまりニオイが好きではないのだ)、バラエティに富んだ鳥が必要となる。やはりこれらすべてを保存するには、台所の冷凍庫だけではとても足りない。

ABOUTこの記事をかいた人

藤田りか子

ドッグ・ジャーナリスト。スウェーデン・ヴェルムランド県の森の奥、一軒家にて、カーリーコーテッド・レトリーバーのラッコと住む。人生のほぼ半分スウェーデン暮らし。アメリカ・オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物管理学科にて修士号を得る。 著者に「最新世界の犬種図鑑(誠文堂新光社刊)」など多数。新しい犬雑誌「Terra Canina(テラカニーナ)」編集及び執筆者